そのスーツ越しにもわかるムッキムキな男性は、堂島銀というらしい。銀という言葉に聞き覚えがあるらしい弟は「あ!」と閃いた声を上げていた。
彼は母のひとつ下の卒業生で、極星寮で共に生活していたらしい。
本当に知り合いらしいことに私がほっとしていると、あっという間に仲良くなった堂島さんと弟の間であれよあれよという間に話が進み、今私たちの前には十傑第一席の皿が並べられている。

私は一度ちゃんと断ったのだが、堂島さんが是非というのでお言葉に甘えた。矢切と違って堂島さんは大人なので、特に奢られることに抵抗はない。あるとすれば覚えていない私からすれば堂島さんとは初対面同然ということなのだけど……。

「うっっっめえ〜〜!」
「うむ、流石という他ないな」

まあ二人が楽しそうなのでいいか。

「ねーちゃん、これもうちょいくれよ」
「やだよ。おいしいし」

普通に昼食を食べた後なので私と弟で一人前だ。弟がむくれたせいで堂島さんが「では俺のを」と提案してくれたが断った。わがままを許してはいけない。
そんな私と弟のやりとり笑っていた堂島さんが、ふと「十傑といえば」と切り出した。

「噂に聞いた話だが、アキ、君たちの世代は随分とレベルが高いようだな」
「……そうなんですか?」
「正確には、今の中等部の1、2年生は粒ぞろいということだがね。心当たりはあるか?」

心当たり。そう問われてすぐに何人かの顔が浮かんだ。

「友達の一色くんと、新堂くんて子がすごい優秀そうですね。久我くんも中華研のエースとか言ってたし、叡山はプロデューサー?みたいなことしてるし……」

久我くんと叡山は別に友達ではないけど。私が指折り名前を挙げると、堂島さんは片眉を器用に釣り上げて「ほう」と笑みを浮かべた。弟が「姉ちゃん男友達もいたんだな」と私を見上げている。ごめんな、中学では男友達しかいないんだ。

「あ、あとは矢切もなんかすごい家柄って聞いたな……」
「矢切?」

私がふとこぼした矢切の名前を、堂島さんは復唱した。意外そうに目を瞬いた後、そうか、と大きな手で口元を覆った。

「そうか、あの子も今は遠月にいるんだったな」
「あいつのこと知ってるんですか?」
「薙切家の分家だ。この業界で知らないものはいないさ。矢切家自体は服飾に纏わる家だが……」
堂島さんが末尾を濁した。なんだか家庭の事情って感じの雰囲気だ。まあ良家からあんなヤンキーが爆誕してるんだから、なんかあったんだろうなってのは何も知らない私でもわかる。
私がとくに追及する気配を見せなかったからか、堂島さんも話題を替えた。

「その本家の薙切のご令嬢が、来年遠月に入ってくるんだ」
「へえ、そうなんですね」
「ああ。アキならきっと仲良くなれるだろう」

後輩かあ。ご令嬢。つまり女の子。最近女子成分に飢えていたところだ。同い年じゃ悪評が轟きすぎてて希望がなかったし、堂島さんがそう言うなら来年矢切に紹介してもらおうか。



「堂島さん、今日はどうもありがどうございました」
「ありがとうございました、銀さん!」
「こちらこそ。先輩によろしく伝えておいてくれ」

食事が終わると堂島さんはやはり忙しいようで足早にどこかへ去っていった。私たちもお腹いっぱいになったので、出店エリアを離れて弟と校内を回ることにした。

「いいところでしょ」
「んー、まあ。……自分が来たいかは別だけどな」
「そういうと思った」
「ねーちゃんが習ったことぜんぶ俺に教えてくれたらさー、俺超楽に勉強できるよな。電車通学とかしなくてもさ」

正直言って弟の方がこの学園に行くのにふさわしいと思う。でも、残念なことに年子の姉弟を私立に行かせられるほど、うちに余裕はない。

「仕方ないな、アンタは我儘だからね」

そう言って頭をなでると、「なでんな!」とはたき落された。


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