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「古井先生、職員会議があるので、光秀を呼んできて貰えないかしら。」
「…濃姐さん、それは死刑宣告ですか?」
「お願いね。」
「無視ですか?」
魔城的保健室
畜生、また嫌な役が回ってきた。
確かに今年の新採用教師だから、損な役が回ってきても仕方無いとしよう…。
でも、あんまりだ。放送で理事長が“ぬぅぅっ!!紙で手をォ、切ってしまったァ〜!!”とか叫べば飛んで来るって、あの人は。我が校が誇る、名(迷?)保健医、明智光秀は。
以前、まだ私がこの学園に溢れんばかりの希望を持っていた頃、職員会議があると言うのに、教務室に来ようともしない明智先生を呼びに行かされた事があった。
殆んど接触が無いものだから、あたしの中で明智先生は"綺麗な男"と言うイメージしかなかった。だから、『お友達になれるかも!』とか浅はかなことを考えて嬉々として呼びに行ったっけ…。ふっ…若かったな…私し。
あれから、ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと、明智先生を呼びに行くのは私だ…。
回想もしたくない。
しかし濃姐さんの“お願い”(と書いて"命令"と読む)は絶対なので、重い足取りで死神の居城……否、保健室に向かった。
「……はぁ〜。」
*****
さぁ、着いてしまった。どうしよう。どうせノックしても無視なんだよ。だからといって『明智先生ぇ?古井ですぅ〜。職員会議ですよぉ?』と猫撫で声で言った所で逆効果。既に実証済である。
そーっと入ってもダメ。敵はあたしの気配を感じ取る。
となると残る方法は唯ひとつ────
「やぁ、猿飛君。」
生徒を囮にする、だ。
そんな訳で、偶々通った猿飛に声をかける。
「何してんの?シイカちゃん。」
「こらこら、せめて先生を付けようよ。」
「あ、ごめん。」
「まぁ今日は許してあげよう。所で先生の頼み事を聞いてくれないかな?」
「…明智先生の類?」
「………何故分かった。」
「俺様伊達に新聞部じゃないんだよ?シイカちゃんが明智先生を呼びに行かされてる事も、明智先生に狙われてる事も知ってるよ。」
「狙われてるの?!」
「知らなかったの?!!」
「だったら尚更だ。廊下まで呼び出すだけでいいからさ。か弱い女教師を助けるってポイント上がるよ?」
「か弱くないでしょ。」
「まぁそう言わずに、お願いよぉ〜、猿飛君」
「はーいはい、明智センセー!!古井センセが用事あるみたいですよーー!!」
突然猿飛は私の背を押して、保健室に押し込んだ。
「うわァァァァァァァァ!!!裏切者ォォォォォォォォ!!!」
「そう言わずにさ。先生が来てから明智先生大分落ち着いたんだよ?可愛い生徒達の為に頑張って!!」
去り際に猿飛はそうほざき、序でに保健室の扉をぴしゃりと閉めて行った。
畜生、覚えてやがれ!!
*****
くそぅ、こうなったら已むを得ん。
意地でも明智先生を教務室に連れてってやる!!
私はそう心に決た。…決めざるを得なかった…
しかし、先ずは退路の確保が大事。警戒しながら扉の方へ後退る。
敵の気配無し。
よし、あと一寸で脱出口だ───
ガラッ!!
「!!?」
突然脱出口の扉が滑った。
「おや、シイカ先生。」
マ ジ で か。
今一番聞きたくない声だよコレ。しかも既に背後を捕られちゃったよ。そろりと伸びてくる腕の気配を逸早く察知し、振り向いて後ろに飛び退く。
「あああああら、明智センセー。出てらしたんですか?」
背筋に嫌な汗を感じつつ、私は不自然じゃないように微笑んだ。…吃りまくりだがな…
明智先生は少々残念そうに「おや…」と言ってから続ける。
「ええ…給湯室にお茶菓子を頂きに行ってきたのですよ。」
「あらぁ〜あ、そうでしたの。勝手に入ったりして御免遊ばせ?」
口調が変わってますが悪しからず。愛想笑いを浮かべて返す。
「いいんですよ。貴女が私に会いに来て下さったのですから。」
言いつつ明智先生はにじりにじりと距離を縮めてくる。私もにじりにじりと距離をとる。
端から見たら、怪しいこと限り無い。
「ああああ会いに来ただなんてそんな自殺行…ゲフンゲフン、畏れ多い。職員会議が始まるので呼びに参りましただけですのよ〜。」
うふふふふふ〜と、何処ぞの魚介類一家の長女のように笑って、言葉を返す。
とっとと用件を伝えて退散したい。此処は奴のホームグラウンドだ。何されるかなんて予想もつかない。
「…ふふふふふ、そんなに照れる事は在りませんよ。」
照れてない照れてない。
何だコイツ。勘違いも甚だしい。
「職員会議などより、此処で一緒にお茶でも飲みませんか…?」
いやいや、アンタ今飲んできたばっかだろ。
「おほほほほ。残念ですが、ワタクシ新採用ですので、出席はどうしてもしませんと、理事長に叱られてしまいますわ。」
おほほほほ、って何だ、自分。我ながら気持ち悪いな。
「そうですか…信長公に叱られるシイカ先生ですか………ああ…イイ……!!」
しまったァァァァァァァァ!!変な妄想してるぅぅぅぅ!!
