「――アンタらの負けだ」

赤髪の剣が、赤犬のマグマが、鈴蘭に到達するよりも早く、それは舞い降りた。

「待たせたな」
「まったくだ!」

軍艦数隻を背中に乗せれるほどに巨大な鳥は、それは鳥と呼ぶにはあまりにも神々しく、その場にいる者すべての注意を引き付けた。
その隙に鈴蘭は、その生物の差し出された首へ飛び乗り叫んだ。

「シルバー、薬の匂いがする方に飛んでくれ!」

そう呼びかけると同時に、シルバーは嘴で白ひげを捕まえ、地割れを悠々越えると、指示された方へと低空飛行した。

人間では考えられない速度で流れていく景色を横目に、鈴蘭はエースだけを見据えていた。

「来た!」

鈴蘭は目前に迫ったエースを確認し、アンバーの首に足を巻き付け逆さになった。両手を精一杯伸ばし、その身体を掬い取ろうとする。

「……! させないよォ〜〜っ!!」
「!」

流石は大将と言ったところか、羽毛から身体を出した鈴蘭に向かって、黄猿が光線を放つ。
咄嗟に身を捩ると、光線がわき腹を掠めていった。

落ちる血液を横目に、伸ばした手がエースの身体に届く。
シルバーの飛ぶ勢いのまま抱きかかえた。

一瞬前までいたところに、二発目の光線と弾丸。弾丸の出処はベン・ベックマンだ。
殺意のあるそれは、どうやら黄猿への牽制をも含めているようだった。

次いで銃弾や斬撃が飛んできたが、シルバーの両翼で掻き消された。

さらにシルバーの前方にマグマが飛んできたが、ほぼ直角に進行方向を変え躱し、そのまま雲の上まで上昇した。

先ほどまでとは裏腹に、静かな空間。
鈴蘭は大きく息を吸い込んだ。

「――あっぶねえ!!」

羽毛に埋めていた顔をあげ、鈴蘭は思いっきり叫んだ。

「三回は死んだぞ!」
「私が来るまで待っておけばよかったのだ」
「赤髪の手に渡ったら、遺体に手え出せなくなんだろ」

実際、あのあと白ひげの知り合いでもなんでもない鈴蘭に二人の死体を手に入れる手段はなかったと思う。

「つーかまだ安心できねえよ。さっさと島へ行こう」

奴らならここまで追ってきかねない。
鈴蘭の言葉に応じ、シルバーはさきほどよりもゆっくりと飛行を始めた。

「人間の都合はわからんが、おまえが無事でよかった」
「おう、マジで助かったぜ。ありがとう」
「構わん。強いて言うなら待ちわびたぞ。何年待ったと思っている」
「勘弁してくれ、使いどころが難しいんだよ。アンタは一応、伝説の霊鳥なんだぞ」
「人間が勝手にいっているだけだろう」
「はは、まあ確かにな!」

海軍本部が見えなくなったことに一息ついて、変わっていない旧友に、漸く頬を緩めた。

一番落ちにくい翼の羽毛地帯に遺体を埋めた後、鈴蘭は一息ついて背伸びをした。

「それで鈴蘭、そいつらはどうするんだ」
「蘇生するよ」

目を閉じれば、浮かんでくるのはルフィをかばうエースの姿。家族を背にした白ひげの姿。

例え望まれなくても、生きてて欲しいと思ったんだ。

「……シルバー、超特急で頼む」
「頼まれた」

加速に伴う衝撃に耐えながら、鈴蘭は空を仰いだ。