翌日、案の定と言うか何というか、昼休み長曾我部とした鬼ごっこは【逆鬼ごっこ】として校内中に知れ渡っていた。
こうなってくると逆に近寄り難さがなくなるのか、何人かクラスの奴等が話しかけてきたのだから、まあ良しとしよう。
「成城さん足早いんだねー!」
「誠騎で良いよ。」
「部活なんかしてた?」
「委員会が忙しかったから特に入ってなかったなぁ。」
「あ、知ってる!警備委員会でしょ!?」
「そうそう。」
「ね、ね、センジョの警備委員って式典用に特別な制服有るんだよね?」
「ああ、そう言えばあったなぁ。なんか白い軍服みたいなの。」
「えー!何それカッコイイ!」
「見たい見たい!写真とかってない?」
「うーん……あ、卒業式の写メある。」
「見せて見せてー!」
「わ、めっちゃカッコイイ!!」
「これみんな女の子!?」
「まぁ、女子高だし。」
「えー!すごーい!」
漸く転校生らしさを感じ、漸く高校生活を実感している。
他愛ない会話の話題としては事欠かない訳だから、警備委員会やってて良かったかな、うん。
そうしてその日1日は楽しく、平穏無事に過ごして放課後。
部活勧誘を丁重に断って生徒玄関に向かっている時だった。
「は、放しなさい!何なんですか貴方達は!バシッとお仕置きしちゃいますよ!」
「あんた占いしてんだろ?!」
「筆頭ボコッた奴教えろよ!!」
占い同好会、と書かれた教室から聞き捨てならない会話が聞こえる。これは放っておけない。見て見ぬ振りなんざ成城誠騎の名が廃る!
扉に足を突き立てて、乱暴にスライドさせた。
ガラッと勢い良く音を立て、開いた扉の方、私の方に中にいた奴等が目を寄越す。
ボブヘアーの細っこい美少女とフランスパン並のリーゼントが2人。見たとこ長曾我部の子分ではなさそうだ。短ランだが制服を着ている。
「…楽しそうだな、何やってんだ?」
「あ!助けてください、お姉さん!」
「あんだテメェ!」
「俺等とやろうってのかぁっ!!?」
威勢が良いのは長曾我部の子分達と一緒だが、なんだ、この学校不良グループ2つもあんのか、大変だな。
美少女から標的を変え、姿勢を屈めながらこちらに眼を飛ばしてくるフランスパン達。弱い奴程、チラチラ眼飛ばすんだよな……。
仕方ねぇ、教えてやろう。
「……眼、ってのはな、」
「あ?」
「んだコラ女ァ!」
「こう飛ばすんだよ!!」
「「!!?」」
顎を引いて、眦を吊り上げる。眉間に皺は寄せない。真っ直ぐに標的は相手の目。瞬きなんてしてやらない。私からは逃げられないとその網膜に刻みつけるまでは。それが眼を飛ばす時の作法だ……と、警備委員で先輩に教わった。
「……解ったか、小者共。」
「な、何だよテメェ!!」
「調子に乗ってんじゃねぇ!!」
一瞬怯んだが尚も威勢の良いフランスパン達。中々骨があるじゃんか!私の眼付けでビビって逃げた男だって沢山居たのにやっぱりこの学校退屈しなくていい!
