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そういって連れてこられたのは、学外のカフェテリアだった。私が駅まで歩くので、その途中にある店なのだけど、高そうだなーと思いながら見てた店だ。一色くんは何度か来たことがあるのか、店長らしきひとと見知った風だった。
簡易的な仕切りに囲まれ半ば個室と化しているが、正直ふつうの中学生が来るような雰囲気ではない。まあ一色くんはふつうじゃないんだけど。つまりここにふさわしくないのは私だけですね。
「今日は、聞きたいことと相談があるんだ」
「ふうん、あんまり人に聞かれたくないことなの?」
「まあ、そうだね。付き合わせてしまってすまないね」
「いーよ。たまにはこういうのもさ。友達と買い食いとか、初めてだからどきどきするや」
お金が足りるかどうかでもどきどきしてるけど。店員さんが持ってきてくれたメニューを受け取りながら思った。
「付き合わせたお礼に、ここは奢らせてほしいな」
「えっ。い、いいの?」
私の不安を見透かしたように、一色くんが言う。ここであんまり断る気がないのが私が私たる所以である。
「もちろんだよ」とそう微笑む一色くんは神だ。
なるべく安いのにするね。と声に出さずに思ってから、私はメニューを一通り読んだ。全体的に高かった。プリンタルトおいしそうだな……、でもケーキは高いな。ミルクティーにしよう。いやでもプリン……、……。
「決まったかい?」
「うん。ミルクティーにするよ」
私がそう答えると、一色くんは店員さんを呼んだ。
「ケーキセットを2つ。ケーキは季節のフルーツケーキとプリンタルト。飲み物はミルクティーを2つでお願いします」
私が口をはさむ間もなく、丁寧にお辞儀をした店員さんはメニューを回収して帰って行った。
「えっ、なんでわかったの?」
「プリンタルトの写真、ずっと見つめてたから。余計なお世話だったかな」
「ううん! 食べたかったよ。ありがとう」
一色くんはすごいな。モテるわけだよ。
「あ、それで、相談ってのは?」
奢ってもらう分、ちゃんと仕事しないとね、と私は気合を入れて尋ねた。
「ああ、そうだね。それより先に、さっきの質問をもう一回していいかな。#名字#さんは、恋愛に興味はある?」
「今はないかなー、まだ私には早いや」
ちょっとだけ嘘を吐いた。いやだって、ありますって答えるの恥ずかしいし。
「そういう一色くんはどうなの? 今日も告白されたんでしょ?」
少しだけの嘘が気まずくって、私は何か言われるより先に一色くんに訊いた。
「うん。相談っていうのは、そのことなんだ」
「え、そうなの? 振ったって言ってたから、終わったもんだと……」
「それが少し困ったことになってね」
眉尻を下げながら、一色くんが事情を話し始めた。
今日告白してきた二つ上の先輩。つまり現三年生の先輩は、美人で、優秀で、そしてちょっと、ちょっとだけ根性のありあまったひとだった。交際の提案に対して、一色くんは毎度あとくされないよう、結構ばっさり断っているらしいのだが、その先輩は圧倒的な情熱をもって喰い下がってきたそうだ。
「勉強の邪魔はしないわ」「むしろ、教えられることも多いはずよ」「好きなひとや付き合ってる人がいないなら」「いえもしいたとしても」「お試しでも二番目でもなんでもいいから」「お願い」
一色くんは困った、とはっきり言っているけれど、私からすれば、うらやましいと思う。そんな熱烈に思われていることが。そして、それだけの熱意をもって誰かを好きになれることが。
さっきは一色くんの問いに嘘をついたと思ったけど恋が私に早いというのは、まったくただしいことのように思えてきた。
まあそれは置いておくとして。
「でも、私を恋人として紹介して諦めてもらうってのは、ベッタベタだと思うよ」
「そうかな」
「うん。さすがにバレそう」
まだ新堂くんをつれていった方がインパクトも説得力もありそうなものである。
私がそう言うと、一色くんはうーん、と顎に手を添えてから「幸太郎くんに変な噂が立つのは良くないから」と首を振った。確かに、それもそうか。
「こういうことを頼めるのが秋ヶ瀬さんしかいないんだ。頼めないかな……」
少し身を乗り出した一色くんは、髪をふんわりと揺らしながら、上目遣いに私を見つめた。まるで仔犬だ。ずるいぞ一色くん!
「うぐぅ」
「秋ヶ瀬さん……」
「ま、まあいつもお世話になってるし……今日も奢って貰っちゃうわけだし……? い、一日くらいなら……」
いいよ、と私が小さく言うと、一色くんは普段通りの顔でにっこりと笑った。
「ありがとう秋ヶ瀬さん!」
「……」
ずるいぞ一色くん!!
「助かるよ。本当に。……あ、来たね。おいしそうだ」
計ったかのようにタイミングよく運ばれてきたケーキは、一色くんの言う通り本当においしそうだった。
丁寧に並べられたスプーンを手に取って、さっそくプリンタルトを頬張った。おいしい。合間にミルクティーを挟む。おいしい!
