月饗祭一日目、私はふたりとは別れて行動することにしていた。
いきなりぼっち! と苦情をつけたが、矢切の行きたい店の予約がここしか取れなかったのだそうだ。矢切の奢りを拒否したのも、ふたりで行ってきなよと言ったのも私なので、仕方がない。
せっかくなので私は矢切から拒否されたゲテモノ系の店を回ってみることにした。

「うーん、美味しかった」

明らかに丸くなったお腹を撫でながら目抜き通りを歩く。安い割にボリュームがあって、私にしたら最高だった。
いくらゲテモノといえど、無論ここは遠月学園。おいしくないはずもなく。我儘さえいわなければ、当たり100%クジみたいなものだ。
さてさて、そうこうしているうち三時だ。ふたりと合流する時間は近づいてきている。
三人で最初に食べるのは確か結構ガッツリ系だったはず。ところが今の私の口の中も同系統だ。
どこかにお口をリセットできるようなものは……。私はきょろりとあたりを見回し、フルーツジュースを打っている店を見つけた。

「ありがとうございましたー」

梅チケット一枚、なんとお安い。しかも絶対美味しい。
私が某家具屋のCMを鼻歌で歌いながら踵を返して歩き出した、その一歩目。ばしゃりと音を立て、私は人と衝突した。

「う、っわあああ、ジュース……っじゃない! すみません!!」

私はオレンジ色に染まった遠月の制服を見て、顔を真っ青にした。

「あ……、こっちこそごめんね」

私がぶつかったその人は、慌てて謝罪した私を一瞥したその日とは申し訳なさそうにそう言ったあと、何事もなかったかのように歩き出した。……えっ。

「あ、あの……」

私はその背中に声をかけたが、彼はスタスタと歩いていく。気づいていないようだ。
……気にしていないなら、放っておいてもいいのか。クリーニング代を請求されても困るし、ましてや弁償なんて、あの制服はバカみたいに高いのだ。

「…………」

小学生の時、泥汚れをつけて帰ってきた私に、お母さんが怒っていたのを思い出す。つけ置きしたり手洗いしたりと試行錯誤していたお母さん、あのひとのお母さんがそういうことをするかは知らない。あのひとの反応を見るにきっとお金持ちなんだろうから、制服を買い直すくらいのことは造作もないんだろう。
でも、でも……。

悩んだ末に、私はぶんぶんと頭をふってから顔を上げた。
ええい、めんどくさい!
いちばん分かりやすい真実は、『染みは時間が経つと取れにくい』、でしょ!

私はぱっと振り返り、一部始終を見ていた売り子さんに頼みごとをした。心配気にこちらを見ていた彼女は、快く受けてくれた。

幸いにも、私のぶつかったひとはすぐに見つかった。
銀白色のその髪色は周囲からとても浮いていて、ついでに言えば制服が一部オレンジ色なので余計にすぐわかった。

「あのっ」

私がその背中に声をかけると、やはりというか、彼は歩みを止めてくれなかった。
仕方がないので私は彼の裾を掴んで、ぐいっと思いっきり引いた。「わ」と驚いたような声と共に、彼が振り返って、首を傾げた。

「君……誰?」

勇んでいたはずが、かくっと力が抜けた。マイペースなひとっぽいなとは思ってたけど、数秒前のことも忘れてしまうレベルか……。

「えーと、さ、さっきあなたにぶつかって、ジュースをぶちまけた者ですが!」
「……ああ、これか。気にしなくていいよ?」

ようやく思い至った彼が制服を示しながら言った。本当に気にしていないようだ。けど。

「だめです」

これは私の自己満足なので、だからどうしたという話だが。

「せめて応急処置だけでも、させて頂きます」

私は店員さんから借りた即席染み抜きセットを片手に、彼の制服を掴み直した。



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