あれから一年が経った。
バーと同じ建物内にある部屋で、リザは目を覚ました。
まだ外は暗く、耳をすませば小さくシャボンの弾ける音が聞こえる気がする。
「……やっと、揃った」
天井に手を伸ばし、その先に思い描くのは焦がれるひとの姿。
天竜人の奴隷がつける首輪の鍵、すぐに逃げるための船、その他諸々、この日のために必要なものは全て揃った。
一番大変だったのはやはり鍵だったが、ロズワードが奴隷の鍵を一括していることが幸いした。
爆破された首輪を回収し、そこから鍵を作った。おそらくどこかの海賊船の船長であっただろうその首輪は海に投げ入れた。
ロズワード聖は奴隷を人間屋の表に置いていく。
今日の競売に来ることは事前の調べでわかっているし、そこにここ最近の気に入りであるジャンバールが連れてこられることもわかっている。
何度か連れられる彼を見たときはそのたびに飛び出しかけたが、今日はそれを抑える必要はない。
今日が、決行の日だ。
「…寂しくなるわねぇ」
午後、盗んだものを全て持って下に降りた。シャッキーには今朝、今日のことを伝えておいた。リザに気づいたシャッキーが眉を下げて笑った。
「長い間、お世話になりました」
「こちらこそ、長い間ぼったくらせてもらったわ」
「ほんとですよ。私じゃなかったら破産しちゃいますよ? ……シャッキーさんのお連れさんに会えなかったのは残念ですけど、その人が帰ってきてたら追い出されてたでしょうし、複雑です」
「ふふ、そうね。レイさんはなにやってるんだか」
シャッキーが煙と共にため息を吐いた。白煙がゆらゆらと店内に消えて行く。その呆れた態度の中にある種の信頼があることを察しているリザは笑って煙を仰いだ。
「シャッキーさん?」
「なに?」
「改めて、ありがとうございました。ここほど安全な宿はきっとないでしょうし、私が自由にできたのもシャッキーさんのお陰です。何より、ごはん美味しかったです!」
「お酒が飲めないのがほんと残念」
「飲めないわけはないですけど、弱いんですよね。迷惑かけちゃいますし」
「あら、可愛かったわよ? ……また来てね」
「ハイ。必ず」
その時はサービスしてくださいねと、リザはシャッキーに笑いかけた。
「それじゃあ、頑張って!」
「ハイ!」
リザは店の扉を開け、大きく一歩を踏み出した。
麦わら海賊団が壊滅する、その日の出来事である。