リザの盗みの手口はシンプルだ。
@ 手頃な船を見つける
A なるべく人がいないタイミングで潜入・物色
B 短くて3分、長くても10分ほどで脱出
たったのスリーステップだが、実際にやると案外障害は多い。
まず商船。潜入自体は簡単なのだが、ひとが引っ切り無しに行き交うので盗みにくい。
海軍船は指示系統や割り振りがしっかりしている分、かえって隙を突きやすいが、海賊から取り返した宝がなければ無駄骨だ。
海賊船は難易度と見返りの振れ幅が大きく、見極めが大切だ。
盗んでしまえば一見ただの少女であるリザに疑いの目が向くことはないのだが、姿を見られるとまずいので盗みのときは全身を覆えるものをかぶっている。
大物であればあるほどリスクはあがり、その癖、宵越しの金は持たない主義だと言って宝物庫はショボいなんてことはザラだ。
たとえばジュエリー・ボニーのところは食費が嵩むのだろう、骨折り損だった。
シャッキーのところで偶然会った麦わらも、今はお金があるらしいので着いたのが今日でなかったら検討したが、その系統だろう。見張りも同様に笊な気がする。
そこまで話してから、リザは水の入ったグラスに手をつけた。
値段を確認せずに飲めるというのが嬉しくも、どこか寂しい。
「それから、かかっている賞金は貴重な情本源ですね。経験上、総合賞金額2億あるいは1億越えの賞金首がいるかどうかが大きな分かれ目です」
「え、ジュエリー・ボニーも億越えだよな。盗みに入ったってのは結構前の話か?」
「いえ、つい最近……シャボンディ諸島での話です」
「言ってることとやってることが違わないか」
ペンギンが怪訝な目でリザを見た。リザはさっと目をそらす。
「……ジャンバールさんの件があったから、かなり荒れてたんです。普段だったら余程の好機でもない限り選びません。まあ、向こうの見張りが酒盛りしてたんでチャンスと言えばチャンスですけど」
「で、なんで潜水艦はダメなの? うちは人数少ないうえに結構出払ってたよ?」
「潜水艦の窓や扉は潜水に耐えられるくらい頑丈ですし、まず扉の数が少ないです。出入り口の確保は絶対に必要ですから、扉の数は成功率に直結します」
「おお、確かに、扉はすくねぇな」
「お金自体は貯めるタイプなんでしょうけど、リスクが高すぎるんです」
「なるほどな。……貯めるタイプ、か。どうなんだろうな実際のところ。他の船の事情が分からないからなんとも言えないが」
「ちなみに一つの船からどれくらい盗めるんだ?」
頷いたペンギンの横からシャチか興味津々といった様子で身を乗り出した。
泥棒と海賊は根本から違うから、新鮮なのだろう。ジャンバールの船でも同じことがあった。それを懐かしみながらリザは答えた。
「そうですね。どの船にしたって振れ幅はあるんですけど、たとえばシャボンディ諸島に来れるくらいの海賊だと、ざっと所持金の平均は1億〜2億ってとこです。多いところはもっとあります」
「……1、2億」
「おー、じゃあ相当儲けるな」
「そうですね」
リザはお金で困ったことは人生で一回しかない。その一回が致命的だったのだが。
「あ、でも、船にある全部盗むわけじゃないですよ」
「? そうなの? なんで?」
ベポが首をかしげる。一緒になってシャチとペンギンと、周囲のクルーたちも揃って傾げている。
いつの間にか人が増えていることに今更驚きつつ、ノリの良いひとたちだなと意外に思う。
「一回の儲けってどれくらいなんだ?」
「海賊の話で言うと、全て盗むと出航できなくて島に居座られる上に流石に外部犯だと気づかれるんですよ。ですからどんなに多くても5割まで。お金に対してかなり執着している場合はぱっと見気付かれない範囲で盗みます。例外として、内部分裂してる海賊相手だと7割までにしてます」
「ほー、泥棒っていろいろ考えてるんだなあ」
所々で気の抜けた感嘆の声が上がる。
「私は追われるのが嫌いなので、余計なことまで気を回さなきゃならないだけですよ」
「民家には入らないのか」
「市民が持ってる財産なんて、たかが知れてますよ」
「船相手に大きな仕事やってるからそう思うんじゃないか?」
ペンギンにそう指摘され、今まで意識したことがなかったが船相手というのは大きな盗みになるのだろうか……。
「なんだ、随分馴染んだな」
「あ!ジャンバールさん!」
扉が開いたと思うと入ってきたのはジャンバールだった。リザは椅子から立ち上がり、跳ぶように駆け寄った。
話を打ち切られ置いて行かれたベポとシャチは不満気に2人を見やった。
「反応はっや」
「せっかく話してたのに」
「年季の差ってやつだな」
嬉々として話すリザを見下ろすジャンバールの目は、なるほど父親という言葉がピッタリだった。