殴りかかろうと地を蹴ったフランスパン達と同時にオレも向かっていく。短い距離を瞬時に加速したらフランスパン達は驚いて隙を作った。2人の間をすり抜ける直前に両腕を広げて思いっ切り二の腕に奴らの首をひっかける。
「ぐふっ!?」
「うげっ?!」
「半径85センチが私の射程範囲だ。無闇に振り回しゃしないけどな。」
鈍い音と共に仰向けに延びちまったフランスパン達の頭上辺りに屈んで一言。
「嫌がってるんだからやめてやれよ。」
「この……アマ……!」
「明らかに順番が……違うじゃねぇか…!」
先に注意だろ…、と意外にも真っ当なことを言ってフランスパン達は白目を剥いてしまった。
まあ、確かにそうか。今度から気を付けよう。つーか延びるなんてめんどくさい。せめて捨て台詞と共に自力で去ってほしい。
何て胸中でぼやいていると、背中の方からパチパチと拍手が聞こえた。
「すごい!バシッ☆と悪者さん達をやっつけてくれました!」
振り向けばボブヘアーの美少女が目をキラキラさせて手を叩いている。驚いたのか床にぺたりと座っていたのでその傍へ近付いで何時もの様に手を差し延べた。
「大丈夫だった?怪我はない?」
「わぁー!素敵です!」
「……は?」
にこりと微笑めば更に目を輝かせる美少女。そこではたと気が付いた。何時もの様に、だ。例の委員会の癖、だ。つまり、私は今、あろう事か片膝を突き反対の膝を立てて手を差し延べている!!うわやっべぇ、これ恥ずかしい!!
顔に微笑みを浮かべたまま思わず固まってしまった私を気にすることなく美少女は純粋な目でこちらを見詰めてこう言った。
「宵闇の羽の方や孫市姉さまとはまた違った格好良さ!まるで異国の王子様みたい!私、キラッ☆とときめいちゃいました!」
「は……あ……そう……。」
「そんな素敵なお姉さんの御名前と学年を是非是非聞かせてくださいな!」
「あ、えっと…2年の…成城…誠騎……です…。」
「誠騎ねえさま!まあ!素敵な御名前!わたしは1年の鶴姫と言います!宜しく御願いしますね!」
「…う、うん…。」
見掛けに寄らずグイグイ押しの強い鶴姫ちゃんにたじたじになりながら頷く。
こう言うタイプは初めてだ……世間擦れしてない大人しい娘はセンジョにも結構居たけど世間擦れしてないぶっ飛んだ娘は見た事ない…。
にこにこ嬉しそうな鶴姫ちゃんを見てて悪い気はしないがどう言う顔をすればいいのか解らない。取り敢えず、笑顔、笑顔。
「えへへ、これでわたしと誠騎ねえさまはお友達ですね!」
「う、うん。」
「わぁ!嬉しいです!そうだ!お友達の記念と言ったら何ですが、誠騎ねえさまの事、占って差し上げます!」
「……占い?」
「はい!わたしの占いは当たるって評判なんですよ!」
えへん、と胸を張った鶴姫ちゃんにへぇ、と相槌を打つ。
占いかぁ。前の学校でも雑誌の星占いとかで盛り上がってる娘結構いたっけ。どこに行っても女子は占い好きなんだなぁ。
なんて思いを馳せていればワクワクした目の鶴姫ちゃんが此方を見ていた。
おおう……これじゃ断るにも断れないじゃないか。
「じゃあ、御願いしようか。」
「はいっ!!任せてくださいなッ☆」
応えれば飛び切り笑顔の鶴姫ちゃん。くるりと振り返り黒板を向くと、何処からともなくダーツの的が現れてぐるぐる回転し始めた。
あれか、パジェ●とか車とか声援送ればいいのか。
「バシッ☆と見通しますっ!」
そんな私の脳内など知らない鶴姫ちゃんは、ハートを撒き散らしながら(幻覚かもしれない)そんな掛け声と共にどっから出したのかダーツを的に向かって華麗に放った。
タスッ、と見事に命中すれば的の回転が止まる。とてとてと的に駆け寄り、当たった場所やら針の刺さり方やらを分析し始めた鶴姫ちゃん。ふむふむ、とか成る程、とか一頻り呟いた後、またくるりと回ってビシッと此方を指差した。
「出ました!女の子らしさで恋愛運アップ!です!」
「……………………あ?」
ハートを飛ばしながら(幻覚じゃないっぽい)楽しそうな鶴姫ちゃんの言っている意味を理解しようと数秒は努力した、努力したとも!でもやっぱり意味が分からない。この娘はいきなり何を言い出すんだ?からかわれてんのか?