「そそそそおでしょうか?でもまぁ、取り敢えず職員会議ですので、教務室に参りましょう?」
「おや…誘ってくれるのですか…?ふふふふふ…今日は随分と積極的ですね…。」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
なんか変な方向に翻訳されてるぅぅぅぅぅぅ!!!誰かァァァァァァァァ!!翻訳家を呼んで下さァァァァァァい!!!
「ああああ相変わらず、面白い事を仰いますのね。でででででは、ワタクシ、先に参りますわね。」
然り気無く(凄く不自然な気もするが)、私は明智先生の横を通り、保健室……否、死神の居城をあとにしようとした。
……しかし、考えが甘かった。
ガシィッ!!
「!!?」
「折角来たのですから、少しゆっくりしていったら如何ですか?」
や、だから職員会議だっつーの。
「駄目ですわ、もう時間ですもの。」
言いつつ掴まれた腕を振り払おうとする…
…が、ほどけない。
ちょっと、この人、その死人のような体の何処にこんな力を隠し持ってるのよ。
「いいじゃないですか…。一緒に信長公に叱られましょうよ。」
明智先生は優しく微笑んで舌舐め摺りをする。
笑顔が意義を為してません。
「…(恐っ!!)放してくださいっ!!」
「ああ…困った顔もまた可愛らしい…ハァハァハァ。」
駄目だァァァァァァァァ!!!
この人変態だァァァァァァァァ!!!
息が上がってきてるよ!きもいっ!
心中で突っ込みを入れるのに必死でいると、不意に体のバランスが崩れた。
「ぎゃふっ!」
「もう少し愛らしい悲鳴を上げて貰いたいですね…。」
あたしは明智先生に引っ張られ、奴の胸に鼻をぶつけた。
そしてしっかりと抱き竦められていた。
要するに……逃げられない。
助けて下さァァァァァァァァい!!!
「ああ…随分良い香りがしますね…ククク…」
ぎィゃァあぁァァァァあぁ!!
首っ!!首に顔寄せてきたっ!!
思わず肩に力が入る。しかし変態にこの行動はタブーだった。
「そんなに怖がらないで下さい。ただ、捕って喰おうとしているだけなのですから。」
「何だそれっ!!そんな宥め方初めて聞きましたよっ!!」
「おや、元気になりましたね。」
「元気になったじゃねェェェェェ!!いい加減放して下さいよ!!セクハラですよ!!」
「ああ…、保健室はイイです、すぐ横になれるところがあって。」
「話聞けェェェェェェェェェェ!!」
抵抗虚しく、そのままベッドのある方へ連れていかれる。
ヤバイ!!!
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!
古井 シイカ絶体絶命のピーンチ!!
このままいけば確実に万事休すだ!!!何がって?ご想像にお任せしますよ、畜生!!
いや、諦めるな、シイカ!!
諦めたらそこで試合終了だっ!!私はまだ諦めないっ!!
「っ!!放せェェェェェェェェェェッ!!」
右手で拳を作り、明智変態の胸板に思いっきり叩きつけた。
ゴッ!!!
「ぐっ!?」
鈍い音と共に、拘束力が弱まる。
その隙にするりと変態の腕を抜けることに成功した。
やった!!私はやったよお母さぁぁぁぁぁぁぁんッ!!心の中で雄叫びをあげた私は、眼前で片膝を付く変態が復活しないうちに、扉に向かい、外に出た。
そして扉を半分だけ開けて
「職員会議が始まりますのですぐ来てくださいねっ!!」
と、再度明智先生に言って、ぴしゃりと扉を閉めた。
「はぁ…はぁ…こ、怖かった……。…。マジで終わったと思った…」
教務室に戻ったら、今度こそ濃姐さんにお願いしよう…。もう変態の相手は嫌です。って……
─── 一方明智は、
「っ…、シイカ…貴女の拳、なんて素敵だったでしょう…ああ…イイ…!!」
魔城的保健室
そこには変態と言う名の紳士が住んでいるっ!!
fin
後日談
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後日。3年1組教室
「生物のテスト返しまーす。青木ー。」
「はーい。」
「西園寺ー。」
「あーい。」
「猿飛ー。」
「はいー…ってあれェェェェ!!?」
「どうした猿飛。」
「え、シイカちゃん、採点 変だよっ?!」
「どこが?」
「全問正解で名前もあるのに何で0点?!」
「お前は生活態度の“人助けをする”の項目が-100点だから、それを足しておいた。」
「何それっ!?小学校の通知表みたいっ!!てか、アレ根に持ってんのっ?!謝ったじゃん!!」
「うるさい!授業妨害で-25点っ!!」
シイカは佐助の答案を取り上げ0を二重線で消し、-25と直した。
「えぇっ?!!そりゃないぜーッ!!」
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後書
や、やってしまいました……。
書いていて私自身、非常に楽しんで居りましたが、何と申しますか…何とも混沌な出来上がりに成っておりますね……
明智さんは非常に書き易かった故に、全力で疾走させてしまったのですが……冷酷なイメージを崩されたら申し訳御座いません
拙作ですが楽しんで頂けましたら幸いに御座います。
此処まで読んで下さり、本当に有り難う御座いました!!
20071122
20100113 加筆修正
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ballad
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