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というわけで翌日。徒歩で登校しながら、今日のことを考えた。
とりあえずイタズラかどうかを確認したかったので、返事は次の日にということにしてある。つまり、今日の放課後返事すればいいのだ。
その間に一色くんに相談できる機会は、朝と昼休み。一色くんはその日の畑の具合によって登校時間が違うので、朝に時間があるかはわからない。昼休みにふたりになるのは手間なので、できれば朝のうちに片付けたいところだけど……。
「おはよう、秋ヶ瀬さん」
「! おはよ、一色くん!」
「どうしたんだい? なんだかご機嫌だね」
「まあね」
きみが早く来てくれてたからね、と心中で呟きながら、私は一色くんの隣の席に座った。
私は電車の都合で早めに来るので、自家用車で登校する生徒が多い遠月学園ではかなり早く到着する方だ。そのおかげで、今はほとんど生徒がいない。
「あのね、いっこ相談したいことがあるんだけど、いいかな?」
私がわずかに声を潜めて聞くと、一色くんは不思議そうに、けれどいつものように微笑んで頷いた。
「もちろん、秋ヶ瀬さんにはこのまえ僕にできることなら」
「あのね、私、昨日告白されたんだけど」
「……告白?」
私の言葉を繰り返しながら、一色くんがすーっと目を開く。えっ。なんか目笑ってなくない?
「誰に?」
いつもよりか僅かに尖った声で、一色くんが尋ねる。
「ええと、隣のクラスのー……あっ、名前聞いてない」
もう九割がた悪ふざけだと思ってたから何も考えてなかったってかあのひと名乗らなかったのか。私が名前を知っていると思っているのか、それとも名前を教えるつもりがないのか、どっちだろう。どっちもありえそうだ。
「知らないのかい?」
「あ、うん。言われてないね」
「へえ……」
「それでね、一色くんに相談したいのは、どう断ったら角が立たないかっていうことなんだけど……」
一色くんが告白されたとき、後腐れないようばっさり行くというのはわりと有名な話だ。まああれだけ告白されていたら有名にもなるだろう。一色くんをもってして断れない人がいるというのは最近知った話だけど、つまるところ一色慧という男は『振る』スペシャリストなわけだ。
「全然知らないひとなんだけど、お友達からとかも絶対にしたくなくて」
「な、なかなか辛辣だね……」
賭けのターゲットにしてくるやつとお友達にはなりたくないからね。
と、さっきから告白がイタズラであることを口にしないのは、単純に恥ずかしいからだ。一色くんや新堂くんでも普通に嫌だ。叡山とか久我くんとか矢切とかだったらもっとやだ。絶対何か言ってくるに決まってる。
「ね、なんて言えばいいと思う?」
「うーん、そうだな。ごめんなさい、とか、今はそういうのに興味ない、とかだとわりと喰い下がられることが多いかな」
「おお……」
「付き合ってる人がいるは知っての通り、すごく効果的だね」
「お、おお……」
先日のことを示唆する一色くんの口ぶりに、思わず目を明後日の方に向けた。やめて、照れるから。こっちはお子様なんだよう。
「あとは……そうだな、僕は使わなかったけど、タイプじゃない、なんてどうかな」
「タイプじゃない……!」
正直真剣な気持ちであればそうやって断るのは失礼だと思えたけれど、今回ばかりはむしろそれでいい気がしてきた。
私の反応が余程わかりやすかったのか、一色くんは、「お気に召したのならなにより」と言って笑った。
そうして、よくよく考えれば当初の『角が立たない断り方』とは真反対に突っ走っていることに気付かないまま、私は放課後を迎えたのだった。
「ごめんなさい、一日考えたけど、タイプじゃないんだ」
「なっ……!?」
「だからごめんなさい、きみとは付き合えないや」
私がぺこりと頭を下げながらそういうと、彼は絶句してしまった。しかし一応断られたときのことを考えていたのか、少しの沈黙の後、口を開いてくれた。
「そ、そうか……。わ、悪かったな、時間とらせて」
そういう彼の声は震えていたし、頬は引きつっていたけれど、ここで私が残っても意味はない。さっさと帰ろう。
ちょっとだけ悪い気もするけど、胸が空いたのも事実だ。明日、一色くんにお礼を言おう。
そう思いながら歩く私は、残された彼らが、
「振られちゃったな〜楠〜」
「アイス奢りだなー」
「あ!? うるせえ!」
「うお、んだよ、キレんなよ」
「くそ、俺様をコケにしやがって、秋ヶ瀬アキ……許さねえ……」
そんな会話をしていたことを、当然知る由もないのだった。
とりあえずイタズラかどうかを確認したかったので、返事は次の日にということにしてある。つまり、今日の放課後返事すればいいのだ。
その間に一色くんに相談できる機会は、朝と昼休み。一色くんはその日の畑の具合によって登校時間が違うので、朝に時間があるかはわからない。昼休みにふたりになるのは手間なので、できれば朝のうちに片付けたいところだけど……。
「おはよう、秋ヶ瀬さん」
「! おはよ、一色くん!」
「どうしたんだい? なんだかご機嫌だね」
「まあね」
きみが早く来てくれてたからね、と心中で呟きながら、私は一色くんの隣の席に座った。
私は電車の都合で早めに来るので、自家用車で登校する生徒が多い遠月学園ではかなり早く到着する方だ。そのおかげで、今はほとんど生徒がいない。
「あのね、いっこ相談したいことがあるんだけど、いいかな?」
私がわずかに声を潜めて聞くと、一色くんは不思議そうに、けれどいつものように微笑んで頷いた。
「もちろん、秋ヶ瀬さんにはこのまえ僕にできることなら」
「あのね、私、昨日告白されたんだけど」
「……告白?」
私の言葉を繰り返しながら、一色くんがすーっと目を開く。えっ。なんか目笑ってなくない?
