battle.09
「成城誠騎さん!是非我がソフトボール部に!」

「いいえ、新体操部に!」

「女子バスケ部に!」

「バレー部ならエースになれるわ!」

「水泳部に来てください!」

「我が剣道部に是非御力を!」

「なりませぬ!陸上部に御越しくださいませ!」

「あー……いや……あの…」

入学式の翌日、転校翌々日。
かすがは朝練、長曾我部は寝坊の為1人で、ガソリン切れの為徒歩で登校したら、部活勧誘に捕まった。いや、囲まれたって言った方がいいのか?
兎も角、見事に身動きがとれない訳で。
新入生勧誘期間中のせいか、妙に気合いが入っているみたいだが、何故私の所にこんなに集まる!しかも全部運動部!どう言うことだ?!

断るなり掻き分けるなりして切り抜けたいのは山々だが、如何せん寄ってきたのは女子だ。
無碍にするのが躊躇われる。

何故か?
それは千石女学院警備委員の信条が身に付いてしまっているからだ。
あの委員会の仕事は学校に属する全ての女性を守ること。
危害を加えるのは勿論、委員は全員英国紳士の如く女性に優しくなるように指導を受けるのが伝統だ。
思い返すと、何とブッ飛んだ伝統か…。

まあ、1年間そんな所に身を置いて、しかもその頂点に立っていたのだから、この英国紳士精神は既に学内だけじゃなく日常生活にも影響を及ぼしている。もうこれ洗脳じゃないかな。
兎に角、そんな訳で押し寄せる女子生徒に笑顔を返すしか手立てはない訳で、それでも時間は進む訳で、部活勧誘の申し出をしていない私はこのままでは遅刻する訳で……!!!

何とか切り抜けようと考えを巡らしていた時だった。

「朝から何だァ?邪魔だぞ。」

「!」

聞き覚えのある声に振り返ると、原チャに跨がった長曾我部。
不機嫌そうに眉を寄せて斜に構えた顔が如何にも不良っぽい。
奴は振り向いた私に気付いたのか、目が合うと原チャを降りて此方に寄ってきた。

「何やってんだアンタ。遅刻すんぞ。」

「いや…ちょっと……」

威圧的な問い掛けに愛想笑いを返すと、長曾我部は暫く何か考えてる風に黙った後、原チャに跨がる。
そしてバリケードの様な女子達の真ん中であろう事かエンジンを蒸かし始めた。
危険を感じたのか彼女達が怖ず怖ずとバイクの進路になるであろう場所から離れると、一本の道が出来る。

「お、おい…長曾我部…」

「よし、行くぜ。」

「は?…っておい!なに…っわあぁぁぁぁあああぁぁぁあっ!!?

強行突破する気じゃねぇかと懸念して声を掛けた私を、奴は発車と同時に片手で持ち上げて小脇に抱えた。状況を理解出来ずにいる間に、長曾我部はスロットルを回して原チャを走らせる。
女子達が甲高い悲鳴を上げながら四方に散る中、私は可愛げのない絶叫と供に駐輪場まで連行されたのだった。


「おらよ。」

「うぶっ!」

駐輪場に原チャを停めると、かなり雑に私を解放した長曾我部。お陰でアスファルトに直撃だ。立ち上がって、手足のゴミを払いながら奴を睨む。

「殺す気か。」

「あんだ?困ったか顔してっから助けてやったんじゃねぇか。」

「……う…。まあ、それは否めない…。」

「アンタ目立つんだからよ、気ィ付けねぇとなんねぇぜ。」

「目立つ?まさか!こんなに人畜無害の一般生徒なのに!」

「人畜無害の一般生徒は転校早々不良とタイマン張らねぇだろうが。」

「売られた喧嘩は買うのが礼儀じゃ?」

「アンタなぁ…」

呆れたように肩を落とした長曾我部。何だ畜生、失礼だ。だけど、助けてもらったのは事実だし、礼は言うべきなんだろうが……うん、完全にタイミングを逃したぞ。
だって、あんな運ばれ方、した事はあってもされた事なんてないから吃驚したんだもん…!!

決まりが悪くて目を泳がせていると、ふと校舎の天辺が目に入った。長針が12を指す3分前。

「遅刻だ!!」

「あ?あー、そうだな。」

「おい!悠長な事言ってられないぞ!早く行かないと…!!」

「急ぎゃ間に合うだろ。俺は午前はフケるからよ、虎のオッサンに宜しくな。」

「あ!おい!」

慌てるオレを余所に長曾我部は玄関とは真逆、体育館裏へと爪先を向けた。
急がなきゃ間に合わないが、目の前のサボり宣言も聞き捨てならないってかそれより奴に言わなきゃならない事がある…!!

「長曾我部!」

「!」

無駄に長い学ランの裾をひっ掴んで動きを止める。
訝しげに振り返った長曾我部が面倒臭そうに傾げた顔を真っ直ぐ見据えて私は言った。

「さっきは有り難う。助かった。」

「…へぇ。殺す気か、の後に礼を言われるなんざ流石の俺でも思わなかったぜ。」

「それはそれ、これはこれだ。仁義を欠くようなことはしない。」

「そうかい。まぁ気にすんな、こう言う時は御互い様よ。じゃあな。」

にっと笑うと、再び体育館裏へと足を踏みだそうとする長曾我部。矢鱈と爽やかなその笑顔につられつつ、もう一度学ランの裾を引っ張った。

「あ?まだなんかあんのかよ?」

「仁義ついでにな、上杉先生に頼まれた事があるんだ。」

「何を?」

「『もとちかはしゅっせきにっすうがあやういのです。ですからせいぎ、あなたのできるはんいでかまいませんから、かれにじゅぎょうをうけさせてください。』って。」

「……は?」

「だから今朝、お前の部屋行ったのに寝てんだもんな。ま、結果的に捕まったから良いけど。」

「お、おい…ちょっと待て誠騎…」

にじりと後退る長曾我部にとびきりの笑顔を向けて、その背後に回る。

「そう言う訳だ!行くぞ長曾我部!いざ教室っ!!」

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」





サボりなんて許さない!

「先生の頼まれ事は内申点に関わる!犠牲になれ長曾我部!」
「てめっ…!!きったねぇぞ!恩を仇で返すのか!?」
「何を!お前の進級に協力してやってんだぞ!寧ろ感謝しろ!」
「するか!てかさっき内申点って、」

キーンコーンカーンコーン

「あ。」
「あ。」



【続け】

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