もぐもぐと食べ進めていると、ふと一色くんのフルーツケーキが目に入った。様々な果物が贅沢に使われていて、色鮮やかだ。
「一口食べるかい?」
「いいんですか!」
私が迷いなく提案に食いつくと、一色くんは愉快そうに目じりを緩めた。
「もちろん。はい、あーん」
器用にフルーツとスポンジ、クリームをバランス良く取り分けた一色くんは、そのケーキ部分を私に向けながらそう言った。
「え。……あ、あーん」
差し出されたそれに、顔を寄せて口に含む。一色くんは気にしていないようだけど、だからか余計に気恥ずかしい。そんな私に追い打ちをかけるように一色くんが続けた。
「僕もそれ、一口欲しいな」
「あ、うん、いいよ」
「ありがとう」
そう言って微笑んだ一色くんは、身体を少しこちらに寄せながら、軽く口を開けた。
「え」
「くれないの?
「あ、はい。ど、どうぞ」
手元が定まらなくってほとんどプリンしか掬えなかったスプーンを、一色くんの口元にまで運ぶ。彼の唇が、スプーンをなぞってケーキを取り去った後に、弧を描いた。
「ごちそうさま」
店の外に先に出ていると、お会計を済ませた一色くんも出てきた。
「ごちそうさまです、一色くん」
「ううん、こちらこそ、色々ありがとう。じゃあ、帰ろうか」
「うん。って、一色くんは寮だからこっちじゃないじゃん」
自然に同じ方を向くのでびっくりしたが、完全に逆方向である。
「駅まで送っていくよ」
「いいよ。まだ遅くもないし……」
「僕が送りたいんだ。ほら、僕たち恋人じゃないか」
「ウッ」
その甘ったるい響きに、心臓がすくむ。
「明日に向けての予行演習さ」
「わ、わかったよ、おねがいします……」
「ありがとう。じゃあ、はい」
にっこり笑いながら、一色くんが手を差し出してきた。
「え、なにこの手」
「なにって、つなぐのがふつうだろう? だって僕たち……」
「わわ、わかった、わかったから……!」
きゅ、と一色くんの手の、薬指と小指の辺りを握ると、するりと彼の手が動いて、私の指の間を割って入ってきた。
「うえへっ」
「ふふ、変な声」
「だ、誰のせいだと……」
振り払うとまた「だって僕たち」と言われることは目に見えている。私には手汗落ち着けーと願うことしかできなかった。
簡易的な仕切りに囲まれ半ば個室と化しているが、正直ふつうの中学生が来るような雰囲気ではない。まあ一色くんはふつうじゃないんだけど。つまりここにふさわしくないのは私だけですね。
「今日は、聞きたいことと相談があるんだ」
「ふうん、あんまり人に聞かれたくないことなの?」
「まあ、そうだね。付き合わせてしまってすまないね」
「いーよ。たまにはこういうのもさ。友達と買い食いとか、初めてだからどきどきするや」
お金が足りるかどうかでもどきどきしてるけど。店員さんが持ってきてくれたメニューを受け取りながら思った。
「付き合わせたお礼に、ここは奢らせてほしいな」
「えっ。い、いいの?」
私の不安を見透かしたように、一色くんが言う。ここであんまり断る気がないのが私が私たる所以である。
「もちろんだよ」とそう微笑む一色くんは神だ。
なるべく安いのにするね。と声に出さずに思ってから、私はメニューを一通り読んだ。全体的に高かった。プリンタルトおいしそうだな……、でもケーキは高いな。ミルクティーにしよう。いやでもプリン……、……。
「決まったかい?」
「うん。ミルクティーにするよ」
私がそう答えると、一色くんは店員さんを呼んだ。
「ケーキセットを2つ。ケーキは季節のフルーツケーキとプリンタルト。飲み物はミルクティーを2つでお願いします」
私が口をはさむ間もなく、丁寧にお辞儀をした店員さんはメニューを回収して帰って行った。
「えっ、なんでわかったの?」
「プリンタルトの写真、ずっと見つめてたから。余計なお世話だったかな」
「ううん! 食べたかったよ。ありがとう」
一色くんはすごいな。モテるわけだよ。
「あ、それで、相談ってのは?」
奢ってもらう分、ちゃんと仕事しないとね、と私は気合を入れて尋ねた。
「ああ、そうだね。それより先に、さっきの質問をもう一回していいかな。#名字#さんは、恋愛に興味はある?」
「今はないかなー、まだ私には早いや」
ちょっとだけ嘘を吐いた。いやだって、ありますって答えるの恥ずかしいし。
「そういう一色くんはどうなの? 今日も告白されたんでしょ?」
少しだけの嘘が気まずくって、私は何か言われるより先に一色くんに訊いた。
「うん。相談っていうのは、そのことなんだ」
「え、そうなの? 振ったって言ってたから、終わったもんだと……」
「それが少し困ったことになってね」
