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「慶ちゃん!これバレンタイン!」
「私も私も!」
「毎年有り難うな!ちゃんと本命には渡してきたかい?」
「やだもー!」
放課後、きゃっきゃとはしゃぐ女子に囲まれながら、慶次は愛想良く笑い、差し出された物達を受け取る。
「慶次ばっかずりーぞー。」
「俺達のはー?」
「有る訳無いじゃんばーか!」
「彼女から貰いなさーい!」
「お?何だ、アンタら好い人いるのかい?」
「いねーっての。」
「お前の人気ちっと分けろよ慶次ー!」
「いやぁ、これは天性だからなー。」
「何だそれー!」
後ろから飛ばされたクラスメイト達の野次にふざけながら答えれば、笑い声が湧いた。
本気で嫌味を言ってる訳ではないのは皆が知っている。そして、慶次が今貰っている物も全て義理である事も周知されていた。
厚意であって好意ではない。
だから態々、堂々と渡しに来たり、野次を飛ばしたり、ふざけた返答したり出来るのだ。
「じゃあアタシ達行くねー。」
「ホワイトデー宜しくー。」
「えー…厳しいなぁ。」
「あはは!冗談冗談!」
「じゃーねー、慶ちゃーん!」
「バイバーイ!」
女子達はある程度騒いでから、踵を返すと手を振って足早に去って行った。きっと本命に渡しに行くのだろう。何処となくソワソワしている彼女達の背中に慶次は大きく手を振って見送った。
「さーて、帰るか。」
何だ彼だ野次を飛ばしていたクラスメイトもちゃっかり呼び出しをされて、教室に残ったのは慶次1人。大きく伸びをした後、殆どが義理である包みの山を抱えながら、帰宅せんと廊下に出た。
「あら、慶次さん。」
「あれ?シイカちゃん。」
声を掛けられて目を遣れば、例の現実主義者が立っている。
教務室に向かうところなのだろうか、通学鞄を提げてはいるが、彼女は日誌を抱えていた。
「今帰り?」
「いいえ、日誌を出したら部活に行くの。」
「そっか。」
「慶次さんは?」
「俺は帰宅部だから。」
「あら、そうなの。」
利家先輩と同じ陸上部だと思ってたわ、とシイカは続ける。
慶次はその隣に並び、少し下にある彼女の顔を覗いた。
「なぁ、教務室まで一緒に行ってもいいかい?」
「ええ。誰かに御用なの?」
「謙信に今日の晩飯の買い出し聞きに行くの忘れてたんだ。」
「あら。寮生は大変ね。」
ふふっ、と小さく微笑んだ彼女に釣られて慶次も顔を綻ばせる。そのまま並んで教務室に向かう途中、慶次はふと、自分が抱える物達を思い出し、シイカに声を掛けた。
「ねぇ、今日は何日?」
「今日?2月14日?」
「そうそう。何の日か知ってる?結構皆騒いでたよ?」
「……ああ、そう言う事。」
ちょっと考えた後、シイカは小さく息を吐いて言う。
「バレンタインデー、でしょ?」
「当たりー!」
淡い期待を抱きながらはにかむ慶次だったが、次に彼女の口から飛び出したのは意外と言えば意外な言葉だった。
「知ってる?慶次さん、」
「え?」
「バレンタインデーって269年にローマ司祭、聖ヴァレンタインが殉教死した日なのよ。」
「……え?」
「詳しくは覚えてないけど、自由結婚を主張して政府に撲殺されたんだったかしら?」
「へ、へぇー……」
「それを悼んでか、その主張に賛同してかは知らないけど、その日は愛の記念日みたいになったのよね。元々は欧米で恋人達がカード付きの贈り物を渡し合う日なのんだけど、日本では1958年頃から流行して菓子メーカーの発案で女性から男性にチョコレートを送る日になったんですって。」
「そうなんだ…。」
「あ、因みにホワイトデーは有名だけどアジアの…何処だったかしら?4月14日にブラックデーと言ってバレンタインデーもホワイトデーも何も貰えなかった人が激辛で真っ黒の担々麺を食べる日があるんですって。御存知かしら?」
「いや…知らないなあ…。」
「日本のラーメン業界もやれば良いと思うのよ。4月ってイベント少ないし。」
考え込む様な素振りを見せるシイカに慶次は苦笑いを浮かべる。
「つーか、詳しいんだね。」
「広辞苑を読むのが好きなの。」
「ふーん…。」
とても、期待した様な結果は得られなかったが、ちょっと賢くなった気がした慶次であった。
ちょこっと豆知識
あれ?何か話が逸れてる?
fin!
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ballad
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