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「………シイカ、その格好は何?」
とある日曜日。大好きな幼馴染みに誘われて空をも飛べそうな勢いで待ち合わせ場所に来たのに………
「私服。」
ジーパンにTシャツ姿の幼馴染み。
「いや、そうじゃなくてね…」
ああ、俺の期待を返してくれ…。
事の発端は一昨日の放課後だった…
〜回想〜
「佐助、今度の日曜日、暇か?」
「え?…まぁ、空いてるけど?」
「よし。じゃあ11:00に婆裟羅屋の前で待ってる。」
「え?!ちょ、何で?」
「いいから。じゃ、日曜日。待ってる。」
〜回想終了〜
この会話、普通に聞いたらデートのお誘いじゃない?
普通に聞いたら。
「ねぇ、デートじゃないの?」
「は?何言ってんの?これは調査だよ。調査。」
「調査?」
「先週、この辺に新しいチョコレート専門店が出来たの知ってる?」
「あぁ…。なんか旦那が騒いでたな…。それの調査?」
「そ。」
「次の新聞にでも載せる気?」
「違う。そんなくっだんない事しない。」
「……じゃあ、何で?」
「御嬢様を守るため。」
「…は?」
いきなりそんなことを言い出すシイカを思わず訝しげに見つめてしまった。
ちなみに“御嬢様”と言うのは、シイカの家が代々仕えてるっていうの?そんな家の御令嬢の事。まあ、俺様に対する旦那みたいな?
「どゆこと?」
それは兎も角、護るの理由を聞いてみる。
「知らないのかっ?!!今日御嬢様と真田が一緒に出掛ける約束をしてること!!教えて貰ってないのか?!オカンなのにっ!!」
「…いやいや、オカンじゃないからね…。へぇー。今日、旦那、あの娘とデートn「デートじゃない。一緒に出掛けるだけだ。ボクは認めない。」…」
「あ〜、御嬢様の御身に何かあったらボクはどうすれば良いんだ〜…」
「そんな深刻になること無いって〜。過保護だなぁシイカは。旦那が相手なんでしょ?何も起こんないよ。」
「阿呆っ!!いくら馬鹿で餓鬼で甘党でお館様馬鹿でも真田は男だぞ!!」
「え〜。大丈夫でしょ〜。てか今、馬鹿って2回言ったよね?」
「あ!!御嬢様いらっしゃった!!」
「あれ?無視?」
その突っ込みすら無視して、シイカは俺の腕を引いて物陰に隠れた。
御嬢様、例のあの娘が来てから暫くして、旦那が小走りに待ち合わせ場所に着く。
「あ!!真田君!!こっちだよ〜」
「すまぬ!遅参致した!佐助が出掛けていて起こしてくれなかったのだ…。」
え?俺様のせい?
「いいよ〜。私も今来たとこだから〜。」
会話が丸ごと聞こえます。
何でかって?
旦那達と俺様達の距離は約1メートルだから。
「シイカ!幾らなんでも近い!近過ぎる!!」
「おのれ、真田っ!!御嬢様がどれ程待ったと思ってるんだっ!!13秒だぞっ!13秒!!」
(聞いてないし…。つーか数えてたの…?)
そうそう、シイカはあの娘の家の執事長の娘だから、御嬢様の世話役なんだそうだ。
世話役って言うよりシスコンの姉って感じだけど…ね…
「じゃあ、行こっか、真田君!」
「うむ!楽しみでござる!」
仲良さげに歩き始めた旦那とあの娘。
「あー、ほらシイカ。旦那達移動したよ。追うんじゃないの?」
「真田幸村…。今日が貴様の命日だ…。」
「何それっ?!旦那まだ何にもしてないじゃん!!?」
「御嬢様の13秒を無駄にした…。」
「13秒位許してあげてッ!!て言うかほら、もう見えなくなりそうだよ!急ぐよ!!」
ぐい、とシイカの手を引く。
「!!待て!佐助!!まだ武器の準備が…!!」
「何で拳銃なんか持ってるの!!?物騒だから仕舞いなさい!!めっ!!」
放せー、と騒ぐシイカを引き摺る様に俺様は旦那の後を追った。
*****
普通の板チョコからホットチョコレート、果ては、デコケーキまで、かなりの種類と量を揃える例のチョコレート屋さんに着いた訳だが、甘ったるい香りが店内に広がり、それだけで満腹感を覚える。正直、俺様にはシンドイな〜……
「全部食べたい…。どれにしよう……」
「むむむむ…、迷うでござる…。」
どうやら旦那達の目当てはチョコケーキらしい。ケーキのショーウィンドウの前で真剣に、そりゃもう眉間に皺寄せて迷っている。
俺たちはと言うと、買った商品を食べるためのテラスから、俺はコーヒー、何気甘党なシイカはチョコレートパフェを頼んで、旦那達を見守る…否、旦那を見張る。
「あーあー、あんなに迷っちゃって…。旦那まで乙女に見えてくるよ…ねぇ?」
肩肘をテーブルについて俺はシイカに同意を求める。
……ぎりぎりぎりぎり
「?」
返答はなく、奇怪音が耳に入る。
不振に思い、正面に座るシイカに目を向けると…
「ちょっ?!シイカちゃん!!?なにやってんのッッ!!?」
「…真田…幸村ぁ…」
物凄い形相で有り得ない物に噛み付いているではないか。
ぎしっ、ぎしぎしぎし……
音変わった?!
