2. ジャスミンの記憶



 与えられた仕事は、与えられたというよりも無理矢理作ってもらったものだ。

 この船に置いてもらうと決まった時、仕事が欲しいと懇願した。何もせずに世話になる居心地の悪さに、どうしても耐えられないと思ったから。

 そうは言っても簡単には案が出なかった。
 料理は主に四番隊が担っているし、掃除は隊ごとで順に、洗濯は各隊で任せているといったように、上手く回っているのだ。要するに手は十分足りていた。
 長年航海を続けているのだから当然だろう。

 その場にいた数人でうんうんと悩んだが、良い案が出ないまま一度解散になった。話が出たのはその場にいなかった一人のナースからだ。自分達の身の回りの世話はどうだと。
 ナース達も洗濯や掃除は自分達で回しているそうだが、もしそれを任せて良いのなら、休みの日をより有意義に過ごせるとのことだった。迷うことなく直ぐに頷いた。

 そうしてやっと、私は『ナース専用家政婦』という立ち位置を得た。





 朝、まずは洗濯をする。船には洗濯機が無いので全て手洗いだ。一日の洗濯量はそんなに多くはなく、大した重労働にはならない。

 洗い終えると、それらを抱えて甲板に出る。
 船尾で洗濯物を干す作業は楽しみの一つになりつつある(ちなみに下着はナース用のお風呂場に干している)。太陽を浴びて、波の音を聞くだけで気分は良くなるし、何よりこの場所には人がそうそう来ない。
 誰の目もないのは気が休まる上、誰にも聞かれることなく歌を口ずさめるのが最高。

 他には女風呂や医務室の掃除だったり、ナースの休憩にティーセットを運んだり、その時々の依頼に応えていく。

 手が空けば好きな事をすればいいと言われたが、勝手の分からない場所で好きにと言われても何も思いつかなかった。




 今朝はサッチ隊長に引き止められた事は計算外だったけれど、昼前にほとんどの仕事を終わらせた。
 そしてある人を探し回っている。何か聞きたい事があればできるだけその人に聞くのが良いと初日に言われていた。一番隊のマルコ隊長だ。

 しかし、中々見つからない。マルコ隊長がどこにいるのか、見当もつかずに歩き回っているせいで無駄に散歩している。半分迷子だ。


「なんだ、迷子か?」

「えっ」


 疲れて少し歩みを緩めた途端、背後から話しかけられた。
 まさか、話しかけられるとは思っていなかったから驚きに任せて勢いよく振り向いてしまった。それがいけなかった。


「ウワ!!!!!」


 予想外の上裸に思い切り声が出る。

 ここには沢山の男の人がいて、その内の大勢が露出の高い服装をしている。…露出が高いというか、はだけている。シャツとかが。
 何故と思いつつも受け入れたつもりだったけど、上裸の男がいきなり視界に入ってきたら叫んでも仕方ないと思う。


「わ、悪ぃ!…驚かせたか?」

「あ、いや…すいません、ちょっとびっくりして……」


 一瞬の沈黙。
 正直言うと驚きで最初になんて話しかけられたのか吹っ飛んだので、この人に話を進めて欲しいばかり。

 しかし、その願いが届くことはなく、相手も黙っている。謎に見つめあっているのが何とも気不味い。
 私としては上裸の方をあまり見続けたくはないと言うか、目のやりどころに困っている状態だ。もしかして何か聞かれてた?


「すいません、あの…何でしたか…?」


 恐る恐る切り出してみると、上裸男はそうだ、と笑った。


「さっき甲板でもお前のこと見たけどさ、そん時も今もきょろきょろして歩いてるから迷子かと思ってよ」

「いや、迷子というか…マルコ隊長を探してまして」

「マルコ?」

「はい。マルコ隊長にお聞きしたいことがあったので」

「マルコなら多分自分の部屋にいると思うぜ」

「自分の部屋…」


 自室とは完全に盲点だった。
 海賊がインドアなわけ…という偏見で完全に頭から追いやられていた。

 けど、居場所が分かってもさらなる問題が出てくる。マルコ隊長の部屋なんて把握できていない。
 今のところ、私の活動範囲は自室と食堂と医務室周辺、甲板(主に船尾)で済んでいた。それに此処に来てからまだ一週間も経ってないから、ゆっくり覚えていけば…なんて呑気に考えていたのだ。自分のものぐさ加減が悔やむに悔みきれない。もっと活発に出歩いてれば……!


「分かんねえなら連れてってやろうか?」


 マルコ隊長の部屋と聞いて黙り込んだ私に、上裸男がそう言った。


「……お願いしてもいいですか?」

「おう!戦闘がなきゃァだいたい暇してんだ、俺たちは」

「すいません、ありがとうございます」


 なんだか物騒な単語は聞き流そうジーザス。
 頭を下げてお礼を言い、失礼ついでに名前を聞くと、男はまたニカッと笑いながら答えた。


「俺はエース。二番隊所属、"火拳のエース"だ」


 あ、ジャスミンティーが分からない人。