シャワーを終えたリザは、服の中から服を取り出したあと、シャワー室から出た。
張り紙をはがして元の部屋に戻っていると、道中、ローが壁にもたれていた。
「……あれ、キャプテンさん?」
リザが声をかける前から気づいていたらしい彼は、特に驚くことなくこちらを見据えた。
シャワー室に用だろうか。だとしたら張り紙をしていて正解だった。
リザのその予想とは裏腹に、ローはリザを待っていたらしかった。
「船には慣れたか」
「……慣れるつもりは、なかったんですけど」
第一声。リザはそう尋ねられ、答えに窮したが、なんとか答える。
言外に絆されたと言ったリザをローが鼻で笑う。
「あいつらは距離の詰め方が早いからな」
「本当に。……あなたの一声がそもそもの原因でしたね、恨みます」
「好きにすればいい」
リザがローを睨むがさらりと流された。
「おまえの扱い方についてはジャンバールから大体聞いたが、おまえの話も聞いておきたい。
どいつもこいつも寝てやがるからな、おれの部屋に来い」
ローが壁から背を離し、リザに背を向けた。
リザはこのままでは押されてしまうと焦り、その背中に声をかけた。
「私、次の島で船を降ります!」
歩みを止めたローが振り返り、リザを見下ろした。
冷たい灰色の双眸が何を思っているかなんて到底分からないが、関係もない。
「私は海賊にはなりません」
「……」
「あなたのクルーにはなりません」
「……そうか」
ローがそう言った、次の瞬間。
リザの右足が不思議な感覚に襲われた。思わず確認すると、そこにあるはずの膝から下は存在しなかった。
「え」
「おまえはバカか」
焦った顔のままローを見上げると、とても勧誘している人間に向けるとは思えない凶悪な笑みを浮かべリザを見下ろしていた。
「おまえがこの船に乗ることは決定事項だ。おまえがどう思うかは関係ない」
「え、ええ?」
「おれが何の意味もなく得体のしれないやつ船に乗せるわけがねぇだろ。おれには金が要る。おまえは良い金蔓だ」
「金蔓……」
ジャンバールの船でもそういう扱いを受けたことがあるのを思い出し、リザは遠い目をした。
否、あのときはリザが自分を連れて行くことの利点として挙げたからいいのだ。
しかしこう、正面切って率直に言われるといっそ清々しいとさえ思えてくるから不思議だ。少なくとも表では仲間扱いして裏でそう言われるよりよほどいい。
リザがローの言葉によってじわじわとダメージを負ったり回復したりしていると、リザの足を投げて弄んでいたローが「だが」と言った。
「言っただろ。おまえの面倒な事情は昨日ジャンバールから粗方聞いてる」
「……?」
「クルーじゃなくていい。ジャンバールの船と同じだ。同行人だったか、それでいい」
海賊にならなくていい。船に居ろ。リザの耳が確かなら、今、ローはそう言った。
更に可笑しなことに、昨日のうちからそう決まっていたようにさえ聞こえる。
リザはぽかんとした顔でローを見返す。
確かにそれは、100点満点のリザを留める回答だった。しかしそれがローの口から飛び出したことが不思議でならなかった。厳格に上下関係があるこの船の中で異分子を作り出す行為をローがしている。はっきりいえば、まるっきり不似合いだ。
「……え……と?」
「でなけりゃコレは返さん」
「さらっと脅しましたね……!」
「ふん。で、どうする」
口角を上げ不敵に笑う彼の頭に断られるという可能性はないらしかった。そして実際、リザに与えられたのは一択だけだった。
「……仕方ないですね、足がないと泥棒やっていけませんし」
リザはローの掌で転がされたことに拗ねながら、俯いてぽつりと言った。
ローはリザを鼻で笑ってから、持っていた右足を放り投げた。
「うわっ」
「次また同じこというようならバラすぞ」
「バラ……?」
「わかったか」
バラすとは一体どういう状態なのか気になったが、リザはとりあえずいつものようにハイと返事をした。
「いや、これどうやってつけるんですか?」
「くっつけときゃ付く」
「ええ……」