その音の鳴らない銀笛は、鈴蘭の奥の手だった。

幼いころに、何の因果か巡り合った伝説の霊鳥――白ひげと同じ、お伽噺の化け物。

笛を鳴らしてからどれくらい経っただろう。
そいつにだけ聞こえる音が出るらしいのだが、それが真実かどうかは分からない。
聞こえていたとして、いくら伝説といえど、間に合うのか。

今更不安で眉を寄せたって、今となっては信じるしかない。

笛を鳴らしてから、エースが死に、ルフィが倒れた。
白ひげも、死んでしまった。
憧れた背中を目前にして、鈴蘭はペースを落とした。

状況は明らかに海賊が劣勢で、いきり立つ海軍たちの波に乗りながら白ひげの下へ近づいていく。

医者は傷と病気は治せるが、死んだ人間はどうにもできない。
医者としての仕事は終わり――だからここからは、魔女として。

鈴蘭は太陽の光を反射する銀笛を、固く握りしめた。

死ぬかもしれない。
それでも死なない。

鈴蘭の心臓はアマゾンリリーに置いてきた。
その心臓は、きっとハンコックが守ってくれる。
今はただ、やると決めたことをするだけだ。

さぁ、時間だ。

――これが“九蛇の魔女”最後の仕事。