battle.06
駐輪場へ行く道すがら、長曾我部に教師陣やクラスメイトの事なんかを聞いた。
面倒臭いだのほざいた割に、結構きちんと教えてくれる辺り、こいつは意外に律儀なのかもしれない。いや、面倒見がいいのか?
どっちにしろ、嫌いな人種ではないのは確かだ。


「俺が教えてやれんのはこんなもんだ。」

「ふーん……なあ、1こ聞いてもいいか?」

「あ?」

「同学年に釣り目で気の弱い御姫様みたいな娘はいるか?」

「はぁ?知るかよ。」


呆れた様に突っぱねられて私は肩を竦める。
幼少期にこの街の公園で何度も遊んだ思いでの女の子なんだか、引っ越してなければこの町のはずなんだけどな…
手掛かりがないとなると大変だなぁ……。まぁ、高校なんてごまんとあるし、地元出身者に聞きながら気長にやるしかないか。

そうこうしてる内に駐輪場に辿り着いた。
今朝と同じく不良達が溜まって、無駄にエンジンを蒸かしている。
あー、あー、そんなに蒸かしたらバイクに負担が掛かるじゃないか。可哀想だろ。
持ち主を選べなかった可哀想なバイクに同情しながら、駐輪場へ歩を進めると、1人の不良が此方に気が付いた。


「あ!アニキ!!」


すると、他の奴らもそいつに倣い頭を上げて、此方に、と言うか多分これは長曾我部に、視線が集まる。


「アニキ!御苦労さんです!」

「おう、ちょいとばかり遅くなっちまったが、準備は出来てんだろうな、野郎共!!?」


奴の掛け声に不良達は声を荒げた。
つーか、あの連中の大将ってやっぱ長曾我部だったのか。うわー、マジかー、やっべー…間接的に喧嘩売ってんじゃーん。
折角穏便にやっていこうと思ったのに登校初日でパァになるとかわざわざ試験受けてまでこの学校に来た意味がないじゃないか。

取り敢えず、意気込む不良達に気付かれなければそれに越した事はない。長曾我部の陰からそろりそろりと自分の原チャに向かって歩き出す事にした。気付くな気付くな…熱くなってろよ……!!
愛しの原チャにあと3p…!そんな時だった。


「アニキィィィィ………ん?……あーっ!!!

「いっ!?」


ひとりの不良が大声を上げる。
思わず肩が跳ね上がり、伸ばした手が引っ込んだ。不良共と長曾我部が一斉に此方に目を寄越すのが背中で分かる。


「おい、どうした?」

「アニキ!彼奴っすよ!今朝俺達をボコボコにした野郎!!」


事情を知らない長曾我部の問いに大声を上げた不良は叫ぶように答えた。
外野からは「そうだ、彼奴だ!」とか「やっちまってくだせぇ、アニキ!!」とか言う声が散り散りに上がっている。

あーあ、バレちゃったー、折角穏便な学生しようと思ってたのにー……まあでも、ちょっと問題起こして目立った方が探し人は見付かり易いかもしれない。

信じ難い事実を目撃したみたいに目を瞬く長曾我部に向き直ると、奴はぽつりとこう言った。


「……お前がやったのか?」

「……まあ、今朝の奴らがお前の子分ならな。」


首筋を掻いて正直に答えると、刹那、奴の隻眼がグッと鋭さを増す。気圧されそうだ。
だけど、その程度を耐えられない私ではない。真正面から睨み返してやれば、長曾我部は険しい表情を寄越した。

その顔はまるで鬼。


「そうかい。だったら仕方ねぇ。俺の可愛い野郎共、貶した落とし前、きっちり付けてもらおうじゃねぇか!!」

斜に構えた顔に見下ろされ、全身の血が逆流するような衝動に駆られる。怖い?違う。そんな簡単なものじゃない。
恐怖に勝る高揚感。堪らないこの感覚。
自然と上がった口角を、もう戻すことは出来ない。


「上等だオラァ!!オレを伸せたら御褒美くれてやんよっ!!」

「はぁ!?そうくんのかよ!?」

「あたりめーだ、バカヤロー!!売られた喧嘩は買うのが礼儀!」

「何処のチンピラだテメェ!!」

三度の飯より喧嘩が好きだった中学時代(と書いて黒歴史)。
更正を強いられて御嬢様学校に入れられたら為に、久しく手強い奴を相手にしていなかったせいか理性より先に罵声が飛び出した。
スイッチが入ると口調が暴れてしまうのはまだ直っていないらしい。
そして長曾我部よ、逐一突っ込んでくれて有り難う、そして有り難う。

それはさておき、ブレザーを脱ぎ捨ててワイシャツの袖を捲るオレに、ちょっと疲れた顔を見せた物の、奴はすぐににやりと顔を歪ませる。
筋肉を伸ばしながら目を遣れば、軽く肩を回す奴と目が合った。
それが、開始の号令。




言葉などいらないのだ



【続け】

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