「えーと、これは……」
「どういう状況だ?」

新堂くんと矢切が揃って不思議そうにしているが、気持ちは分かる。何も知らなければ私だってわけがわからないのだから。

目抜き通りを少し離れた、他人の少ない場所のベンチに座る私と見知らぬ男子生徒。
男子生徒はシャツ一枚の状態でジュースを飲んでいて、その彼のブレザーが私の手元にある。
しかも彼が困ったような顔をして「もう大丈夫だよ」と言い、それに「だめです」と私が返すというやりとりを定期的に行っているのだ。
我ながら何をどうすればこうなるのだろうか。
ねえ矢切、ため息をつきたいのは私の方だからね。

「んー、どう、新堂くん、目立つ?」
「……ううん。大丈夫だと思うよ。少なくとも一見しただけじゃわからない」
「よし」

新堂くんの言葉に私が満足げに頷いていると、ジュースを飲み終えた男子生徒が感嘆の声を上げた。

「わあ、すごいね、君」

言ってから、新堂くんと矢切の方を見回して、

「今更だけど、きみたち、一年生?」

と聞いてきた。どう考えても遅い。最初から薄々分かっていたけど、このひとはあんまり他人に興味ないのだろう。

「そうですよ、改めまして、中等部一年の秋ヶ瀬です。ご迷惑をおかけしました」
私が制服を差し出しながら言うと、彼は受け取りながらほっと息をついた。
「ああ、良かった。俺は二年の司瑛士。染み抜きしてくれてありがとう」
「ああ、いえ、全然」

ていうか、二年生だったのか。
年上だろうなとは思っていたけれど、たった一年違いとは……。私は周りの子供っぽい面子を思い起こしながら、個人差って残酷だなと思った。ああ、でも一色くんはわりと大人っぽいか。

それからすぐに私たちと司先輩は別れた。
ふたりからなにがあったんだと聞かれたけれど、私は適当に誤魔化しておいた。
たぶんこれっきり彼と関わることはないので、というか別れた直後に忘れられている気すらするので、まあいいかと思ったのだ。
制服を染み抜きしているときに話しかけてみたのだけど、それはもう周囲のことに無関心〜という感じがありありとした。

三人で目抜き通りをうろうろすること数時間。

「あ、もうこんな時間か」

電車の時間だ。私はそこでふたりとまた別れて帰ることにした。
祭日だろうとなんだろうと、家事は変わらずこなさなければいけない。私はこれでも夕飯担当なのだ。
打倒母にはまだ時間がかかりそうだけれど、いずれは母の舌を唸らせる所存。
うるさい正門を避けて外へ出ようと人ごみから逸れて歩いていく。
少し遠回りだけど、今日ならきっと結果的には早く出られる。急がば回れというやつだ。
ぽてぽてひとり、広大な遠月の校内を歩く。
人が出店エリアに集中しているので、そこ以外は全くと言っていいほどひとがいない。
そんな静かな空間を切り裂くような爆音が、どこからか響いた。

「えっ」

私が驚いて振り向くと、そこには小さな山があった。音は山の中から響いてきたようだ。

「えっ山火事!?」

ぎょっと目を見開いたが、観察していても火が燃え広がっている様子はない。私は通報を準備していた携帯の画面を落とし、ほっと息をついた。

「こんな日に、あんなところで……なにやってるんだろ」

私は首を傾げてから、時間が迫ってきていることを思い出して早足で歩き始めた。


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