「これ、シイカにあげる。」
「え…?いいの?」
「うん。おおきくないとタネができないから。」
「ふーん……。ありがと。」


「猿飛ー、HR終わったぞー。」
「んあ?あー、俺様寝ちゃってました?」

担任の声に目を覚まし、頭を上げたら、教室はほぼ裳抜けの空。
どうやら俺様とした事がHR中寝てたらしい。
ぐうっ、と背筋を伸ばせば、それを確認した担任は、速く部活行けよー、と言い残して去っていった。
居眠り中だったからあんまり覚えてないけど……何か、懐かしい夢見たなー……。

今日は金曜日。
明日は旦那が待ちに待ったサッカー部の大会。
今回は旦那の好きなあの娘が応援に来るらしい。って事は、彼女の付き人的なシイカも着いてくるよね?イイトコ見せちゃおっかなーっ。なぁんて事、思いながら鞄を持ち上げ、教室を出ようとしたその時だった。

………ガチャ、

「?」

物騒な音。
後頭部に感じる固い物の感触。
目だけ殺気立てて振り返れば、そんな俺なんかよりよっぽど目の据わったヤツがいた。

「佐助、盛大に死ね。」
「何でっ?!!!」

見れば、今の今まで考えていた幼馴染みのシイカが、そりゃあもう人類最凶みたいな形相で俺の後頭部に銃口を当てている。

「ちょ!!シイカっ!!何してんの!!学校で拳銃はヤバいでしょ!!」
「五月蝿い黙れっ!!ちゃんとライセンスは持ってるから大丈夫だっ!!」
「そういう問題じゃないからねっ!!物騒だからしまってっ!!」

素早く振り向き俺はシイカから彼女の銃を取り上げる。

「あっ!返せっ!!」
「あはは〜、届いたらね〜。」

身長差があるから、俺が腕を上げればシイカには届かない。
だから、俺の周りでジャンプしてるわけだけど………かーわいー……。
流石は俺が惚れた女だよ。うん。

「……っ!返せェェェっ!!!!」

そんな事を考えてたら、シイカは突然叫んだ。かと思うと、この俺ですら確認できない程の高速回し蹴りが横っ腹目掛けて繰り出される。勿論、避けられる筈もなく、

ぐぎり゙っ!!

「い゙ゃ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙!!!変な音したァァァァァァァっ!!!!」

痛みとショックで俺は脇腹を押さえて倒れ込む。ぐぎり゙、て!!発音すら出来ない擬音が出てきたんですけどっ!!
高さがなくなった俺の手から拳銃を易々と取り戻したシイカ。
それを手に馴染ませて、蹲る俺を見下して言う

「ふん!馬鹿めが。佐助の分際でボクから何か奪おうなんて10の68乗年早い!」
「無量大数?!!!幾ら何でもそれはないでしょ?!ってか、その頃地球滅びてるよ!!」
「佐助には不可能だって言ってるんだ。それくらい汲め。そんなんだから佐助はモテないんだぞ。」
「関係ないよねっ?!!つーか自分で言うのもなんだけど、俺様結構モテるよっ?!!」
「自惚れんな猿がァァァァァァっ!!!」

バンッ!バンッ!バンッ!

「やめてェェェェェェ!!!!学校で発砲しないでェェェェェっ!!!!」

俺は発射された弾丸を避けつつ素早く立ち上がって、シイカの手ごと銃を押さえ付ける。

「わっ!?やめろ!!佐助菌が伝染るっ!!」
「何その小学生みたいな悪口っ!!てか発砲とか危ないから!!流れ弾が誰かに当たったらどうすんのっ?!」
「全部佐助が当たれば良いだけの話だろ。」
「普通に酷いね!!何なのさ、いきなり死ねとか何だとか……。俺様なんかした?」

まぁ、割りと何時もの事だけど、さっきの発言(佐助菌)から何時も以上に可笑しいシイカに俺は聞いた。
そしたら溢れんばかりに目を見開き、シイカは答える。

「……貴様、しらを切るつもりか……!!」
「しら切るって、俺様心あたr…」

ヒュ………

“り”を発音し終わる前に空気が切れる音がした。

メキメキ、バキッ!!

「にぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!!折れたっ!!今絶対 肋、折れたァァァァァァァァァァァァっ!!!!」

思ったが早いか、がら空きだった俺の横っ腹に、これまた強烈な回し蹴りが入る。
完全に骨が粉砕した音だったんだけどっ!!
とってもじゃないけど立ってらんない俺は、再び脇腹を押さえて蹲る。

「ちょ……、今のはマジできいたんだけど……。本気で痛いんだけど………!!」
「幼馴染みの誼だ。今すぐ楽してやる。」

ガチャン、

「いやいやいや、銃構えないでよ。銃口こっち向けないでよ。」

バンッ!

「ぅ危なっ!!!?返事くらいしてっ!!?」
「ちっ、外したか……」
「シイカちゃぁぁぁぁぁん!!!俺様が悪かったから!!よく分かんないけど、ホントもう俺様が全て悪いって事にして良いから、怒ってる訳を教えてぇっ!!!」

突然の発砲に反応した我が身体を褒めてやりたい。が、それよりっ!!
理不尽極まりないこの幼馴染みの不可解な行動の理由を俺は聞いた。……縋る様に。

「貴様ぁぁぁぁっ!!!あれ程の愚行を犯しておきながら忘れたと言うのかっ!!!」
「や、よく分かんないけど、忘れちゃったの!!ゴメン!!ほんとゴメン!!」

この怒り方だと、何とな〜く予想はつくんだけど……、ねぇ。取り敢えず謝っとこーと、頭を下げる。すると返ってきたのはこんな言葉だった。

「御嬢様に……家の御嬢様にサッカー部の大会が明日あると唆したのは、佐助、貴様だろうっ!!!!」
「はぁっ?!!」

シイカの返答があまりにもあまりにもなもので、すっとんきょうな声が出る。
主大好きなシイカだから、仕えてる御嬢様関係だって事は何となーく予想してたけど、サッカー部の大会何時か教えたとかそんな内容って……!!

「俺様じゃないよ、俺様じゃっ!!」
「嘘つけっ!!他に誰がいるっ!?」
「一杯いるでしょ?!サッカー部なんか!!ほら才蔵とか、鎌之助とかかもよ?!!」
「うるさぁぁぁぁいっ!!!霧隠は無口だし、由利は自分のスケジュール頭に入ってないっ!!となれば佐助、貴様以外に考えられるかっ!!」
「ちょ!!サッカー部もっと人数いるよっ?!!3人じゃフットサルもできないからっ!!」
「後の奴らは真田と同じく御館様馬鹿じゃないかっ!!問題外だっ!!!」
「確かにそうだけど…!!あ!旦那はっ?!旦那が言ったんじゃないっ?!!」

ふと、最有力な選択肢が出てない事に俺は気付く。
学年が一緒だし、旦那はその御嬢様に気があるみたいだし、よく一緒に甘味巡りとかしてるし……、

「……真田、だと……?」

俺の言葉にシイカは眉を動かせた。

「じゃない?男子の中じゃ一番身近で、シイカの知らないトコで接触できるったら旦那ぐらいでしょ。」
「………確かに……」

納得したのかシイカは銃を下ろし、腕を組んで唸りだす。良かった、助かった……。
旦那には悪いけど、尊い犠牲になってもらおう。御免ね、旦那。明日のおやつは団子5本あげるから。(何時もは3本まで)

「…………だったら、」

心中で旦那に謝罪してたら、シイカは呟き、腕を解いた。

「だったら?」
「だったらやっぱり貴様が悪いんじゃないか、佐助ェェっ!!!!」
「何でっ?!!!」

再び理解不能な発言をかましたシイカは、再度銃口を俺に突き付ける。

「ちょぉぉぉっ!!?何でっ?!何で旦那が言ったら俺様のせいになるのっ?!!」
「とぼけるなっ!!自分の息子だろうがっ!!しっかり仕付けろ!!!!」
「息子っ?!いやいやいや!!俺様、旦那のお父さんじゃないから!!身の回りの世話は頼まれてるけど、仕付けはしないよっ!!!」
「お父さんじゃないだろ、佐助は!佐助は真田のオカンだろ!!?しっかりしろオカン!!」
「そっちっ?!!せめて性別は変えないでほしいんだけどっ!!」
「ちなみにお父さんは御館様だっ!!!」
「そんな暑苦しい家族、嫌っ!!」

言いながらシイカは1歩ずつ、確実に俺との距離を縮める。
銃口が俺の眉間をロックオンしてるんですけどっ!!まずいっ!!このままだと本気で殺されるっ!!そしてシイカはその後、俺が自殺したように細工するんだっ!!
違いない!!