「御嬢様と…一緒にケーキなど……」
メキメキメキメキ…
ぎゃー!!絶対折れる!!折れちゃう!!
「シイカ!!正気に戻って!!パフェスプーン食っても美味しくないから!!折れちゃうから!!」
バキッ!!
嘘だろォォォォォォォォォォッ!!?
嫉妬に身を焦がしたシイカは銜えていたスプーン(アルミ製)を噛み切った。
つーか、普通切れねぇだろ!!と言う突っ込みは置いといて…。切れた時の音が思いの外響いて、慌てて店員が飛び出してきた。
「お客様ぁ!!どうなさいま…えぇっ?!!」
そりゃ驚くよね。
女の子がスプーン噛み切ってるんだもん。
「すみませんっ!!店員さん!!弁償はしますんで!!ホントすみませんっ!!」
未だ正気に戻らないシイカに代わって、俺が頭を下げる。慣れてるから、別に良いんだけど、こんな騒ぎになったら……
「なんだ?何事だ?……って、佐助ぇ?!」
あーぁ。見つかっちゃった。
「だっ、旦那ぁ?!」
白々しく驚いてみせる。…気付かれたかな?
「佐助!!一体こんなところで何…を…?そちらに居られるのはシイカ殿ではないか?」
「そうだけど…。」
「え?シイカちゃん?」
旦那の後ろからあの娘が顔を出す。すると、
「………!!はっ!!ボクは一体……!!御嬢様っ?!」
俺が必死に呼び掛けても戻ってこなかったシイカは、いとも簡単に戻ってきた。…ちょっと悔しい。
「どしたの?シイカちゃん。猿飛先輩とデート?」
あの娘はサラッとそんな事を言い出した。
ここは便乗してしまおう♪
「あ、バレちゃった〜?実は俺様t「違いますよ。御嬢様。ボクはそこの本屋で佐助とたまたま会って、次の新聞に載せようと思って、此処に入っただけです。」……うん。そう。」
にこり、と微笑んでシイカは、完全に俺が言おうとした事を否定した。
つーか、くっだらないとか言ってたくせに、結局そうやって言い訳すんのかよ……
「そうなんですか?猿飛先輩?」
「あはは…、まぁ、ね……」
否定したいところだが、シイカが凄い目付きで睨んできたので、こう言わざるを得なくなった。あ〜…俺様不憫。
「御嬢様こそ此処で何を?」
「なになにィ〜?旦那とデート〜?」
気を取り直して旦那達をからかうと、案の定、
「デデデデデデッデートなどとっ!!佐助!!破廉恥であるぞっ!!」
「一体何が破廉恥か教えて欲しいもんだよ…」
「御嬢様、何故ボクに何も言わずに行かれたのですか?」
「わ、私は…、その……、」
彼女の頬が紅潮してきた。
これはもしかしなくても もしかするかもしれない。
俯きながら、暫し恥じらう御嬢様にシイカもこれくらい しおらしかったらな…。なんて思ったり。
「あのね、シイカちゃん、怒らないでね?」
漸く顔を上げて彼女は理由を話始めた。
「いつもシイカちゃんにお世話になってるから、内緒でケーキ買って驚かせようと思ったの…。」
これ…と、彼女は、手に持っていた箱を此方に見せる。
「お…御嬢様…。」
「でね、独りで行くの寂し、何選べばいいか分かんないから真田君に手伝って貰おうと思ったの。」
「でも何で旦那?女の子のお友達と行けばいいのに。」
俺は気になる質問をしてみた。
もしかしたらもしかするから。
でもその返答は彼女らしいっちゃあ、らしかった。
「そうなんですけど、この辺りの美味しいお菓子屋さんは、真田君が一番詳しいって前田君が教えてくれたから、誘ったんです。」
前田の風来坊…か。成る程、やってくれるね……
「ごめんね、シイカちゃん。心配かけて…。」
あの娘は、放心状態のシイカの顔を覗くように話かける。
「…っ」
「シイカちゃん?」
ガバァッ!!
