「!!」

出逢ったのはほんの数十秒前。

「でさ〜…ってアレ?慶次?」
「……」
「…前田殿?どうかなされたか?」

幸村に肩を叩かれ慶次は我に返った。

「!!え?!あ、あれ?!あの娘はっ?!」
「「あの娘ぉ?」で御座るか?」

たった今擦れ違った小柄な姿が慶次の頭からは離れなかった。

「今擦れ違ったじゃん!!ロングヘアーのちょっと小柄な娘っ!!」
「ロングヘアーって単に言ってもうちの学校結構いるよ。」
「身の小さき女子も少なくはないが…何をそんなに慌てておられるのだ?」

野暮な事を聞く幸村をからかう余裕は今の慶次にはない。

「決まってんだろ?!幸村鈍すぎ!!だ〜、もうお前ら相手にしてらんねぇ!!探して来るっ!!」

佐助と幸村にそう吐き捨て、慶次は彼女の去った方向に足を向け走り出した。
残された幸村は不思議そうに呟く。

「……一体どうしたのだろうか、前田殿は。」
「ホンット鈍いね、旦那は…。一目惚れだろ?一目惚れ。」
「んなっ!!?は、破廉恥ィィィィィィィィィィ!!!
「はいはい、鼻血拭いて。」

叫んで鼻血を吹く幸村にティッシュを差し出し、佐助は慣れた手付きで血塗れの床を拭いた。

*****

「…っ、あれ?見失っちゃった…?」

少女の後を追い、玄関近くに着いたものの、先程の少女らしき影は何処にも見当たらない。
少し息を切らして慶次は辺りを見渡した。

(おっかしいなぁ〜…あの娘小走りだったけどそんな速くなかった筈なのに…)
「お、慶次じゃねぇか。」
「あ!元親!」

不意に声を掛けられ、顔を上げると、日直だったのか、疲れた顔をした元親が突っ立ていた。

「息切らしてどうしたよ?」
「いや、ちょっと走っててね。」
「どうせまた女を追い回してたんだろ?その様じゃ撒かれたな?」

元親はにやりと悪戯っぽく笑う。

「酷いなー。どうせってこと無いだろー…あ、そうだ!!」
「あ?」
「なぁなぁ、元親、今向こうから来たんだろ?!ロングヘアーで小柄な可愛い娘見なかったかい?」
「ロングヘアーで小柄な可愛い娘?あー…、どうだったかな〜…擦れ違ったのは、剣道部の主将だけだったな…。」
「剣道部?主将って女の子だっけ?」
「そうだろ?激励会とか紅一点で凄ぇ目立つし。」
「ああ…、で!その娘どんな娘だった!?」
「どんなってったってなぁ…、確か髪、下の方で弛く結ってたな。」
「それだっ!!その娘っ!!どこ行った?!」
「教室の前で見たからな。2年の教室棟じゃねぇか?」
「分かった!!サンキュ、元親!」

非常に有力な情報を得た慶次は元親に礼を言うと、早速2年の教室棟に向かった。

*****

「あっ!!」

2年の教室棟に着くと、慶次は2-5の教室に入る探し人を発見した。委員会の仕事だろうか、両手に新しい掃除用具を抱えている。

(手伝わなきゃなっ!!)

ちょっと駆け足で教室に近付き扉を開けようとした時だった。

「!シイカ君…。」
(!!)
「あら、竹中さん。」

中から聞こえてきた半兵衛の声に慶次は扉に掛けようとした手を引っ込め、身を潜めた。

(半兵衛?!何であいつがここに?!)

教室の中の会話に耳を澄ますと少女──シイカ──の声がする。

「珍しいですね。教室で執務なんて。」
「秀吉が生徒会室で寝ていたからね。僕の作業の音で起きたら可哀想だろう。」
「相変わらずですね。まったく、豊臣先輩の何がそんなに良いのか理解しかねますわ。」
「秀吉を馬鹿にしないでくれるかい?まぁ、君にも何れ分かると思うけど。」
「あり得ませんね。」
「ふふ…君らしい。所でシイカ君。例の件の事は考えてもらえたかな?」

半兵衛は不適に笑うとシイカに話を切り出した。

(…例の件?!)
「…またそのお話ですか?興味はないと申し上げましたでしょう?私は何があろうと生徒会には入りません。」
「前々から思っていたが、何故だい?何故、生徒会に入るのをそんなに拒むの?君が望む役職にしてあげると言うのに…。」
「竹中さんこそ、何故そうまでして私を手中に納めようとなさるのかしら?」
「…分かっていないよ君は。2年生にして剣道部主将を担い、猛者の集まる部を纏め上げる君の手腕を生徒会は買っているんだ。是非僕らと共にこの学園を支配するべき人材だ、とね。」

