「ゴチャゴチャ言ってねえで黙っておれに従え。取るべきイスは……必ず奪う!!」
甲板に出ると、クルーたちはリザを残して揃ってローの下へ走って行った。
リザはというと、クルーたちの隙間からローを見ていた。
そしてなされた、ローの宣言。
「かーっこいー…」
クルーよりもやや離れた位置で、素直に感嘆した。
かっこいい。
なるほどこれがカリスマ性というものか。
だからこのひとたちはトラファルガーさんについて行くのか。
クルーたちの心酔ぶりに納得のいく一言だった。
リザは息を吐きながら、己の視界が彩度と明度を上げたことを自覚した。
その中心ではローが不敵に笑っている。
前にも同じことがあった。あれはなんのときだっただろうか……。
人と人との間からローを凝視していると、ローがリザの視線に気づいた。
一瞬目が合うが、気のせいかと思うほどにすぐに逸らされた。
「……?」
妙な反応に首を傾げていると、興奮したままのシャチがリザの肩を叩いた。
「かっこいいだろ?俺らのキャプテンは!」
自慢げに鼻の下を擦りながら、シャチが同意を求めるようにリザの顔を覗き込んだ。
「そうですね」
正直に同意して見返した。シャチの身体が不自然に強張った。
「……珍しいな、リザがキャプテンのこと素直に褒めるなんて」
「そうですか?」
……そう言われてみると、確かにそうかもしれなかった。というか、強いとか、綺麗だとは思っても、かっこいいと感じることは稀だ。その回数をリザが指折って数えていると、シャチが頷いた。
「おお。少なくともおれは初めて聞いたな。……というか、おまえ、顔赤いぞ」
躊躇いがちに指摘され、リザは自分の頬を両手で包み込んだ。確かに、熱い。熱いのは頬だけではない。内臓から全身に熱が広がっているような気がした。
「シャチ先輩、どうしましょう」
「え、なに。どうしたんだよ」
「私、なぜかトラファルガーさんについて行きたいって思ってます」
「……」
「だって、私あのひとのこと苦手なはずなのに! おかしいですよね!?」
リザは戸惑いながらシャチを見上げた。おいて行かれ気味だったシャチの唇がうごめき、緩んだ口元から息が漏れた。
「……ぶふっ」
「何笑ってるんですかシャチ先輩! た、大変ですよ、きっと病気です! 熱だってあるし!」
「いやいや、ちげーだろ」
シャチがくつくつ喉を鳴らしながら、心底楽しそうだ。
「じゃあなんだって言うんですか!」
「キャプテンの魅力に気づいたってことだろ」
「……ハイ?」
「いやー、遅かったくらいだぜ、俺なんてあったその日に惚れ込んだのに」
「……なんの告白ですか?」
「いやそういうんじゃなくて! おい距離とってんじゃねーよ!」
喚くシャチを無視して、考える。
ローの魅力に気付いた。ローに惚れ込んだ。ローに憧れた。
「……あこがれ」
あのとき、確かに、何かが輝いた。
星が降ったように世界全体が煌めいたのだ。
知っている。
リザはこの感覚を知っている。
5年前、それから、始まりも分からないほどに幼いころのこと。
「シャチ先輩」
「ん?」
シャチを見上げるとサングラス越しに合った目が見開かれた気がしたが、そんなことは些事だ。
「私はハートの海賊団のクルーじゃありません」
「お、おお」
「それでもここに居ていいんですか?」
「おお?」
「トラファルガーさんの近くに居て、いいんですか?」
リザの視線は徐々に下へ向かい、遂に甲板へと落ちた。陽射しが強いせいで、リザの影は真っ黒だ。俯くリザの旋毛をシャチが突いた。
「……おまえって、ずっとそうしてきたんじゃねーの?」
「ハイ?」
弾かれたように顔を上げると、シャチが呆れた顔で笑っていた。
「今日、おまえが言ったんじゃねぇか。駄々こねてシスターついて行って、無理やりジャンバールの船に乗って、それと何が違うんだよ」
「……そういえば、そうでしたね」
シャチが心底不思議そうに言った言葉に、リザは思考の靄が晴れた気がした。
少しだけ大人になって、前よりも感情を抑えられるようになった。
そのせいで、どうすればいいか分からなくなってしまっていた。
しかし、よく考えてみればリザはこの船に乗せられた身なのだ。
多少の我儘は聞いてもらわなければ釣り合いが取れない。
「先輩」
「ん?」
「ありがとうございました。いってきます」
「おお、よくわかんねーけど、良かったな」
シャチはニッと歯を見せた。