もうすぐ月饗祭だね。いつも通りの昼食タイムで新堂くんが言った言葉に私は首を捻った。

「月饗祭? なにそれ」
「知らないのかい? 一般にも結構有名だと思うけど」
「ええ……。そうなの、聞いたことないや」

一色くんに反対に首を傾げられたけど、知らないものは知らない。本当に知らないらしいと察した一色くんと新堂くんに教えを受けていると、矢切がハッと鼻で笑った。

「無知なやつ」
「む」
「通ってる学校のことくらい、少しは調べろよ」

地味に痛い正論を投げつけられ、私は唇を歪めた。しれっと言い返しにくいのがむかつくところだ。
私は反論できそうになかったのでさっと顔を逸らして新堂くんに言った。

「新堂くんは出店するの?」
「ううん、今年はしないよ」
「じゃあさ、いっしょ回ろうよ」
「いいの?」

流れるように新堂くんをデートに誘うと、新堂くんはふわりと笑って承諾した。

「楽しみだなあ」

そう言う彼は控えめに言っても聖人染みている。天使か?
私と新堂くんが朗らかに笑い合っていると、矢切が唸るように声を出した。

「おい……」
「ふたりで! まわろう! ね!」
「おい秋ヶ瀬てめえ!」

矢切がぎゃあぎゃあ言っているが無視だ。私に楯突くとこうなるんだよばーか。
結局この後、新堂くんの恩情によって三人で回ることになった。

矢切と停戦したあと、にこにこしながら私たちのやりとりを見守っていた一色くんが「仲良しだなあ」と呟いた。

「仲良くないよ」「仲良くねえよ」
「ふふ、そうだね」
「絶対思ってないよね……。というか一色くんはも暇なら一緒に行こうよ」
「お誘いは嬉しいけど、寮で店を出すことになってるんだ」
「そっか、残念。頑張ってね」
「ありがとう」

振られてしまった。まあいいか。

「慧くんのところにも行くよ」
「待ってるよ」

新堂くんが一色くんにそう言うと、一色くんは嬉しそうに笑った。

「……」

ふと矢切の様子が目に入る。何か言いたげな顔だが、口は真一文字のままだ。
一色くんは新堂と古くからの付き合いなので仲良しだけど、矢切とはそういうわけではないらしい。
曰く業界の有名人らしい矢切と他人の懐にするりと入り込む一色くんの交流がないとは思いにくい。けれど実際、昼食中にふたりが差しで話しているところをみたことがないので、仲良しというわけではないのだろう。
かといって刺々しい雰囲気があるわけでもないので放置している。
……もしかして矢切、人見知りなのかな、笑える。

「そういや、秋ヶ瀬」

コミュ障疑惑が浮上した矢切が何かに気付いたようで私を見た。

「結構金かかっけど、おまえ大丈夫か」
「……まじで」

それは大丈夫じゃないです。



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