やっと会えたジャンバールと話そうとしたところを何故かベポとシャチが連れて行ってしまった。
不機嫌なリザを他のクルーが窘めていれば夕飯の時間になった。
リザはむっとしたまま初の食卓に着いた。
大将から逃げ切り、新しいクルーを迎えたということで宴会のようだった。
ジャンバールとリザは新入り枠で隣に並べられ、クルーになる気はないのだがと思いつつ、ジャンバールの隣を歓迎した。
「ようやく話せますね」
「そうだな」
暫く雑談していると、自然とかつての仲間たちの話になった。
「そうか、あいつらは先に進んだか」
「はい。今どうしているのかは分からないですけど……」
「あいつらのころだ、元気でやってるだろう。……おまえはどうして行かなかった?」
誘われなかったわけじゃないんだろう。見透かしたジャンバールに問われたが、リザは何を当たり前のことをかえって不思議に思った。
「私はジャンバールさんと居たかったからあの船に乗ってたんです」
座っていても身長差はまったく詰まらない。久しぶりの角度に首が痛めながらも、リザはジャンバールを見上げた。
「確かにあのひとたちのことも好きでしたけど、何事にも優先順位があります。
あなたを助けないまま船出するなんて選択肢は、私にはありません」
言い切ってから、リザはハッとした。今のでは、ジャンバールのことを置いていった彼らを否定することになる。それは本意ではない。
リザは慌てて言葉を継ごうと口を開いたが、声になる前にジャンバールの手が制した。
帽子を外したリザの頭を簡単に押しつぶせるくらいに大きな手が、見た目にそぐわない微かな圧力でリザの頭を撫でる。
「曲がりなりにも船長だった身だ。あいつらの気持ちは分かっているつもりだ」
穏やかな声音でそう言われ、リザは唇を噛みしめた。
泣きそうだ。
「1年前のあのときだけで、随分と救われてるんだ。感謝しこそすれ、恨む気持ちはない。……あいつらも、おまえもな」
とん、と肩を叩かれて、ついに涙腺が決壊した。
「〜〜っジャンバールさんっ」
リザは感極まってジャンバールに飛びついた。
めいっぱい腕を広げるが、到底回り切れない。リザは顔をぐりぐりと押し付ける。
せっかく新しい服に着替えたところを悪いなと思いつつ、離れる素振りはちらとも見せない。
「あいつらはともかく……お前にそこまで好かれているとは知らなかったな」
「……からかわないでください」
何処となく楽し気なジャンバールに鼻声で文句をつけた。
とめどなく流れていた涙も漸く落ち着きを見せ、名残惜しく思いながらジャンバールから離れた。
「お、やっと泣き止んだか」
「シャチ先輩? いつの間に居たんです?」
「最初からいたよ!」
反対隣りで杯を傾けるシャチが扱いに抗議すると、その隣に座っていたペンギンも笑った。
「本当にジャンバールしか目に入ってなかったんだな」
「先輩たちがジャンバールさんと話すのを邪魔したからですよ」
サングラス越しにシャチを睨みつけると、悪い悪いと反省の色が見えない返答があった。片割れのベポはというと、ジャンバールの反対隣りで彼に絡んでいる。
「ジャンバール、もっと飲めー!」
「ああ、貰おう」
宴会と言えば酒だ。
リザは酒に弱いと言えど、匂いだけで酔うほどではない。しかし、飲み物が酒しかないというのは少し困った。最初に出されていたオレンジジュースはもうない。
「よう、リザ」
リザがきょろきょろテーブルを見渡しながら飲めそうなものを探していると、この船のコックがリザの下にやってきた。
「お疲れ様です」
「おう、味はどうだ? 口に合ったか?」
「はい、とてもおいしいです。そうだ、お水をいただけませんか? お酒しかなくて」
「なんだリザ! 酒飲まねえのかー!」
「わっ」
酔いが回っているらしいシャチが肩に手を回してくる。コックが腕を解いてくれた。
「飲めないわけではないんですが……酒癖悪くて」
「そうか、じゃあ水持ってきてやるから待ってな」
リザの願いを聞いて、コックが厨房に戻っていった。
水分を確保できてほっとしていると、「気にしなくてもいいんだぞ」とシャチと席を入れ替えたペンギンが頬杖をつきながら言った。
「うちのやつらは酒癖良いやつの方が稀だからな。なんならキャプテンぐらいのもんだぞ」
「ペンギンさんもですか?」
「どうだろうな?」
にやりと笑う彼も、案外既に酔っているのかもしれなかった。
もしかしたらリザを警戒して抑えているだけで、普段はシャチ同様騒ぐたちなのかもしれない。机上で一発芸を繰り出すシャチを横目で見ながらそう思った。確かにあれは酒癖が悪い。
ただ、リザの場合、問題は他にある。
「酔いすぎると記憶が飛ぶんですよね」
「ああ、そういうタイプか」
「それに相当な絡み酒らしくて、止められてるんです」
「ジャンバールからか?」
「いえ、他の……って、あれ、ジャンバールさんは?」
名前が出たので振り返ると、ジャンバールの姿がなかった。
「リザ、水だ。……おまえの親父なら、ほら」
戻ってきたコックが水を渡しながら顎でしゃくって部屋の中心を示す。
机が退けられたそこではいつの間にか何らかの余興が始まっていた。相手はベポだ。取っ組み合っている一人と一匹の周りをクルーたちが野次を飛ばしている。なるほど、みんな酒癖が悪いとはこういうことか。ジャンバールはまだ酔いが回っていないようだが、後輩は先輩に逆らえないのだろう。
「ありがとうございます」
「おう、気にすんな!」
リザが水を受け取ると、コックは一緒持ってきていた追加の料理をもって、中心に向かっていった。
少し前まで泣いていた余波で身体が熱い。周囲が興奮しているせいもあるだろうが。
コックが持ってきてくれたグラスは冷たくて気持ちいい。
頬にグラスを当ててから、リザが乾いた喉を潤すべく一気にグラスを煽って――喉が、焼けた。