あれから数日。
ローからリザがハートの海賊団のクルーではなく、同行人として船にいることが伝えられたが、クルーたちは揃って首を傾げた。

「つまり、この船に乗るんだろ?」

シャチに聞かれ頷くだけで、ならいいやと解散した。
逃げ出さないだけましだなとペンギンさえ受け入れているようだった。
もしかしたら彼らにはリザの立場がどう変わったのか、分かっていないのかもしれなかった。分かっていたとしても彼らにとっては些事なのか、まったく関心を持たれなかった。
どんな反応をされるのか恐々していたリザにとって、大袈裟に言えば救いだった。

ハートの海賊団一行は、海軍の意識が天竜人の件から白ひげとの戦争の方に変わったのを見て、その戦争を見るべくシャボンディ諸島近海に留まっていた。
天竜人や人間屋、ひいてはシャボンディ諸島から離れたいというのがリザの本音だったが、ジャンバール本人がまったく気にしていないので、リザも何も言わなかった。

ジャンバールの救出。ゆっくり話す。一緒に航海。リザの以前からの目標はすべて達成された。
そこでふと思い当たるのがシャッキーのことだ。
挨拶はしていったものの、こんなに近くにいるのだからまた会えないだろうか。
シャボンディ諸島を見ていると、そういう欲が沸々と湧いてくる。

リザは海賊にも海軍にも追われる立場ではないため、自由に島内で好き勝手していた。島にたどり着けばどうにでもなるが、流石に海上から一人で行くのは無理だ。
だからと言って、ハートの海賊団は追われる身だ。彼らがシャボンデイ諸島に近づくのは危険だ。

「リザ!」
「先輩?」

そんなことを考えながら遠くのシャボンディ諸島を見ていると、ベポが駆け寄ってきた。

「どうかしました?」
「今ヒマ?」
「見ての通りです」
リザは両腕を広げて手持ち無沙汰を示した。
「じゃあちょうどよかった! 前に甲板掃除のこと言ってたでしょ? やり方とか細かいとこ、今教えようと思って」
「あ、助かります」

ベポの申し出に、リザは素直に感謝した。
船内を案内してくれた時もそうだが、彼のお陰でかなり暮らしやすくなっている。思えばシャチや他の船員たちと馴染めたのも彼のお陰である。

「これで終わりかな」
「…け、結構大変ですねぇ」

掃除のやり方は前と殆ど変わらなかったが、潜水艦特有の部分もあり、初めて知ることも多かった。そして予想以上に重労働だった。ベポの話だと潜水した直後はこれ以上に大変だとか。果たしてリザに熟せるのか。

「まぁ慣れればなんとかなるよ」

不安を抱えるリザに、ベポがさらっと答えた。リザはうんざりした顔で掃除道具を見た。

「それって諦めの域じゃないですか……」
「無理そうだったらおれ手伝うよ」
「じゃ、先輩が当番のときは私が手伝いますね」
「へへ、実は今日だったりするんだ」
「なんと」

教えるという名目で手伝わされていたらしい。
一緒にやろうと提案してくれるベポに怒りはしないものの、純粋なだけではない彼に海賊らしさを垣間見た。
見かけのせいで忘れがちだが、正真正銘彼は海賊なのだ。ハートの海賊団の悪名はリザの下にも届いている。麦わらの例を考えると必ずしもすべてが真実というわけではないのかもしれないが、目的のためならひとつの島を潰すことさえ躊躇わないのだろう。
素直に告白したあたり悪いひと(クマ)ではないのだろうが。
ベポの強かさをそう結論付けていると、ベポが海を眺めて言った。

「今日は良い天気だね」
「ですね」

リザもベポと同様に海を見た。水面が陽の光を反射して眩しい。

「まだ甲板濡れてるけど、乾いたら昼寝しよっか」
「おお、いいですね」

そういえば初日にそんな話をしたなあと思いながら、ベポの提案に頷いた。

「それまでなにしよっか」
「うーん、しりとりでもします?」
「おれ弱いからなー」

手持無沙汰なのはリザだけではないらしかった。突然の出航だった上に先に進むわけでもないのでやることが少ないのだろう。ベポとリザがのんびり話していると、別の暇人が寄ってきた。

「お前ら何してんの?」
「あ、シャチ」
「何しましょうかって話してたとこです」
「することないよね」
「じゃあ釣りでもするか?」

釣り。よく見ればシャチは片手に竿、反対の手にバケツを持っていた。「いいね。やろうよリザ」とベポが誘ってくるが、不安要素が一つある。

「釣りですか。やったことないんですよね」
「え、やったことねぇの?」
「ハイ。前の船ではヒマなときは持ち物の整理してましたから」

今はその持ち物の大半が没収されてしまっている。リザはうーんと唸ったが、ベポはかえって乗り気になったようだった。。
「じゃあ尚更やらないと!」
ほいほいっと二人揃ってあっと言う間に釣り具を用意し始めた。迅速な手際に感心しながら、平和だなと空を仰いだ。