「ちょ!!待って待ってっ!!言ったのは旦那かもしれないけど、シイカンとこの御嬢様が旦那に聞いたのかもしれないよっ?!!!」

それだけは勘弁してほしくて、俺は一歩ずつ後退する。何とか逃れようと苦し紛れに紡いだ言葉は、逆にシイカの神経を逆撫でした。

「貴様……っ!!!御嬢様を疑うのかっ?!!人を疑うとは堕ちたな、佐助っ!!!」
「え?シイカも疑ったよね?俺様の事疑いまくってたってか現在進行形で疑ってるよね?」
「口答えするなっ!!」

バンッバンッ!

「のわぁぁぁぁぁっ?!!!ちょ、俺様でなかったら死んでるよ、今のっ!!!」

本日二度目の予兆無しの発砲。
再度反応した俺はホントに凄いと思う。ホント、褒めてほしいよ。
しかしシイカは御構い無しに引き金に指を回す。

「御嬢様の仰る事は全て正しいが、佐助如きのほざく事なんかを一々信じてられるか。」
「幼馴染みなのにっ?!!」
「はっ!だからなんだ!!幼馴染みが可愛くて優しくてドジッ娘なのは二次元の中だけだ、愚か者めっ!!!」
「別にそんな事思ってないからっ!!てか落ち着けって!!さっきから言動が何時もと違うよ!!?」

幾ら我が君の為とは言え、あまりの暴走振りに俺はシイカの肩を掴んだ。

「黙れ佐助っ!!御命頂戴っ!!」
「ちょっ!!?待っ……!!!」

俺の手を振り払い、シイカは素早く俺のこめかみに銃口を突き付け、引き金を引かんとした時だった、

ガラッ、

「シイカちゃーん、帰ろ………シイカちゃん?」

教室の扉が滑って、誰かがシイカを呼んだ。
俺の目の前に居るシイカは、名を呼ぶ声にピクリと反応すると、銃を下ろして素早く振り返る。
紛れもない、その声の正体は…

「!…御嬢……、様っ」

だった。
教室入り口で不思議そうな顔をする下級生の御嬢様ちゃん。
た、助かったぁ〜……。一瞬本気で死を覚悟したよ!!胸を撫で下ろせば、彼女はやっぱり不思議そうに口を開いた。

「シイカちゃん…?どうかしたの?」
「あ、いえ、その……佐助に…しゅ、粛清、を……」
「粛清?」

ばつが悪そうに答えるシイカに御嬢様ちゃんは首を傾げる。
チャンスとばかりに俺は口を開いた。

「ちょっと聞いてよー。シイカってば、俺様が君にサッカー部の大会が何時か教えたって言って、もー、俺様殺されそうになったんだよー。」
「わっ、ばっ、佐助っ……!!」

いきなり口を開いた俺に狼狽えるシイカ。
そんなシイカを尻目に、俺は仕返しとばかりに御嬢様ちゃんの反応を煽った。

「サッカー部の大会、俺様、君に教えてないよねー?」
「はい。サッカー部の大会はわたしが真田くんに直接聞いたんです!」
「………え…?」

にっこり微笑んで答える御嬢様ちゃんにシイカが放心する。

「ほらぁ〜、言った通りじゃーん。俺様に当たるのは筋違いだって。」
「あ……す、すまん…。ボクが悪かった……」
「どーする?一歩間違ってたら俺様死んでたけど?どー落とし前つけてくれんの?シイカちゃーん?」
「うぅ……」

意外と素直に謝るシイカに俺は意地の悪い質問を吹っ掛けた。
形勢逆転。にやける顔を押さえ付けて、俺の頭に過ったのはその4文字。
歯を食い縛るシイカの顔を覗けば、悔しそうにこう言った。

「ボクが…悪かったよ。……だから…次のサッカー部の大会、ボクは見に行かない!!」
「……え?」

返ってきた答えに耳を疑う。
何?行かないって言った?