眉尻を下げながら、一色くんが事情を話し始めた。
今日告白してきた二つ上の先輩。つまり現三年生の先輩は、美人で、優秀で、そしてちょっと、ちょっとだけ根性のありあまったひとだった。交際の提案に対して、一色くんは毎度あとくされないよう、結構ばっさり断っているらしいのだが、その先輩は圧倒的な情熱をもって喰い下がってきたそうだ。
「勉強の邪魔はしないわ」「むしろ、教えられることも多いはずよ」「好きなひとや付き合ってる人がいないなら」「いえもしいたとしても」「お試しでも二番目でもなんでもいいから」「お願い」
一色くんは困った、とはっきり言っているけれど、私からすれば、うらやましいと思う。そんな熱烈に思われていることが。そして、それだけの熱意をもって誰かを好きになれることが。
さっきは一色くんの問いに嘘をついたと思ったけど恋が私に早いというのは、まったくただしいことのように思えてきた。
まあそれは置いておくとして。
「でも、私を恋人として紹介して諦めてもらうってのは、ベッタベタだと思うよ」
「そうかな」
「うん。さすがにバレそう」
まだ新堂くんをつれていった方がインパクトも説得力もありそうなものである。
私がそう言うと、一色くんはうーん、と顎に手を添えてから「幸太郎くんに変な噂が立つのは良くないから」と首を振った。確かに、それもそうか。
「こういうことを頼めるのが秋ヶ瀬さんしかいないんだ。頼めないかな……」
少し身を乗り出した一色くんは、髪をふんわりと揺らしながら、上目遣いに私を見つめた。まるで仔犬だ。ずるいぞ一色くん!
「うぐぅ」
「秋ヶ瀬さん……」
「ま、まあいつもお世話になってるし……今日も奢って貰っちゃうわけだし……? い、一日くらいなら……」
いいよ、と私が小さく言うと、一色くんは普段通りの顔でにっこりと笑った。
「ありがとう秋ヶ瀬さん!」
「……」
ずるいぞ一色くん!!
「助かるよ。本当に。……あ、来たね。おいしそうだ」
計ったかのようにタイミングよく運ばれてきたケーキは、一色くんの言う通り本当においしそうだった。
丁寧に並べられたスプーンを手に取って、さっそくプリンタルトを頬張った。おいしい。合間にミルクティーを挟む。おいしい!
もぐもぐと食べ進めていると、ふと一色くんのフルーツケーキが目に入った。様々な果物が贅沢に使われていて、色鮮やかだ。
「一口食べるかい?」
「いいんですか!」
私が迷いなく提案に食いつくと、一色くんは愉快そうに目じりを緩めた。
「もちろん。はい、あーん」
器用にフルーツとスポンジ、クリームをバランス良く取り分けた一色くんは、そのケーキ部分を私に向けながらそう言った。
「え。……あ、あーん」
差し出されたそれに、顔を寄せて口に含む。一色くんは気にしていないようだけど、だからか余計に気恥ずかしい。そんな私に追い打ちをかけるように一色くんが続けた。
「僕もそれ、一口欲しいな」
「あ、うん、いいよ」
「ありがとう」
そう言って微笑んだ一色くんは、身体を少しこちらに寄せながら、軽く口を開けた。
「え」
「くれないの?
「あ、はい。ど、どうぞ」
手元が定まらなくってほとんどプリンしか掬えなかったスプーンを、一色くんの口元にまで運ぶ。彼の唇が、スプーンをなぞってケーキを取り去った後に、弧を描いた。
「ごちそうさま」
店の外に先に出ていると、お会計を済ませた一色くんも出てきた。
「ごちそうさまです、一色くん」
「ううん、こちらこそ、色々ありがとう。じゃあ、帰ろうか」
「うん。って、一色くんは寮だからこっちじゃないじゃん」
自然に同じ方を向くのでびっくりしたが、完全に逆方向である。
「駅まで送っていくよ」
「いいよ。まだ遅くもないし……」
「僕が送りたいんだ。ほら、僕たち恋人じゃないか」
「ウッ」
その甘ったるい響きに、心臓がすくむ。
「明日に向けての予行演習さ」
「わ、わかったよ、おねがいします……」
「ありがとう。じゃあ、はい」
にっこり笑いながら、一色くんが手を差し出してきた。
「え、なにこの手」
「なにって、つなぐのがふつうだろう? だって僕たち……」
「わわ、わかった、わかったから……!」
きゅ、と一色くんの手の、薬指と小指の辺りを握ると、するりと彼の手が動いて、私の指の間を割って入ってきた。
「うえへっ」
「ふふ、変な声」
「だ、誰のせいだと……」
振り払うとまた「だって僕たち」と言われることは目に見えている。私には手汗落ち着けーと願うことしかできなかった。
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