▼▲▼
次の日、一色くんに無事なんとかなったことを報告し、穏やかな一日を過ごしていたのだが、なぜか下校しようと教室を出ると、昨日振った隣のクラスのひとが教室の前に立っていた。
「よ、秋ヶ瀬」
「え。あ、お、おはよう……?」
「おう、ちょっと今いいか?」
にこっと口角をあげながら彼が首を傾げる。
「あ、あー、いいよ。だいじょうぶ」
昨日けっこう酷い振り方をした自覚があるために、どう接すればいいかわからない。なんだろう、まだ悪ふざけ続いてんのかな。
こっち、と上の階段に手招きされたので後ろをついていく。一年生は三階、クラスがある階だと一番上の階に教室がある(たぶん若いからとかそんな理由だ)。なので、この上には特別教室しかないから、人が少ない。
殴られるんじゃないだろうかとどきどきしていると、私が階段を登りきったところで、彼が急に近づいてきた。
腕を上げかけているのが見えて、身の危険を感じ咄嗟に後ずさる。
隅の方に追い詰められたかと思うと、掌が迫ってきた。
身を引きながら顔を守る。私の顔の横の壁に、トン、と手が置かれた。
「全然話したことなかったのに気が急いて告っちまったけど、俺、諦めねーから」
「え」
諦めないって悪ふざけを? そんなに奢りたくないのか?
私が唖然として反応できずにいると、顔がすっと近づいてきた。次は頭突きか! 左右は腕でふさがれ逃げられない。
万事休す。私はぎゅっと目を閉じた。
ゴンッと隣で衝突音がする。びくびくしながら目を開けると、彼は私を追い詰めていたほうとは反対の壁に頭をぶつけていた。そして私の目前には別の顔。
「え、えーざん……」
「なにやってんだてめえ」
彼の頭を壁に押さえつけながら私を見降ろす叡山の表情は、とても微妙な顔をしていた。眉間にしわを寄せ、口角を下げ、それ自体はいつものことなのだけど、なんというか、不本意そうなのだ。私はぽかんとして叡山を見上げていたのだが、彼がずるずると額で壁をなぞりながら倒れていくのを視界に入れ、ぎょっとした。
「えっ、気失ってない!? そのひと」
「あ? ……死んじゃいねーよ」
「殺してたら大問題だよ! いや今も問題だけど! いや助かったけど!」
「うるせえな」
「まあとりあえず私、このひと保健室に運んでくるから、ごめんけどお礼は今度! ありがとね叡山!」
私が彼の脇に手を入れながらそう言うと、叡山が「あ?」と眉間により深い皺を刻む。いやその凄み方こっわ。
「ほっとけばいいだろうが」
「やだよ。これでなんかあったら叡山のせいになっちゃうじゃん」
あ、でも叡山ならなんかもみ消せそうだな。それなら放っといてもいいかもしれない、なんて、さすがに良心が痛むからちゃんと運ぶけど。
「チッ、勝手にしろ」
叡山はそう言うと、ひとりでスタスタと階下へ降りて行った。
「あ、叡山」
「……」
「このひとなんて名前か知ってる?」
「……。……知らねえよ」
「そっか。ありがと。バイバイ!」
背を向けた叡山にそう言うと、叡山はそのまま振り向かずに降りて行った。
どういうつもりなのかはわからなかったが、危うく怪我をするところだったかもしれない。なんだかんだ、叡山はいいやつなのかもしれなかった。まあ多分違うけど。
「よ、秋ヶ瀬」
「え。あ、お、おはよう……?」
「おう、ちょっと今いいか?」
にこっと口角をあげながら彼が首を傾げる。
「あ、あー、いいよ。だいじょうぶ」
昨日けっこう酷い振り方をした自覚があるために、どう接すればいいかわからない。なんだろう、まだ悪ふざけ続いてんのかな。
こっち、と上の階段に手招きされたので後ろをついていく。一年生は三階、クラスがある階だと一番上の階に教室がある(たぶん若いからとかそんな理由だ)。なので、この上には特別教室しかないから、人が少ない。
殴られるんじゃないだろうかとどきどきしていると、私が階段を登りきったところで、彼が急に近づいてきた。
腕を上げかけているのが見えて、身の危険を感じ咄嗟に後ずさる。
隅の方に追い詰められたかと思うと、掌が迫ってきた。
身を引きながら顔を守る。私の顔の横の壁に、トン、と手が置かれた。
「全然話したことなかったのに気が急いて告っちまったけど、俺、諦めねーから」
「え」
諦めないって悪ふざけを? そんなに奢りたくないのか?
私が唖然として反応できずにいると、顔がすっと近づいてきた。次は頭突きか! 左右は腕でふさがれ逃げられない。
万事休す。私はぎゅっと目を閉じた。
ゴンッと隣で衝突音がする。びくびくしながら目を開けると、彼は私を追い詰めていたほうとは反対の壁に頭をぶつけていた。そして私の目前には別の顔。
「え、えーざん……」
「なにやってんだてめえ」
彼の頭を壁に押さえつけながら私を見降ろす叡山の表情は、とても微妙な顔をしていた。眉間にしわを寄せ、口角を下げ、それ自体はいつものことなのだけど、なんというか、不本意そうなのだ。私はぽかんとして叡山を見上げていたのだが、彼がずるずると額で壁をなぞりながら倒れていくのを視界に入れ、ぎょっとした。
「えっ、気失ってない!? そのひと」
「あ? ……死んじゃいねーよ」
「殺してたら大問題だよ! いや今も問題だけど! いや助かったけど!」
「うるせえな」
「まあとりあえず私、このひと保健室に運んでくるから、ごめんけどお礼は今度! ありがとね叡山!」
私が彼の脇に手を入れながらそう言うと、叡山が「あ?」と眉間により深い皺を刻む。いやその凄み方こっわ。
「ほっとけばいいだろうが」
「やだよ。これでなんかあったら叡山のせいになっちゃうじゃん」
あ、でも叡山ならなんかもみ消せそうだな。それなら放っといてもいいかもしれない、なんて、さすがに良心が痛むからちゃんと運ぶけど。
「チッ、勝手にしろ」
叡山はそう言うと、ひとりでスタスタと階下へ降りて行った。
「あ、叡山」
「……」
「このひとなんて名前か知ってる?」
「……。……知らねえよ」
「そっか。ありがと。バイバイ!」
背を向けた叡山にそう言うと、叡山はそのまま振り向かずに降りて行った。
どういうつもりなのかはわからなかったが、危うく怪我をするところだったかもしれない。なんだかんだ、叡山はいいやつなのかもしれなかった。まあ多分違うけど。
▲▼▲
← /→