潜水艦ーーポーラータングというらしいーーはリザのお宝のお披露目がある時点で安全地帯までは逃げていたため、船はすでに浮上している。
海上特有の日差しと海の反射光が眩しい。
「甲板の掃除は当番制だから、リザの番が決まったらおれが教えるよ」
「ありがとうございます。……良い天気ですねぇ」
「そうだね。おれ、こういう日はよく昼寝してる」
「へぇ、羨ましいです」
「じゃあ一緒に寝ようよ」
「機会があれば、是非」
「あ、こっから入ってすぐが食堂ね。食事はコックが作ってくれる。美味しいよ!」
「私も頂けるんですか?」
「何言ってるの、当たり前じゃん!」
「……それは、楽しみです」
会ってすぐだというのに、獣というのが関係しているのか、船長の指示に対して適応が早い。すぐにいなくなる身なのだから馴れ合いはいけないと思いつつ、なごんでしまう。
「うん、楽しみにしてて!」
……まあ、この船にいる間くらいはいいかな。
花を飛ばす目の前の白熊の先輩に絆されていることを自覚しつつ、ハイと返事をした。
「あれ、ベポ……とリザちゃん」
「あ、シャチ」
「ど、どうもです」
「はは、そんな固くなんなって! 何やってんの?」
「リザを案内してんだ! おれ先輩だから! なー、リザ」
「そうですね、ベポ先輩」
「へー、先輩かー。……それいったらおれもだよな」
な?とシャチがリザを見下ろす。サングラス越し、リザは戸惑いつつもハイと答えた。
「よっしゃ!よろしくな後輩!」
「よろしくお願いします、シャチさん」
「先輩!シャチ先輩!!」
「……シャチ先輩?」
「ヨシ」
「えーおれはー?」
「ベポ先輩」
なぜか拗ねたようにリザを見るベポの要望に答えれば、また花のような笑顔。
後輩後輩と喜ぶ二人に、そんなに嬉しいものなのかと首をかしげたところに、また別の声がかかった。
「……なにやってるんだお前ら」
呆れたような声にリザが振り返れば、ペンギンと書かれた帽子をかぶった男が立っていた。
「あ、ペンギン」
「よっ!聞いてくれよ、俺たち先輩になったんだぜ!」
「はぁ?」
「な!リザ!」
な!と聞かれたのでとりあえずハイと返事。
ペンギンとはキャプテンの近くにいるのは見ていたし、シャチとの会話中に入ってきたこともあったけれど、直接会話したことはない。
少し警戒していたのが伝わったのだろうか、ああ、と零したのち、手を出してきた。
「ペンギンだ。こいつらが迷惑かけたみたいで、悪かったな」
「リザです。……いえ、案内してもらって助かってます」
リザは握り返した時に、自分のものではない警戒心を感じた気がした。
かといって不快感を抱くわけでなく、どころか寧ろ安心した。これが通常。ベポやシャチが異質過ぎるのだ。
その異質な一人と一匹のうち、一匹の方がペンギンに話かけた。
「ペンギンも先輩になったら?」
「いや、遠慮しとこう。柄じゃないんでな」
「えー」
「いいじゃねえかベポ。あんまり増えてもなんかアレだろ」
「うーん、そうだね! 先輩はおれたちだけでいっか」
「……」
「…ふ」
自分で拒否したとはいえ、ハブられている。
笑いをこらえるリザに気づいたのか、ペンギンから額を小突かれた。
じゃあ次は船室だ! と気を取り直して先導するベポに続くシャチの後を追う。そしてその後ろからペンギンが。
「ここが一番広い船室! だいたいみんなここで寝てる」
「へぇ。確かに広いですね」
普通の船ならともかく、潜水艦だ。開放感のある部屋が以外で、リザは目を瞬いた。
「うん、リザはおれの隣かなー」
「お任せします」
「いやお任せしますじゃねーよ!」
「流石に別室なんじゃないか?」
ほわほわと会話するリザとペボに突っ込む人間2人。
「そうなんですか?」
「そうなんですかって、もう少し警戒しろよ」
「うーん、前の船では船員の皆さんと同じところで寝てましたし……、そちらに従いますよ」
「えっ。マジかよ」
「何もなかったのか?」
聞かれてから改めて考える。
リザは決して無知というわけではない。経験こそないものの、男女のアレコレは知識として備えている。
しかし何分、リザの身体は女性的というには些か平坦だし、顔だって特別整っているわけではない。
リザは体のラインが全く出ていない服を見下ろし、両手を広げた。
「私ってこんなんじゃないですか。ですからみんな眼中にない感じでしたし、何よりお父さんが面倒ごとは御免だと言ったので」
昔を思い出しながら言ったリザに、ベポが首を傾げた。
「お父さん?」
「ああ、ジャンバールさんのことです」
「は? お前ら親子だったの?」
「それにしては似てないな」
「ああいえ、船員の皆さんが面白がってそう呼んでたってだけです。私もたまに呼んでたので、つい」
「ああ、なるほど」
納得したような、意外そうな顔で頷いたペンギンに、ふと思い当たる。
「ペンギンさん」
「ん?」
「ジャンバールさんが何処にいるかって分かりますか?」
「ああ、まだキャプテンと話してると思うが」
「そうですか」
リザは隠すことなく残念がり、深々とため息を吐いた。
「早く話したいんですけど……」
リザと違ってジャンバールはクルーになることを承知している。
いろいろ話もあるだろうし、時間がかかるのはわかるのだけれど、ジャンバールを拘束するローに対して沸々とした感情が沸きあがってきた。
……ローといえば。
「あの、一応確認なんですけど、ここはハートの海賊団ですよね?」
おそるおそる聞くリザに、3人は顔を見合わせ、そのうちペンギンが意地悪そうな顔で笑った。
「なんだ、それだとなんか都合が悪いのか?」
「あ、いえ。むしろ良かったと思います」
リザの答えに今度は3人が首を傾げた。
「だって、ハートの海賊団の宝に手を出したことはありませんから。……この船が潜水艦でよかったです」
ここ一年の荒んだ盗みを思いながら、遠い目をして言った。