敵を切り捨てつつ、モモンガは、視界の隅で揺れる金髪に思いを馳せた。

何事にも縛られない女だった。
モモンガは、それが自身にとって吉と出たのか凶と出たのか、未だに測りかねている。

出港時、その女――鈴蘭はトラブルの元凶だった。
そこから監獄までの道中では、言葉通り上手くパイプ役として働いてくれた。
インペルダウンでの手錠騒動では、結局コイツも厄介な女なのではと不安に思ったが、それからは問題という問題はなかった。

数日前のことだ。
モモンガは偶然、鈴蘭と鷹の目のミホークが海軍本部の廊下で話しているのを見た。
『お前は戦えるのか』
ミホークが発したその言葉は、まさしくモモンガの疑問でもあった。

思い出されるのは、ハンコックと鈴蘭を乗せた航海中のこと。
下っ端の雑用係にまで分け隔てなく接する鈴蘭は、ハンコックの下から度々離れては、船中をうろつき、海軍本部に行くまでにほとんどの海兵と仲良くなっていた。
緊張感をもって七武海に接していたはずの海兵たちが懐柔されていることに危機感を覚えたが、客観的に見ても鈴蘭に悪意は全くないようだった。
その人の良い笑顔からは到底、人を傷つけている姿など想像もつかなかった。

だからなのか、戦場を駆ける彼女を見て、モモンガは裏切られたような、失望したような思いに駆られた。
信じがたいことだった。
自分さえもあの屈託のない笑顔に絆されたというのか。
幼さの残る邪気のない外見に惑わされ、まるで自分たちが守るべき市民のように思ってしまっていたのか。

「困ったな」

そう、自身を取り囲む数十人の海賊に向かって、本当に困ったような顔で鈴蘭が眉を下げた。
それを見て、助けに行かねばと思ってしまい、一瞬のことにだとしても、本当にどうかしていると頭を抱えたくなった。

モモンガは己を律し、自身の目の前にいる男たちを一蹴した。
横目で見た鈴蘭は、すでに海賊たちを地に沈めていた。
さらには「良い刀だ」と海賊の刀を奪いそれで別の海賊に切りかかる始末だ。

「そーれっ!」
ハンコックの後ろから迫っていた海賊の首にメスが刺さる。
飛んできた方向を見れば既にハンコックから視線を外していた。
鈴蘭からハンコックまでの距離は五十メートル弱。外せば女帝に当たるかもしれない位置取りで、肝が座っている。
振り返りもしないハンコックの姿が、彼女らの間に流れた時を明示していた。

余りにも朗らかに笑うその女は、産まれた場所さえ違えば、あるいは。女帝の傍に居ることも、海賊となることも、なかったのかもしれない。

モモンガは、海賊を薙ぎ倒すその合間に、その髪色を探した。

揺れる髪の間からのぞきみえる、温かさの残る瞳のせいで、モモンガの脳裏に鈴蘭の姿が次々とフラッシュバックしていく。

インペルダウンで拘束されるのは嫌だと自らを卑下しながら駄々をこねていた姿と、ハンコックを仕方がなさそうに度々止めていた姿、戦場で躊躇なく血を浴びる姿。
そして、軍艦の上、太陽に照らされて無邪気に海兵の肩を抱く姿。

一体、どこからどこまでが本物なのか。

『困ったな』
それはこっちの台詞だ。
「魔女め」
モモンガはひとこと毒づいて、遠くから金髪に照準を定める海賊を切った。