「ハンコック」
ルフィの危篤によって興奮気味なハンコックを呼び止める。

「なんじゃ鈴蘭、わらわは忙し……」

死の外科医を追いかけるべく軍艦を確保しようとしているらしいハンコックは苛立たし気に振り向いたが、直後、はっとしたように口をつぐんだ。

「……すまん、もう大丈夫だ」

ハンコックは少しだけ目を見開いて、それからフンと鼻を鳴らした。

「間に合うのか?」
「まあ、ギリギリな。もっと早くに腹括れれば良かったんだけどなあ」

言うと、ハンコックが目を伏せた。長いまつげが微かに震える。

「わらわは……わらわを」

そう珍しく言い直しながら、ハンコックは
優雅な足取りで近寄ってくる。
それから鈴蘭の髪を掬い上げた。

「わらわを泣かせる罪、償わないことは許さぬぞ」

黒曜石の瞳が細められ、薄い膜が光を反射する。

例えばここで別れるとして。
果たして再会することは叶うのだろうか。
ここから生きて出られる確率はどれくらいだろうか。

例えそれが一分にも満たなかったとしても。
他でもない、この幼馴染みが、償えと、そう言った。

鈴蘭は滲む視界に気付かないふりをして、口角を上げた。

「ニョン婆みてーになるまで待ってろ。そしたらそのうち行ってやら」
「約束、じゃぞ」
「……おまえは本当に、性格が悪いな」

ハンコックが眉を顰め、鈴蘭を睨みつけた。

「わらわを罵るなど、そなたのような無礼な輩、そもそも九蛇に居らぬ方が良いのじゃ」
「はあ? こっちこそ、てめーの我儘に付き合わされんのはもう御免だ」
「調子に乗るな、失せよ!」
「言われなくても!」

その無駄に長い足が鈴蘭の脳天に振り落とされたら、それが合図だ。
躱して、踵を返し、そして走り出す。

(交わる視線を互いに躱す)