| 5限目 「…という風に1つの細胞に染色体が対になって入らない特殊な分裂の事を減数分裂と言います。」 黒板に薄く描かれた図を指しながら説明する生物のアケティー。授業は解りやすいんだが何と言うかアレだ。 「つまり本来対であるものの間に無理矢理細胞膜が現れ、互いの仲を引き裂く!これこそが種を繁栄させる為、生物が勝ち取った残忍かつ素晴らしい過程なのです…!」 何か、要所要所で教え方が頗る変なのだ。 切々と語りながら、赤チョークを折れる程握り締め、強靭な筆圧で黒板に押し付けるアケティー。 相変わらず怖いったら無い。 しかし、もう既にこの授業に慣れきった教室はざわつく事もドン引きする事もなく、黙々とノートを写す作業を熟していた。 そんな私も例に漏れず、矢鱈と赤が目立つ黒板をノートに写す。それを終え、でかい欠伸を噛み殺していると、右側から何かが投げ込まれた。 「…?」 紙屑にしては大きい様なそれに首を傾げつつ発射元であろう方向に顔を向ければ、右隣の席の慶次が何時ものおちゃらけた顔で此方を見ている。 やっぱりな、何て思いながら四つ折程度の紙切れを静かに開く。 「…ぶっ!」 描かれていたのは尻を立てて突っ伏すアケティーと思われるイラスト(無駄に上手い)に『特技は人間モップ!』という吹き出しが付いたものだった。 思わず吹き出すも、幸い、それ程大きな音で無かったんで周りには気付かれなかったからしい。だから良かったものの、アケティーの耳に入ってたら公開私刑だ、全く。 笑いを堪えながら、慶次を睨みつければ、あっちもあっちで笑いを必死に堪えているらしく、突っ立てた教科書に顔を挟んで縮こまって肩を震わせていた。 何かこのままではやられっぱなしで悔しい。 そこで私はそのイラストに棒とそれを握る校長を付け加え、『是非も無し!』と書き込み慶次に投げ返した。 「…っ!」 届いた紙切れを開いた慶次は先程より大きく肩を震わし、口元を片手で押さえている。 ざまあみろ、何て思いながら私も笑いを必死で堪えた。 そして再び私の元に紙切れが投げ込まれ、それを開く。 「っ…!くっ…!」 私が描いた校長に三角巾を被せ、吹き出しを『是非も無し!』から『チリも無し!』に書き換えた物が描かれていた。 愈々腹筋が悲鳴を上げ笑いを堪えるのが辛くなってきたが、このままで終わらすものか…! 変な対抗心を燃やしながら、私はアケティーの髪をドレッドに描き直し校長にメイド服を着せる。 そして再び投げ返そうとした時、 「……貴公等は先程から何をしているのですが?」 「げ、」 何時の間にやってきたのか、私と慶次の机の間にアケティーが佇んでいるではないか。 「いや、アケティー…これは…!」 「ま、前田君が授業の邪魔を…!」 「あ!ずりぃ!!」 必死で弁明しようとした慶次と、彼を指差し抜け駆けしようとする私をアケティーは冷たい目で見下す。 そして小さい溜め息を吐いて私の手から紙切れを奪い取った。 「あっ!」 「やっべ!」 絶体絶命を悟り、紙切れを開くアケティーを身体から血を抜かれる様な気分で見守る。 「……ふむ。人間モップですか、」 内容を見たアケティーはしかし、考え込む様な素振りを見せ、踵を返す。 「次の掃除にでもやってみましょうか。」 「「……え?」」 意外な反応に私と慶次の声が重なった。 隣人からの紙切れ 怒られなかったけど… 「……何なんだあれ…?」 「知らないが……アケティーだし」 「それで片付くから恐ぇよ」 「校長に呼び出し喰らわない事だけ祈ろう」 「だな。」 next?>> |