「いつまで寝てるつもりだ」
リザは激痛で目を覚ました。
ゴンと頭が揺れる。思わず目を開けると鞘の先が目の前にあって少し後ずさる。
ぱっと刀伝いに上を睨み上げる。リザの数十倍鋭い目つきで睨み返された。
慌てて目を反らした先にオレンジ色のなにかがあった。ずっと頭に敷いていたらしい。クッションだろうか。だがなぜ甲板に……。
「……なんですか? これ」
「ベポだな」
「えっベポ先輩!?」
それをもふもふしながら聞くと、予想外の答えが返ってきた。跳ね起きてローの鞘の先に頭を打ち付けた。
「あだっ」
「鈍くせぇ」
「なん……っ」
「あんなのも避けられねぇのか」
「あれは周りが囲まれてたせいですよ!」
嘲って笑うローにリザが食らいつくが、暖簾に腕押しだ。鼻で笑われて終わりである。
「飯の時間だ。さっさと中に入れ」
「え、もうそんな時間ですか?」
どれだけの時間気絶していたんだ。
リザが呆然と赤い海を眺めていると、後頭部に衝撃が走った。
たん瘤が出来ているらしく、そこを刀の先で小突かれている。瘤をピンポイントで狙っているのは意図的なのか。
「中に入るぞって言ってんだろ」
「ほらリザ!はやく!」
「あれ、ベポ先輩いつのまに……」
気付けばローの隣に立ってリザを急かしているベポに首をかしげる。何時まで経っても立ち上がらないリザに、ローが刀を構えた。はっとしたリザが頭を押さえながら立ち上がった。
「わ、わかりましたから! 暴力反対ですよキャプテンさん!」
慌てて駆け寄っていくと、リザを見降ろすローと目があった。ローの眉間には皺が刻まれていて、何かしたか顔を青くして首をかしげた。
「キャ、キャプテンさん?」
「……それ」
「はい?」
「その呼び方、どうにかならねぇのか」
「……? ……あ、キャプテン先輩?」
「違う」
もしかしてと思い口に出してみると眉間のしわはさらに濃くなり、何が不満だったのか、がしりと頭を掴まれた。彼の中指が瘤に触れている。
「い、いたい! 痛いです!」
「痛くしてんだから当たり前だろ」
「やっぱりわざとなんですね!? なんなんですか。じゃあなんて呼んで欲しいんですか!?」
「なんでもいい」
「わがままですか!」
「何か言ったか?」
「ひぃっ……うう、キャプテンさんが一番呼び易いんですけど」
「それはやめろ」
「……ベポ先輩なにがいいと思います!?」
あまりに理不尽な物言いに、リザはベポに助けを求めた。
早く食堂に行きたそうにしているベポはそわそわしながら投げやりに答えた。
「キャプテンでいいんじゃない」
「呼び捨てるのって苦手なんですよ」
これは育ちの問題なのでどうにもならない。
「じゃあローさんとか」
「ローさん?」
ベポの言葉を反復しながら未だに頭を掴んだままのローを見上げて、首を捻る。
「……うーん、違和感すごいですね。あ、トラファルガーさんはどうですか?」
リザの言葉に、ローは呆れたようにため息をついたあと、好きにしろと言って頭を離した。許容範囲らしかった。
「二人とも、早く行こう!」
「ハイ。……ていうか遅れたのってどう考えてもトラファルガーさんのせいですよね」
「何か言ったか?」
「イエなにも」
再び伸びてきた手を躱す。視線を逸らして前を向き、はっとした。
「ジャンバールさん!」
扉から大きな体を出したジャンバールを見つけ、リザは顔を綻ばせた。
ローのことなど忘れてしまったかのように駆け出したリザの背を、ローは見ていた。