「ふ、わぁああ」
何度目かの眠気に襲われ、リザは大きく口を開いた。釣竿を持つ反対の手で押さえるが、片手では覆いきれていない。
「釣れないねえ」
「ふれまへんねぇ」
「根気ねーなーリザは」
「泥棒は常に俊敏に動く生き物なんですよ!」
シャチに鼻で笑われキッと睨みつけたが、涙目なので迫力も何もない。反対隣りに座るベポが「あ」とリザの竿を指さした。
「あ、リザ。引いてるよ」
「わっ、ほんとですね」
シャチを睨みつけていた視線を竿の先にやると浮き沈みしている。
慌てて両手で持ち直し引っ張るが持ち上がらない。
「おっも!」
ふいに強くひかれ前のめりになる。縁に座っていたため落ちそうだ。
ふたりを呼べば、初心者のために両隣に座っていたふたりがそれぞれの竿を上げた。ベポの方に小さな魚がついていた。小さいと文句をつけつつ、ベポが釣り針から小魚を取り外している。先にシャチがリザの竿を持った。
「情けねぇなーって重っ!!」
「なんですか人のこと言えないじゃないですか先輩!」
リザが再びシャチを睨んだ。
「うるせっ。おいベポおまえも手伝え!」
「アイアイ!」
三人で「せーのっ」と声をそろえて引っ張るが持ち上がらない。
リザも力がないわけではないが、シャチとベポが加わって持ち上げられないのはどう考えてもおかしい。だが魚影は見えている。
釣り慣れしておらず戸惑っているリザとは違い、ベポとシャチはかなりの大物と確信し、目を合わせて頷きあった。
「あ、ペンギンペンギン!おまえも来い!」
首を巡らせたシャチがペンギンを見つけ呼び寄せる。対してペンギンの方からはベポの巨体によって何をしているのかわからなかった。
「なにやってんだ、お前ら」
「釣りです!」
「あ? リザもいたのか」
「いいから早くしろよ!」
「わかったわかった」
焦れたシャチに催促され、ペンギンがやってくる。
場所をずらして、左にシャチ、右にペンギン、後ろにベポ、そして最初に釣竿を持っていたリザがその中心にいる。
一本の釣竿を四人で引いている団子状態のせいで、船内からはなにやってんだと好奇の目で見られていた。しかし釣りに必死なリザ達は気付いていない。
「釣れねー!!」
「釣れないね」
「釣れないな」
「釣れませんねえ」
呑気に言うと、目敏く気づいたペンギンがわき腹を小突いた。
「おまえさっきからほとんど引いてないよな?」
「正直私ここに居ても意味ない気がしてます」
「確かにな」
ペンギンに答えるとシャチから同意され、他人に言われるのはむかついたのでシャチの足を踏んだ。いてえとシャチが力を緩めると竿がさらに引かれた。それと同時に魚影が遠ざかる。中心にいるリザが自身の身体ごと引かれたことに焦り、ベポに向かって叫んだ。
「ベポ先輩! ジャンバールさんはいませんか!」
「キャプテン?」
「いや、ジャンバールさんですって!」
話を聞いてくれないベポにリザが抗議するが、ベポは聞いていない。
「キャプテンもやる?」
ローの最たる側近であるベポが気さくに誘う。
リザはそこでようやくローが外に出てきたことを知った。団子状態が余程目を引いたのだろうか。
ローがそれに面白そうに肯定しているのを聞きリザはぎょっとしたがそれ以上にベポの力が弱まりいよいよリザの足が浮いた。
「わわ、っと」
ふいに力が加わり宙に浮いていた足が地に着いた。ベポとリザの間に滑り込んだローが引っ張ったらしかった。ほっと一息ついていると、
「えーっと、ジャンバールはいないね!」
と遅れて答えが返ってきた。
肩を落とすリザとは反対に、
「でもキャプテンがいるよ!」
「「キャプテンが来たなら百人力だ!」」
と他がはしゃいだ。
キャプテン効果というのは気持ちの問題ではないらしく、今まで苦戦していたのが信じられないほど引いている。
数日前の一件でローのことが苦手なリザは、彼との距離の近さに息を詰まらせた。
リザがローに意識を取られた瞬間、引かれる力が消え、その反動で後ろによろめいた。
リザの視界には釣りで釣れるもんなのかと言うほどに大きな魚が宙を舞っていた。
きらきらと水が太陽光を反射して、すごく綺麗だった。
「あ、おいリザ!!」
シャチの声を聞いたのは、魚というにはあまりに大きな物体がリザの眼前に迫った後だった。
「ぐは…っ」
避けきれなかったリザは魚の下敷きに。
甲板に後頭部を打ち、リザの視界はブラックアウトした。