半兵衛はクスリと笑い、シイカの返答をあおった。

「………理解しかねますわ。」

シイカは一息ついて、吐き捨てる様に言った。

「なっ?!」
「生徒会の権力なんて、高々3年限りの、卒業すれば無に返る地位ですよ?18に足るか足らないかの青二才の私たちにそんな事が本当に出来るんですか?学園を支配するなんて、どういう目的があるんですか?あと生徒会に私が入ったとしてその時のメリットはありますか?見返りの無い、更にやりたいとも思わない仕事に参加する程私は寛大ではありませんよ。」
「……ふう。相変わらず理屈屋さんだね、君は。」

半兵衛はマシンガンの様なシイカの返答に苦く笑う。

「今は全て話せない。でも何時か僕らの誘いを断った事を後悔する時が来るよ?それでもいいのかな?」
「その時はその時ですわね。では、私、まだ仕事中なので。」
「……ふん。」

話の一部始終を聞いていた慶次は愕然とした。

「……スゲェ……あの半兵衛を…。」

クラスを巻き込んで不仲の半兵衛が苦く笑うなど慶次は見たことがない。

(…つーか、剣道部、主将ってマジなんだ……)

いろいろと知れて嬉しい反面、なんだかとてつもない人のような気がしてならない。

カラ……

「あら?あなたは…?」
「うわぁっ?!!」

ぼんやりしていたらいきなり教室の扉が開き、慶次に気付いたシイカが声を掛けてきた。あまりに突然だったので、慶次は声を上げる。

「ごめんなさい、驚かせちゃった?」
「あ、いや…そんなことは…!」

くすくすと上品に微笑むシイカに思わず目を奪われた。


(…やっぱ、可愛いな……)
「あなた、前田…慶次さんでしょう?」
「え?!何で、名前…」
「ふふ、整備のまつ先輩が何時もお話しなさってるし、あなた、目立つから。」
「そ、そっか…(やっべ、まつ姉ちゃん、変な事喋ってないかな…)…所で、君は?」
「私はシイカよ。古井シイカ。」
「いい名前だね。宜しく。」
「ありがとう。此方こそ宜しくね。…っと、今の聞かれちゃったかしら…?」

シイカはばつが悪そうに眉を潜める。

「あ、ちょっとだけね…。てか掃除道具持ってるって事は、委員会の仕事中?手伝うよ。」

慶次が手を差し出すとシイカは遠慮がちに身を竦める。

「いいの?」
「勿論!!女の子に無理させちゃ男じゃないからね!!」
「ふふっ…ありがと。お願いするわ。」

少しおどけて答えれば、シイカは素直に箒を分けた。

「次はどこの教室だい?」
「特別棟よ。行きましょう。」

颯爽と歩くシイカと並んで慶次は特別棟に向かった。

「…しっかし驚いたよ。半兵衛を相手にあれだけ言える娘がいるなんてなぁ〜。」
「私は持論を言ったまでよ。まぁ、ただ、豊臣先輩が好かないだけって言うのもあるんだけどね。」
「あ、やっぱり?実は俺も仲悪いんだよね〜。」
「あら、それは有名でしょ?」
「え〜そうかなぁ〜。」
「ふふっ、とぼけちゃって。」
「へへっ」

会ってからまだ数時間も経ってはいないが、慶次はシイカとなかなか馬が合い、くだらないお喋りをしながらも整備の仕事を片付けていった。

*****

「…ふぅ、思ったより早く終わったわ。ありがとう、前田さん。」
「そんな名字で呼ばなくていいよ。慶次でいいって。」
「そう?じゃあ、ありがとう、慶次さん。」
「礼には及ばないよ。俺もシイカちゃんと喋れて楽しかったし!」
「可笑しな人。私と喋って楽しかったなんて、あなたと島津先生くらいしか居ないわ。」

シイカは また、くすくすと上品に微笑む。

「…」

慶次はその笑顔に動悸を感じた。

「慶次さん?どうかした?」
「へ?!いや、何でも…ッ!……あ、あのさ、シイカちゃん。」
「何かしら?」
「俺、シイカちゃんと会ったのは今日が初めてなんだけど、その、…一目惚れ…でさ。」
「あら、」
「…シイカちゃんが好きだ。俺と付き合ってくれないかい?」
「…」

あまりに唐突な出来事にシイカは目を瞬く。それを見て慶次は慌てて付け足した。

「い、今すぐじゃなくていいんだ!!でも、返事…考えておいてくれないかな…?」
「…私ね、」

すると、徐にシイカは口を開く。

「?」
「私も慶次さんと会ってお話ししたのは今日が初めてだけど、お喋りしてた時、楽しかったわ。」
「…じゃあ、」
「でも、ごめんなさい。お友達としてならいいけど、男女交際はできないわ。」
「…え?」

