四皇という称号は妥協に他ならない。
同列に語られる七武海は海軍の海賊共同のある種の「機関」だが、四皇は違う。
四人の"皇"。
彼らほどの大海賊になると誰が最も強いのかに興味が湧かなくなるのか?
いや、それはむしろ逆ではないだろうか。
強ければ強いほど、頂点を求める。
勝利を求める。
つまり、四皇と、その呼び名に甘んじているのは、他でもない妥協なのだ。

――ハンコックはそう力説していた鈴蘭を思い出した。
その称号にケチをつけていた当の鈴蘭は、今現在、自分の隣で少年のように顔をほころばせている。

しかしハンコックからしてみれば、老若男女、ルフィと鈴蘭以外のあらゆる存在は石化必死である。
四皇にも、それ差し置いて海を制したという海賊王にも、ハンコックの興味は毛ほどだ。

……それよりも。

「おい見ろよ白ひげだぜハンコック!」
「そうじゃな」
「本物だぜ本物! まさか実物が見れるなんてよォ、こんなトコまでお前のお守に来た甲斐あったわ……!」

ハンコックはミーハー丸出しで自分の腕を叩く鈴蘭を見下ろした。
鈴蘭にとって、いや、およそ大多数において白ひげは、名と偉業は聞くものの姿を見ることは一生ないであろう存在だ。
つまり御伽噺の某と同等なわけである。
日頃から四皇についてブツブツ言うのも、四皇の中で白ひげが一番だと思っているからだ。
言ってしまえば、鈴蘭は白ひげのファンなのだ。

ついさっきまで体面を考えて大人しく付き従っていた鈴蘭だが、白ひげに会った興奮でそれどころではなくなって、今では横並びになってはしゃいでいる。
白ひげの登場で視線は大概の注意も視線も白ひげにいっているが、側にいる海兵や七武海は流石に気付く。
興奮しすぎて周囲の視線を気にしていない鈴蘭のせいで、自分たちを恐々垣間見る海兵たちも、流石というべきか恐れる様子は一切ないが無視はできず聞き耳を立てたり横目で見たりする将校たちも、薄気味悪い笑みを浮かべるドフラミンゴも、無言で静観するのはミホークも鬱陶しい。

ハンコックは周囲からの視線そっちのけで楽しんでいる幼馴染を見て、溜息をついた。
いつもならこういうのは鈴蘭の役目だというのに、今回ばかりは立場が逆転している。

「鈴蘭」
名を呼びつつ手を引く。お?と漏らしつつ引かれるがまま近づいた鈴蘭の頭に手刀が落とされる。
突然のことに鈴蘭は目を瞬いたが、少しは冷静になったようで、状況を察し照れたように打撃部分を抑えた。

「悪りィ、はしゃいじまったな」
「仕方のないやつじゃ」
「うっせ」

鈴蘭が周りを見渡せば嫌に大勢と目があったようで、漸く見られていることに気づき、頭をかきながら苦笑いした。

まったく、仕方のない幼馴染みだ。
ハンコックは短く息をついて、小さく笑った。

――そして、開戦する。