「え?な、ちょ、どゆこと…?」
「御嬢様だけでは心配で堪らないからついていくつもりでいたが、佐助に言われて気付いた。ボクは御嬢様の事になると回りが見えなくなるんだ。だから、今回は御嬢様離れの良い機会だと思ってついていかない。そうしようと思うんだ。」

理由を請えば、至って真面目な顔してシイカは答えた。
いやいやいや……、んな今更……ってそれより、何でそうなるかなっ!!
可笑しいよ!可笑しすぎるって!
だから応援に行くよ☆、的な返答を待ってたんだけど!!

「と言う訳で御座います、御嬢様。当日は御友達を御誘いの上で御出掛けくださいませ。」
「あ、うん……寂しいけど、シイカちゃんがそうしたいなら、良いよ。」

ちょっとォォォォォ!!!!許しちゃうのっ?!!ついてきてもらわなくて良いのっ?!!

「申し訳御座いません……、ボク如きの我儘を……」
「ううん。いいよ。わたしもずっとシイカちゃんに頼りっぱなしじゃ駄目だもん!」
「御嬢様……」

心中で突っ込むも、そんなん聞こえる筈もなく、にこっ、と笑って拳を握る御嬢様ちゃんとそれに感涙しそうなシイカ。
………アレ?これ、俺、もしかしなくても省られてる?

「では、帰りましょうか、御嬢様。旦那様方が御心配召される前に。」

そんな俺を知ってか知らずか、話を綺麗に纏めたシイカは生徒玄関へと踵を返す。

「うんっ!あ!猿飛先輩、さようならー。」
「あ、うん…ばいばぁーい……」

無邪気に返事をした御嬢様ちゃんは、忘れ物でも思い出したかのように俺に手を振って、シイカを従えて帰っていった。

……………やっぱ、省られてたんじゃん、俺っ!
振り返した手が嫌に虚しくて、彼女等が見えなくなって直ぐ様下ろす。

「シイカ、来ないのかぁ……」

一人残された教室で、ふと、頭に浮かんだのはシイカの行かない発言。
あーあ、一気にやる気失せた。別に元からそんなにあった訳じゃないけど。

「……はぁ、取り敢えず、練習行こう…」

溜め息もそこそこに、西陽が差し込む虚しさ30%増量中の教室を後にした俺はグラウンドに出るべく、生徒玄関へ足を向けた。

* * * * *

「……あれ?」

玄関先に佇む影を見付けて俺は声を出した。
部活帰りにしては早すぎるし、帰宅部にしては遅すぎる。シルエットから女子だと思うけど、彼氏待ち?
……いいねぇ、皆さん俺様と違って青春真っ盛りでさっ!
心中で自虐しつつ俺は彼女に顔を背けて歩を進めた。

すると、

「あ、佐助!」
「え?」

声が掛かって顔を上げれば、さっき帰った筈のシイカ。

「シイカ?!……な、何やってんの?御嬢様は?」
「車を呼んで先に帰って頂いた。ボクはちょっと忘れ物。」
「忘れ物?教室には何もなかったけど。」

俺が首を傾げると、シイカは違う違う、と鞄を漁りだした。

「えー……っと……。あ、あった、あった!」
「?」
「はいコレ!」
「あ……これ……、」

言ってシイカが付き出してきたのは、見覚えのある花が、押花にされて貼られている栞だった。

「これって……昔、」
「そうそう。幼稚園の時に種が何とかーって佐助がくれたやつ。それ持ってると気持ちが落ち着いて何かと成功する事多くてさ。」

御守り代わりなんだ、とはにかむシイカ。
不意打ちの笑顔に心臓がドキリと波打った。

「まだこんなん持ってたんだー……。」
「うん。初めて人から貰ったものだし。」
「へぇ……」

嬉しい半分、大事に持っててくれてたみたいなのがちょっと恥ずかしかった。
染々と栞を眺めて、返そうとしたら、その手は突き返される。

「……?」
「大会、見に行かない代わり、なぁんて言ったら変だけど、貸したげる。勝ってこいよ!」

そう言ってシイカは俺の背中をバシッ、と叩き、笑った。
それは照れ隠しなのか、ノリなのか……。
どっちだって変わんないんだから、何でもいいか、




「痛ー!……もー、シイカちゃん乱暴ー!」
「ごめん、ごめん!でも、それ貸しただけだからな。ちゃんと返せよ、ボクの精神安定剤。」
「え、これ、精神安定剤?………マジで?」

不覚にも期待してしまった。



fin.
20080712
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ballad

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