困った様に微笑んでから、シイカは口を開いた。

「私…、恋愛はしないの。」
「え…?」

その発言に今度は慶次が目を丸くする。
それでもシイカは淡々と続ける。

「恋愛を卑下する訳じゃないけど、恋愛って結局は人間の本能を肯定化、或いは美化するのに後からこじつけた言い訳にすぎないと思うから。」
「ど、どう言う事だい?」
「つまりね、動物の雌や雄がパートナーを探すのにする行動と同じってことよ。子孫繁栄のために雄はより多くの雌を得ようとして、雌もまたより強い子孫を残すために雄を選ぶ。人間もそれと同じ。そうでしょう?」
「…ま、まぁ、考えようによっちゃあ……」
「だから浮気って仕方ないと思うの。でも人間って変に独占欲のある生き物でしょ?誰かにパートナーを盗られたら傷つくのよ。それに落ち込む時間があったら、私はもっと別に時間を使いたいの。」
「…恋、しないってこと?」
「そうね…。今は無駄な時間を費やしたくないの。最後に一緒になるのは一人だから、そう思える人が見つかるまではね。」
「……そ、か……」
「だから、ごめんなさいね。今日手伝ってくれた事のお礼はまた改めてするわ。じゃあね、慶次さん。」

シイカは微笑むと踵を返し颯爽と去っていった。
下の方で結った髪が緩やかに揺れる。
慶次はその後ろ姿から目を離せなかった。

「……恋愛しない…か…」

西日の差し込む校舎で小さく呟くと、慶次は帰宅のため玄関に向かう。

(……シイカ……絶対振り向かせてみせるっ…)

そう誓って……




vs鉄壁の行方や如何に!


fin

慶次のその後

「あ、いたいたー!慶次〜!!」
「ん?あ、佐助!それに幸村!!」

名前を呼ばれ振り返ると佐助と幸村が小走りでやってきた。

「どうしたんだよ、もう帰ったかと思ったのに。」

慶次は問えば佐助が不適に笑って答える。

「校内人気ランキングベスト10常連の慶次が一目惚れだなんて美味しい情報、俺様が逃すと思う?」
「ありゃ、バレてたか。」
「破廉恥であるぞっ!!前田殿!!」
「あー旦那、それもういいから…。で、そんな前田慶次の一目惚れのお相手は一体誰?」
「へへっ…剣道部主将の「マジ!?」へ?」

誇らしげに慶次がシイカの名を出そうとすれば、言い終わらないうちに佐助が顔をしかめた。

「剣道部主将って…古井シイカ、だよね…?」
「あれ?知ってんのかい?」
「そりゃあ……ねぇ……」

ばつが悪そうに視線を逸らす佐助。

「だって、慶次には考えらんないだろうけど、彼女…」
「ああ、恋愛しないんだろ?聞いたよ。本人から。」
「え?!!じゃあ玉砕っ?!!」
「恥ずかしいけどな〜。でも逆に燃えてくるよな!!絶対振り向かせてみせるぜっ、て!!」

慶次は拳を握って意気揚々と答えた。

「…へぇ〜…」
「恋知らないなんて勿体無いからなっ!!」
「はっ破廉恥ぃぃぃぃぃぃ!!」
「旦那さっきからそれしか言ってなくね?」
「幸村にだってイイ人いるだろ〜?うちのクラスのあの娘とは最近どうなのよ?」
「なっ!!?彼女はっ、よ、良き友人で御座るっ!!!」
「嘘つくなよ〜、好きなんだろ〜?」
「すすすす好きなどとっ!!な、軟弱なっ!!」

顔を真っ赤にして幸村は否定するものの、それは肯定以外の何物でもない。

「はいはい、わかったから。慶次も、あんまうちの旦那をからかわないでよね、馬鹿に純情なんだから。」
「ははっ、分かったよ。んじゃ、俺そろそろ帰んねーと。遅くなるとまつ姉ちゃんに叱られちまう。」
「あ、うん。ばいばーい。」
「さよならで御座る!」
「じゃーなー!」

慶次は幸村達に手を振り、家路につく。そんな彼を見て佐助は懐から手帳を取りだし何かを書き始めた。

「……前田慶治、古井シイカに惚の字、っと……やれやれ、、厄介なのに惹かれたねぇ〜…」

溜め息混じりに手帳を閉じ、相変わらず破廉恥、破廉恥、連呼する幸村を促し、校舎を後にした。
………とか何とか言いつつ、佐助が惚れてる幼馴染みも相当な厄介者だという事を彼は忘れているのか、それとも思い出したくないのかは不明であった……


─ ─ ─ ─ ─

ギャグ中心の夢サイトでありますのに、こんなどっち付かずな甘酸っぱ系の作品は如何なものかと…
ギャグを御期待して下さっていた御嬢様方!!大変申し訳ありませんでしたっ!!(10m先からスライディング土下座)

では、言い訳致します。(こらこら)

先ずアレですね、字 が 多 い
読み辛くてすいませんorz
この作品で伝えたかったのはヒロインの
・理屈っぽい
・現実主義者
・口喧嘩が強い
・あしらい上手
と慶次の一目惚れだけなんです。
それさえ伝われば御堂は泣いて喜びます(ヤメテ)

何時になるかは不明ですが、次の慶次夢では彼女と慶次のテンション差でギャグに致したく…!!

拙作に御座いますが楽しんで頂ければ幸いに御座います。
此処まで読んで下さった御嬢様方!!誠に有難う御座いました!!


20080102
20100113 加筆修正
御堂 篝 拝

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ballad

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