「誰に?」
いつもよりか僅かに尖った声で、一色くんが尋ねる。
「ええと、隣のクラスのー……あっ、名前聞いてない」
もう九割がた悪ふざけだと思ってたから何も考えてなかったってかあのひと名乗らなかったのか。私が名前を知っていると思っているのか、それとも名前を教えるつもりがないのか、どっちだろう。どっちもありえそうだ。
「知らないのかい?」
「あ、うん。言われてないね」
「へえ……」
「それでね、一色くんに相談したいのは、どう断ったら角が立たないかっていうことなんだけど……」
一色くんが告白されたとき、後腐れないようばっさり行くというのはわりと有名な話だ。まああれだけ告白されていたら有名にもなるだろう。一色くんをもってして断れない人がいるというのは最近知った話だけど、つまるところ一色慧という男は『振る』スペシャリストなわけだ。
「全然知らないひとなんだけど、お友達からとかも絶対にしたくなくて」
「な、なかなか辛辣だね……」
賭けのターゲットにしてくるやつとお友達にはなりたくないからね。
と、さっきから告白がイタズラであることを口にしないのは、単純に恥ずかしいからだ。一色くんや新堂くんでも普通に嫌だ。叡山とか久我くんとか矢切とかだったらもっとやだ。絶対何か言ってくるに決まってる。
「ね、なんて言えばいいと思う?」
「うーん、そうだな。ごめんなさい、とか、今はそういうのに興味ない、とかだとわりと喰い下がられることが多いかな」
「おお……」
「付き合ってる人がいるは知っての通り、すごく効果的だね」
「お、おお……」
先日のことを示唆する一色くんの口ぶりに、思わず目を明後日の方に向けた。やめて、照れるから。こっちはお子様なんだよう。
「あとは……そうだな、僕は使わなかったけど、タイプじゃない、なんてどうかな」
「タイプじゃない……!」
正直真剣な気持ちであればそうやって断るのは失礼だと思えたけれど、今回ばかりはむしろそれでいい気がしてきた。
私の反応が余程わかりやすかったのか、一色くんは、「お気に召したのならなにより」と言って笑った。
そうして、よくよく考えれば当初の『角が立たない断り方』とは真反対に突っ走っていることに気付かないまま、私は放課後を迎えたのだった。
「ごめんなさい、一日考えたけど、タイプじゃないんだ」
「なっ……!?」
「だからごめんなさい、きみとは付き合えないや」
私がぺこりと頭を下げながらそういうと、彼は絶句してしまった。しかし一応断られたときのことを考えていたのか、少しの沈黙の後、口を開いてくれた。
「そ、そうか……。わ、悪かったな、時間とらせて」
そういう彼の声は震えていたし、頬は引きつっていたけれど、ここで私が残っても意味はない。さっさと帰ろう。
ちょっとだけ悪い気もするけど、胸が空いたのも事実だ。明日、一色くんにお礼を言おう。
そう思いながら歩く私は、残された彼らが、
「振られちゃったな〜楠〜」
「アイス奢りだなー」
「あ!? うるせえ!」
「うお、んだよ、キレんなよ」
「くそ、俺様をコケにしやがって、秋ヶ瀬アキ……許さねえ……」
そんな会話をしていたことを、当然知る由もないのだった。
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