そんな念を込めた「……………………あ?」だったのだが、鶴姫ちゃんにはどうも伝わらなかったらしい。でっかいくりっくりの目をキラッキラさせてやりましたっ☆なんて飛び跳ねている。何をやったんだ、私のメンタルか。
「そうと分かればバシッ☆と可愛く……えーっと、そう!メイクアップです!!」
「はぁ!?」
「わたしの部の皆さーん!可愛くなる道具を持ってきてくださいなーっ!」
「は!?え!?ちょ…えぇぇぇぇぇぇぇッ!!?」
鶴姫ちゃんの掛け声に「わたしの部の皆さん」がわらわらと何か色々持って湧いてきて取り囲まれた。ちらちらと男子も見えるが占い同好会だけあって殆どが女子生徒で無闇に手を挙げられない…!
「長い髪!折角だからクルッ☆と可愛く巻いちゃいましょう!」
「なっ!ちょ…!?」
「ポニーテールも可愛いけど、フワッ☆とサイドテールです!」
「わあっ?!!スカート捲んな!!」
「何てこと!タイハイソックス!スカートを巻き上げて絶対領域を出しましょう!どどーん☆とセクシーさをアップです!」
「ぎゃあああっ!!?」
「きちんと着るのも素敵ですが、女の子は……えーっと、そう!“でこるて”が大事です!リボンを外して思い切って第二ボタンまでガバッ☆と!ブレザーも前を開けましょう!」
「ちょっとォォォ!!?鶴姫さんんんん!!?」
「何てこと!…………意外と大きいんですね、誠騎姉さま…。」
好き勝手彼方此方ひん剥いといて、ブレザーのボタンを外したら鶴姫ちゃんは自分のと私の胸を見比べてしょんぼりした。
泣きたいのはこっちだよ!!!!
*****
「……ったく、何処行きやがった…。」
そろそろ飯時だから野郎共を解散させ、帰路に付こうとした時、晩飯の買い出し当番なのに誠騎が帰ってこないし、連絡が付かないから探してくれ、と慶次から連絡があって、かれこれ10分程度か。
忘れたのかすっぽかしたのか、知らねぇが、下駄箱にまだ靴が残ってたから校内にはいるらしい。
晩飯当番じゃなきゃ誠騎なんざ放っとくんだが、食いっ逸れたかねぇし、飯時逃すと慶次が面倒臭ぇ。あ、そうだ。昨日の昼飯代、何だかんだ引き分けんなったってのにまだ請求してねぇ。ついでに取り立ってか。
とか何とか考えながら見に行った教室には誰もいなかった。グランドからは独眼竜と真田の喚き声しか聞こえねぇ。体育館、武道場、球技場、屋内プール、テニスコート、誠騎が勧誘されて連れて行かれそうな場所は粗方見て回ったが、何処にもいねぇし、連れてきちゃいねぇとのこった。
まさか文化部に引っ張られてくって事ぁねぇだろ…あいつが、あの身体能力で文化部は流石に裏切りだろ…。
文化部に足を運ぶか否か迷いながら、取り敢えず玄関へ向かって歩いていた時。
「ぎゃあああっ!!?」
「…あ?」
聞き覚えのある声が耳に届く。恐らく前方の教室からだ。
注意すれば、がやがやと女子と思しき外野の声や「どどーん☆と」やら「ガバッ☆と」やら最近毛利に加えて増えた俺等に非難を浴びせる声も聞こえる。
辿っていけば案の定、「占い同好会」と書かれた扉の前だった。
*****
「………はっ!」
暫くしょんぼりしていたが、気を取り直したらしい鶴姫ちゃんは再び腰に左手を当て右手の指を付きだした。
「さて!気を取り直して仕上げです!わたしの部の皆さん!可愛く元気な女子高生らしいお化粧で、バシッ☆と変身させちゃいますよ!」
「け、化粧ぅ!!?」
「はい!あ!大丈夫です!わたしじゃなくて、わたしの部で一番ナチュラルメイクが上手な娘がやりますから!どーん☆と任せてください!」
「い、いや、そうじゃなくて…っ!!」
高2にもなってと思われるかもしれねぇが、私は化粧をする、という事自体が無縁すぎて未知すぎて恐怖感がある。
だって顔に何か塗るとかそんなの…皮膚呼吸とかできんの!?とか、汗掻いたらどうなんの!!?溶けてくんの!!?とか。
じり、じり、と迫り来るメイク担当と鶴姫ちゃんから一歩ずつ後退るも窓際に追い詰められて逃げ場を失った、同時に部室の扉が滑った。
「邪魔するぜ、鶴の字!」
最早聞き慣れた声に其方を見遣れば長曾我部。鶴の字って事は鶴姫ちゃんと知り合いか?4月半ば過ぎで良く1年生と知り合えんな、流石だ、長曾我部。
とか何とか思う私とは裏腹に、「わたしの部の皆さん」が短い悲鳴を上げて私と鶴姫ちゃんを扉の方へ、長曾我部の側へ押しやった。
待て待て待て…!!こんな格好知り合いに見られたくない…!!
