「長曾我部ー。仕度出来たぞー。」
「おーう。」
奴の部屋のドアを叩いて声を掛ければ中から返事かした。
今日は新学期前のオリエンテーションとやらの日。同じ原チャ通学って事で上杉先生はオレの事を長曾我部に任せて馬で出勤して行った。
本当に馬使うのに驚いたのは言うまでもない。
それはさておき、かすがはそれと一緒に、前田は別の寮から迎えが来てそいつらと一緒に行って、寮に残ってんのは私と長曾我部だけ。
「……何だその格好?」
故にわざわざ私が呼びに来てやった訳だが、赤紫の長ランを纏った長曾我部は部屋から出るなり此方を指差した。
「ん?これか?前の学校の。転校が急だったから制服まだ出来てないんだ。」
失礼極まりねぇと思いつつも、腕を広げて見せれば、奴はへぇと短く言う。
私からして見れば長曾我部の赤紫の長ランのがよっぽど何だそれだが、一応卒業まで長い付き合いになるだろうし、最低1年は同じ寮の寮生な訳だし、転校早々突っ掛かんのは気が引けたんで言わないでおく。
「スカートじゃねぇのか。」
「うち女子校で好きな方選べたんだよ。おかしいか?」
「いや。」
長曾我部は珍しいもんでも見るような目をしたが、その後は別段気にせず、連れ立ってチャリ置場に向かった。
相変わらず雑然とした駐輪場で、愛車に跨がりエンジンを蒸し発車の準備をする。
「一本道だから、迷う事ァねぇだろうが、はぐれんなよ。」
「りょーかーい。」
直前に頭だけ振り向いて私にそう告げる長曾我部。
あんなひらひら靡く長ラン見失うかよ。しかも、ノーヘルじゃんあいつ。
なんて考えながら、その後を追って行けば、間もなく巨大な校舎が姿を現した。
おーおー、噂に違わぬでっかい学校だな。
よそ見運転になるが、校舎を仰いで、ふと校門前に目を遣れば、見覚えのある金髪。
「誠騎、」
「かすが!」
先に行った筈のかすががいて、此方に気付くと手を振った。
傍に停車すると、長曾我部は後頼むぞ、っつって生徒玄関前の人集りに向う。
「あれ何だ?」
「クラス発表だ。誠騎は急な転校だから職員室に行かないと分からないらしいぞ。」
「そっか。」
「駐輪場は向こうだ。私は玄関前で待っているから停めてくるといい。」
かすがはそう言って駐輪場であろう方向を指差す先にはでっかい松の木の向こうに、金属製の屋根が見えた。
「分かった。じゃあ後でな!」
「ああ。」
場所を確認して再びエンジンを蒸し、かすがの指差した方へ、駐輪場に車体を向ける。
ちょっと走れば立派な自転車小屋が姿を表した。
おお、学校もデカけりゃ、駐輪場もすんげーな。かなり広いぞ。
…でも何でだ?みんな端の方にごちゃごちゃって停めてある。
不思議に思いふと中央を見れば、大量の改造原チャ。
成る程。不良が占領してるか。
確かに近くにいかにも不良な輩が駄弁っている。
此れから世話になる寮生やら同級生なら気が引けるが、不良相手に引き下がるのは癪に触るな。
第一、私は転校生でその辺のルール知らないし、ぶっちゃけ関係ないし、不良になんかビビってらんないし、かすがが待ってるし。
そんな訳で私は駐輪場入口のごちゃごちゃを突っ切って、改造原チャの並ぶなか、何故かぽっかりと空いている場所に愛車を停めた。
「オイ、テメェ。何やってんだァ?」
案の定、私に気付いた不良A(仮)が突っかかってきた。
「駐輪だが何か文句あるのか?」
「大有りだボケッ!!そこが誰の場所か知って停めてんのか?ア゙ァ?」
不良B(仮)が加勢に現れる。
オイオイ、1人相手に2人掛かりかよ。
「知らないな。強いて言うなら理事長。」
「何だとテメェ…」
「見ねぇ顔だな…。何処の学校だ。」
「テメェ等と同じだって。新学期に此処にいるんだ。考えたら分かるだろ?」
まぁ、制服は違うがな。
「…テメェ、俺等を舐めてンのか?」
「女だからってタダじゃ済まねぇぞ。」
挑発的な態度で言うと、不良C(仮)不良D(仮)不良……ああ、もう面倒臭い、その他大勢も加勢に来る。1対4てどーよ。チンピラか?テメェらは。
私は舌を打って、奴等を睨みつけた。
ばきばきと指を鳴らして威嚇をしてくる奴等に向かって、溜め息を吐き構える。
「テメェらから仕掛けてきたんだ……悪く思うなよ!!!」
殴り掛からんと囲んだ不良共に、負けじと肩を回してオレは拳を振り上げた。
*****
「どーだ、思い知ったかこの野郎!!」
「つ、強ぇ……」
「何だコイツ……」
死屍累々じゃないが、その上でふんぞり返る。
言うほど強かないのに喧嘩売って来るんだから根性は認めるけど。
単純な話だ、いわゆる素人の喧嘩だから。
飛んできた拳を受け流してやるだけで片が付いた。私に拳が当たらなかったのはさぞストレスだっただろう。
「……あ、やべ。」
久し振りの喧嘩騒動を満喫したが、兎も角。ふと、先程別れたかすがを思い出し、私は伸びた不良が重なる山から飛び降りた。
やばいやばい。
かすがが玄関前で待ってんだった。
軽く手や膝を払い、鞄を持ってオレは踵を返す。
「………あ。そうだ。」
が、途中で止めて、伸びた不良に言った。
「喧嘩だったら何時でも買うぜ。また遊ぼうな!」
にやりと口角を上げれば、奴らは目に見えて恐怖染みた表情を浮かべた様な気がした。
あんまり見くびるなよ!
この学校、退屈しないですみそうだ!
「うおっ?!どうした、野郎共っ!!?」
「あ、アニキぃ〜」
「変な奴に殺られちまいやした〜。」
「変な奴?」
【続け。】