「ぐっ」
「リザ!? おい、どうした!?」
突然身体を折って苦しみだしたリザの背にペンギンが触れ、顔を覗き込む。
リザは苦しそうに顔を顰めて息を詰まらせている。

「けほ、けほっ」
「大丈夫か!?」
「どうかしたか」
「キャプテン、リザが」

ベポ対ジャンバールがヒートアップする中心から離れてきたローがペンギンの声に気付いて近づいてきた。
喉を抑えて苦しむリザを見て、眉を寄せた。

「何があった?」
「分かりません。水を飲んだら突然……ちょっとコックに話を聞いてきます」
「わかった」

はっとしたペンギンが中心に向かっていく。入れ替わるようにローがリザの隣へ。

「……」
「話せるか」
「……、あ、れ。なんで、けほ、きゃぷてんさ、?」

せき込みながらぼんやりした声でリザが問うが、ローは無視して診察を始めた。

「咽ただけには見えねぇが、異常はあるか?」
「喉が、」
「喉?」
「う、水、水を」

言いながらリザが手を彷徨わせたので、ローは手元にある中で一番安全だと判断した手持ちのグラスを渡した。
そしてリザが辛うじて置いた机のグラスに鼻を寄せる。
ローの許可なく毒物混入というのは考えにくいが、体質で合わないものもある。

「……ただの酒じゃねぇか」

試しに一口含んでみたが、ローには何の変哲もない酒に思えた。
眉根を寄せてリザに本当にこれが原因なのか確認しようとしたとき、ペンギンが戻ってきた。

「キャプテン! それ酒です!」
「そうみてぇだな」
「いやそうみてぇだなって……ってキャプテン知らないんだった――あ゛っリザ! それ――」
「あ? 何をだ?」

しまった、と顔を青ざめさせたペンギンがリザを止めようと手を伸ばしたが、大所帯用の大きいテーブルに阻まれ届かない。

「あ――」

ペンギンがグラスを煽ったリザと同様に天井を仰いだ。片手を顔に当て、やってしまったと自らの行動を悔いた。
ローに聞きに行かせるという選択肢は結果が分かっていても選ばないが、事情を説明していれば。
リザは再びうめいて、机に倒れた。
「ペンギン」
「……リザは酒が弱いらしくコックに水を頼んだんですが、酔っていたコックが酒を出したみたいで」
「宴会で酒以外に何呑むってんだァ!」
「そうだそうだー! おっよしっそこだ、いけジャンバール!」
「この通りです」
「つまり慣れねえ酒で喉をやったてことか。……くだらねえな」

ローがじろりとリザを睨む。
リザはローの渡したグラスを持ったまま、机に突っ伏している。半分は残っていたはずの中身が空になっていた。
ため息をひとつついてから、ローはリザの酒を飲み干した。
なるほど、水と言ってもいいくらいに弱い酒だ。
ペンギンが机を迂回して、ローとリザの下へやってきて、テーブルで一番いい酒をローのグラスに注いだ。

「人騒がせなやつだ」
「まったくです」

それから眼前で行われる余興をつまみにふたりで酒を飲み、余興が乱闘に変わるころには手の届く範囲に酒がなくなった。

「あ、あれ入ってっかな」

ペンギンが立ち上がって移動してから、テーブルの奥にあった瓶に手を伸ばす。椅子の上で膝立ちになり、リザを蹴りそうになりながらどうにか酒をつかみ取った。

「よし――おわ!?」

突然下に向かって力を掛けられ、不安定な体勢だったペンギンがテーブルとイスとの間に落ちる。咄嗟に受け身はとったが、帽子が視界をふさいだ。
「な、なんだ?」
狭い空間で身を捩りながら帽子を上げて視界を開くと、眼前にはリザの顔があった。
「は?」
虚ろな目をしているリザの奥に座るローが見えたが、すぐにリザによって見えなくなった。
「おい、リザ?」

ペンギン同様テーブルと椅子の間に身体を滑り込ませたリザは、ペンギンの上に馬乗りになっている。
頭を上げれば確実にぶつけるほどに狭く、リザよりも格段にからだの大きなペンギンに至っては椅子を退けないとこれ以上身動きできない。しかしその椅子には現在ローが座っている。

ここから出るにはリザをどうにかしなければ。

そう結論付けたペンギンは、だらりと首のすわっていないリザを再度見上げた。――そして。

「ふへ」

リザの口元から一筋、透明な液体が流れた。単純ながらも利発そうな昼間のリザはどこへやら。
止められてるんです。
ペンギンはその言葉の意味を嫌というほど実感することになる。