「わぁっ!?」
シイカは勢い付けて御嬢様に抱き付いた。あーぁ、女の子同士でそんな………羨ましい。
「御嬢様ぁ!!こんなボクの為に危険を冒してまでそんなことを!!シイカは嬉しゅう御座いますっ!!」
「佐助、危険とは何でござろうか?」
「旦那だよ、だーんーな。」
阿呆みたいな質問をする旦那にシイカの考えを借りて素直に答えると、
「某の何処が危険かっ!!」
と叫ばれた。そこも、やっぱり正直に
「存在。」
と答える。
旦那は、酷いでござる〜、と項垂れた。
「御嬢様、今から帰れば3:00のおやつに間に合います。さぁ、帰りましょう。」
………?
ん? シイカ、今何つった?
「え?でも、これから真田君とお昼ご飯…」
「甘い物を除いて、真田は佐助の料理以外は食べませんよ御嬢様。」
ぅをををををぉぉぉぉぉいッ!!!
何言ってんのぉぉぉぉぉぉ?!!こいつぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!
「そうなの?!」
「そうですよ。なぁ真田、佐助の料理より美味いものは無いよな?食べたく無いよな?な?」
笑顔で威圧をかけるシイカ。
旦那っ!!頷かないでっ!!しかし、多分、意味が分かってない旦那は笑顔で答える。
「うむ!佐助の料理は絶品でごさるっ!!」
馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!
それじゃあ、シイカの思う壺じゃん!!
「ほら、そうでしょう?さ、御嬢様、帰りましょう。」
「うん…。ごめんね、真田君、無理言って。」
信じたっ?!
信じちゃったよ!!根拠もないのに!断言してないのに!君は何処まで純情なの?!!そんなの嘘に決まってるでしょぉぉぉぉ!!
「何がで御座るか?」
旦那は旦那で気付いてないしっ!!いいの!?あの娘が連れてかれちゃうよ!!引き止めなくていいの旦那っ!?いいのっ!!?
「じゃ、佐助、記事纏めといてよ?また明日学校でな!」
しかしシイカが旦那にそんな暇を与える筈はなく、あれよあれよと言う間に話は進み、シイカ達は既に出口に向かっている。
「え?シイカ?!ちょっと!!」
「じゃねぇ〜」
ちょ!何俺様っぽく言ってんの!!?
心中で突っ込みを入れていると、引き止める間もなくシイカは去っていく。
「え!?あっ!!!」
旦那が気付いた時は既にシイカ達の姿はない。
……早すぎるだろ…
「………」
「…一緒にランチするの楽しみだったんだよね。うん、残念だったね、旦那。」
肩を落とす旦那の背を叩きつつ、俺達も店を後にした。
柄にもなくデートだと浮かれていた一昨日の自分も一緒に慰めて…。
保護者。
やっぱり俺様ってこういうポジションっ?!
fin
居残り組のその後
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「お客様ぁ〜」
店を出ようとすると、ウェイトレスさんが、駆け寄ってきた。
バイトだろうか……結構可愛い…。
足を止めて振り返り、何時もの笑顔を浮かべる。
「はい、どうしました?」
ちょっと頬を染めて、彼女ははにかんだ。
「あっ…あの………お会計をお願いします。」
「………………」
彼女の手にある伝票は、はたはたと、虚しく揺れていた。
「…佐助、元気を出せ。」
「…旦那に励まされる日が来るなんて、夢にも思わなかったよ…」
ポケットに入れた財布の 軽量感と共に、旦那に励ましが、涙を誘った。
このサイトを立ち上げるに当たって、背を押して下さった、とある御嬢様にこっそり捧げます。
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後書
初夢でした。ぶっちゃけますと、初版権小説でした。
それにしても最後は歯切れの悪いですね
こんなものでも、楽しんで戴けたら幸いに御座います。
読んでくださった御嬢様!本当に有り難う御座いました
20071027
20071227 改編
20100202 加筆修正
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ballad
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