昼休みも終わる廊下。
それは御嬢様との昼食を終えて教室に戻る時の事。

「あ、あの、古井さん、」

声を掛けられて、振り返ると、そこに居たのはボクより少し低い身長で黒いロングヘアーの小柄な女の子。新聞部で密かに行った人気調査では上位の結果だった。

そんな彼女が特に仲が良い訳でも、クラスが同じだった訳でもないボクに何用だろう。そう思って彼女に向き直る。

「あの、これ……!」

両手で差し出された白い封筒。
俯き加減に視線を逸らす彼女。

思わずボクはたじろいた。
いやいや、確かにボクの一人称は“ボク”だけど、そういう人じゃないんだけど!
と言うか、人気の彼女がそういう人だって結構なスクープネタじゃないか!?
職業病と言うか部活病と言うか、自分で考えた事とは言えガッカリしつつ、どうやってこの封筒を断ろうかと思考を回転させる脳内。しかし、彼女は絞り出す様な声でこう言った。

「さ…っ、猿飛君に渡して下さい…っ。」

精一杯の勇気、そんな言葉がまるで似合いそうな彼女。本来渡すべき相手でないボクに、伝達を頼んでいるだけなのに手まで震えている。これが演技ならばドン引きだが、彼女は違うだろう、好感が持てた。

何故か?

勘だよ。
ひとまず対象がボクでなかった事に安心して、彼女が差し出す封筒を受け取った。
途端に、ぱっと頭を上げる。少し潤んだ瞳から、真剣さが伝わってきた。
もし、これが演技なら演技で良い女優の芝居を間近で見てると思えば悪くない。

「佐助に渡せばいいの?」
「は、はい!!」
「いいの?あの男、かなりいい加減だよ?」

幼馴染みのボクが保証するよ、と付け足せば、少し不安そうな顔になった。

あ、まずったかな…?

「……あの、古井さん、」
「なに?」

少し遠慮がちに彼女は再びボクに声を掛ける。先の言葉に自信はなかったけど、ボクはあくまで平静を装い彼女の言葉を待った。

「古井さんは、その、猿飛君と御付き合い、してるの…?」
「は?」

驚いた。ただ純粋に。
思いも寄らない質問に素っ頓狂な声が出る。
そのせいか、少し萎縮してしまった彼女にボクは首を振った。

「違うよ。ボクと佐助は幼馴染みで腐れ縁なだけ。」
「でも、仲が良いから…」
「それは部活が一緒で、人間関係が長いから。仲間みたいな感じだよ。」
「そ、そうなんだ…。ごめんなさい、私、そそっかしくて…、」

ちょっとホッとしたような彼女。
その仕草は一々愛らしい、まさに女の子と言う感じだ。こんな模範的な女の子に慕われる佐助なんかぱっと綺麗に死ねばいいのに。
常備している取材ノートに彼女の手紙を挟みながら変な感情を持て余していると、予鈴が鳴った。
彼女はボクに、御願いしますと頭を下げて自教室へと足を向ける。ボクもその背を見送って、教室へと向かった。

「お、シイカ御帰りー。」

「うん。」

教室に入ると、風魔と次の新聞について話し合っていたらしい佐助が此方に気付いて頭を上げる。時間切れのためか、メモ帳を胸ポケットに仕舞う奴の元へ、自然と足が向いたが、それはすぐに止まった。
何故かはボクにも分からない。

間もなく授業が始まるからか。
風魔もメモ帳を懐に仕舞って、自分の席へと戻っているから、ボクも倣うべきだと思ったからか。
しかしまだ本鈴までは時間はある。
あの娘の手紙を佐助に渡すくらいなら、そう時間は掛かるまい。そう思って再度歩み出したが、ボクの足はどう言う訳か自分の席に向かって、そこに腰を落ち着けてしまった。

「相変わらず素っ気ないね〜。俺様がっかり。」
「これ以上ボクに何しろって言うんだよ。」
「それ言っちゃ御仕舞いでしょうが〜。」

何時もの、どうでもいい遣り取りを交わす。
その最中でも、手紙を渡せと頭が命令しいるのに、何かが引っ掛かっているのか、シグナルは腕に届いてこなかった。

キーンコーンカーンコーン…

本鈴が鳴って、佐助は身体を黒板に向けてしまったし、教師が教室に入ってきて、静まり返った教室でそれを渡すのは憚られてしまった。

結局彼女の白い封筒は本来の受取人に渡る事無く、未だボクの取材ノートに挟まって潰されたまま。次の休み時間にでも渡そう。そう決めると、何故か脳内で行われるシュミレーション。

御陰で、得意の地理の授業、当てられたのにまともに答えられなかったじゃないか。

何故ボクがこんな気分にならなきゃならないの?
それもこれも全部全部、佐助のせいだ。




後日、あの娘が振られたと風魔に聞くまで、変な気分は続いた。


fin
20110308
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ballad

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