あれ、ベポ先輩にペンギンさん。ここにいたんですか。
ああいえ、用はないんですけど。
……あ、ちょっと余計なこと話さないでくださいよシャチ先輩。
え、二人も聞くんですか? 別にいいですけど、そんなに面白くないですよ?
物心ついたばかりのとき、私に親はいませんでした。孤児ってやつですね。まあ、この時代じゃよくある話です。
親の故郷なのか、単に流れ着いただけなのかは知りませんが、私はある島の孤児院で育ちました。
大人はひとり、子供は10人ほどの、小さな孤児院でした。
何の変哲もない孤児院でした。
ただひとつ、老齢のシスターを除いて。
シスター。ええ、彼女はシスターと呼ばれていました。
彼女はこどもが大好きで、若いことから孤児院を作りたいと思っていました。
けれど彼女も同様に孤児で、子供たちを養うほどのお金はありませんでした。
だから彼女は若いころに島を飛び出し、海へ出ました。
彼女がお金を稼ぐ方法として選んだのが、泥棒です。
後に子を育てる人間として、不殺だけを誓って。
……シスターなのに盗み?
まあ、実際あのひとに信仰心なんてものはなかったと思います。生まれと、身分証明のために名乗っていただけかと。
18の頃から30年。
つまり彼女が48のとき。
故郷に戻った彼女は、孤児院を建て、周辺の島も含めて沢山の子供を引き取りました。
……そうですね。海賊王たちの時代でしたから、相当海は荒れていたはずですが、適性があったんでしょうね。
は? 私? やめてください! シスターがおかしいんですよ、私に同じものを期待しないでください!
んん、話がそれました。
赤ん坊だった私は孤児院が開かれた数年後、シスターから拾われ、私は彼女の最後の子となりました。
さて、シスターに拾われてから10年。私は何の不自由もなく育ち――私が10歳の時、孤児院が全焼しました。
……海賊? ああ、違います違います。確かに彼女は大勢の海賊から恨まれていましたが、この炎上とは関係ありません。
たまに孤児院で催しをやってて、その一環のキャンプファイアーでうっかり燃え移っちゃったんです。
何分古い建物だったんで、ただのうっかりです。
院の中には誰もいなかったので怪我人はいませんでしたけど、彼女が貯めていたお金は燃えて、住むところもなくなって、その日の生活費も失いました。
そういうわけで、彼女は海に出ることにしたんです。
先立つお金は院を出ていたひとが出してくれました。
子供たちは島の人たちにそれぞれ引き取って貰うことになったんですけど、私がまあ盛大に駄々捏ねまして。
……なんですかその眼は。仕方ないじゃないですか、子供なんですから!
まあ、色々あって、私は彼女の弟子として一緒に島から出ました。
彼女は当然のように盗みで生計をたて、見様見真似で彼女の技術や知識を身につけました。
ですからシスターと私の盗みの手口はほとんど同じですよ。シスターほどうまくはいきませんけど。
二度目の航海中、彼女は海賊だけでなく海軍や商船にも手を出し始めました。
彼女にとって育てるべき子はもういませんでしたから、気にする必要がなくなったんでしょうね。
私が15のとき、彼女は亡くなりました。
老衰です。天寿を全うしました。
たぶん、彼女が私を最後に子供を引き取らなくなったのは、一人前に育てられるのが私で最後だとわかっていたからだと思うんです。……いえ、そんな気がするだけです。
その後、私は一人で旅を続けました。
そして、ある島でジャンバールさんと出会いました。
酒場で情報収集していたんですけど、シスターがいたときの癖が抜けなくて、周囲の警戒が甘かったんです。話に出てきた海賊が近くにいたことに気付きませんでした。
その海賊は結構酔っていて、酷い絡まれ方をしました。
気性の荒い海賊で、話をしていたことにアレコレ難癖を付けられ、流血沙汰になりました。
私も危うく殺されかけて、そこをジャンバールさんが助けてくれたんです。
海賊に絡まれたところを助けてくれたってだけでも驚いたのに、それが海賊だっていうんですから、本当にびっくりしました。
ジャンバールさんはあんな見た目ですし、大きいし、まぁ最初は怖かったですけど。
――頭を、撫でてくれたんです。たぶん、とびっきり優しく。
シスターとは全く違うのに、なんでしょうね、なんだか思い出しちゃって、泣いちゃって……、……後はもう、なんとなくわかりますよね。
ジャンバールさんの船に乗ってるのはみんな『海賊らしい』人たちでした。
シスターのときみたいに無理やり乗り込んで、お金があることをひたすらアピールしました。
流石に迷惑だったかなって思ったんです。
それなのに、居座っておいて海賊にはならないって我儘まで尊重してくれました。
ジャンバールさんのことお父さんって陰で呼ばれてるって知った時に、ああ、そんな感じだって思いました。腑に落ちたって、こういうことを言うんでしょうね。
それから5年後に、今度は無理やり船に乗せられて、今に至るというわけです。