抵抗しようにも人数の多さと女子相手だと手も足も出せないであれよあれよと前面へ出されてしまった。
しかし幸いにも格好が変わったせいか長曾我部はこちらに気付かず、不思議そうに部室内を誰かを探すように見渡している。
……良かった、このまま居なくなれ。と、念じてみたが、意味がなかった。と言うのも鶴姫ちゃんが果敢にも長曾我部の前に歩み出て、ビシッとその指を奴に差し向けてこう言ってしまったからである。
「現れましたね!不良さんッ!何の用かは解りませんが、今日のわたし達は貴方になんて負けません!!誠騎ねえさまがバシッ☆と貴方なんかやっつけちゃいますから!!ね!誠騎ねえさまっ!」
えへん、と胸を張った鶴姫ちゃんは私に向かって飛び切りの笑顔を寄越した。
可愛いよ、本当に。もう会いに行けるアイドルとか週末ヒロインなんかより全然可愛いよ。でも、何つー事をしてくれてんだ!!バレてしまうだろうか!!!
と思うも女の子相手にそんな罵倒は口が裂けても出来ない訳で静かに目線を逸らす。
「……誠騎?」
「っ、」
訝しげな長曾我部の声も聞こえぬ振りを決め込んだ。違う違う、爪先から頭の先まで舐めるように見られてるなんて考えすぎに決まっている。そんなの絶対有り得ない。
居たたまれず、視線をうろうろさせていた筈だったのだが、何の偶然か奴の隻眼に捕まってしまった。
「うっ!」
「……へぇ、」
くっと口角を上げた長曾我部に思わず怯む。奴を蹴倒して逃走したいのは山々だが、このスカート丈では…!!かすがじゃあるまいし…!!
思い悩んで歯軋りをする私を余所に、長曾我部は肩で風切って此方に近付いて来たじゃないか…!!!何してんだお前!!意味分かんねんだけど!!?
「ど、どうしたんですか!!?誠騎ねえさま?!」
固まった私に戸惑う鶴姫ちゃん。基はと言えば君のせいだよ畜生!!
動けないは頭は回らないはで、歯軋りは奥歯を噛み砕かんとばかりに強くなり、ぎちぎちと悲鳴を上げる。もう他人に聞こえるくらい鳴ってる。
それなのに間近まで迫ってきた長曾我部。何をするかと思えば私の顎を掴んで持ち上げた。
「っ!!?」
「良いじゃねぇか、その格好。」
「!!!!」
ニヤリと厭に含んだ笑いを浮かべられて全身の毛が逆立つ様な謎の感覚に襲われ、何かがぷつりと千切れた気がする。
「………ち……」
「ち?」
「………
近寄んなクソがァ!!!!」
「がっ!!?」
そう感じたが早いか、オレは自己記録更新する勢いで長曾我部の鳩尾に右ストレートを抉り込んだ。
女らしさなんて知らないし
知りたくないし!!解んないし!!
「わぁ!流石に誠騎ねえさまっ!不良さんをどーん☆とやっつけちゃいました!!」
「っ誠騎……っ!ッの野郎ォ…!!」
「もうやだこんな格好!!!」
「ああっ!何てこと!折角可愛くしましたのに!」
【続け】
御題配布拝借→
ひよこ屋様