Saturday

私は独り暮らしの一般人。

でも、私の部屋は独り暮らしの一般人が住むには適さない。

私の部屋は基本洋風だけど、一カ所だけ不自然な襖がある。
部屋を借りたばかりの時、何を思ったか、その襖に貼ってあったこれまた不自然なシールを剥がしてしまった。



それが事の始まりだと知らずに………、


ゆさゆさ、

「うーん……」

ゆさゆさ、

「……今、起きま〜す」

ゆさゆさ、

「……今日は…土曜日…?」
「……」(頷き)



武将と一緒!〜土曜日〜



襖はどういう訳か戦国時代に繋がっていたらしく、一週間日替わりで戦国武将が私の部屋に現れる。

「……」(御辞儀)
「あ、御早う御座います、小太郎さん。」漢字ふりがな
「………」(頷き)

土曜日は伝説の忍、風魔小太郎。
無口と言うか絶対的に口を開かない上に感情表現は口許オンリーな為、何を考えてるか解らない、そんな人。でも、毎回、時間に起こしてくれるし、朝御飯作ってくれるし、無口だけど微笑んだりしてるし、悪い人ではないと思う……多分。
私が身体を起こすのを確認すると、小太郎さんはさっと部屋を出ていった。

ぐうっと伸びをして部屋を見渡すと、例の襖が綺麗に修繕されている。
おお…!昨夜寝る前は粗末な段ボールを戸の変わりにしていたとは思えない襖…!
私は急いで着替えを済まし、台所へ向かう。
案の定、小太郎さんは慣れた手付きでカチャカチャと食器を並べていた。あれ?昨日の洗い物もなくなってる…。

「小太郎さん、あの、襖…それから、洗い物って…、」
「…」

聞けば、彼は相変わらず何も言わないものの、僅かに口角を上げる。

嗚呼…!その笑顔、和むんです…!
だからと言って甘えっぱなしでは面目ない。
私は襖と洗い物の御礼を述べ、台所を手伝おうとしたが、やんわりと押し返されて、テーブルにつかされた。

「わ、悪いです…!」
「……」

首を横に振って私を椅子に留めた小太郎さんがキッチンから持ってきたのは既に出来上がった朝御飯。

「何か、何時も有り難う御座います。」

深々と頭を下げれば、小太郎さんも深々と頭を下げた。並べられた立派な日本の朝食を眺めて、一緒に手を合わせる。

「頂きます。」
「……」

食事を口に運べば広がる上品な味わい。
……美味しい。
全く、この人は何をさせても超一流なんだから…有り難いやら悔しいやら。

そう言えば、今でこそ穏やかに朝が迎えられるけど、始めの内は大変だったな…。
起きたら、首筋に苦無いが当たってた時はもうどうしようかと思ったよ。事情を説明して、敵ではない事を説明して、何とか解って貰えたけど、本当に理解力のある人で良かった…。
思い返しながらのろのろと箸を進めていると、机を軽く叩く音が耳に入る。
顔を上げると、小太郎さんが壁の時計を忙しなく指していた。

「え?…あ、仕事…!」

こくこく、と小太郎さんは頷く。
そうだった、今日は土曜日だから、出勤早いんだ。急いで御飯を掻っ込んで食器を下げようとすれば、小太郎さんに手振りで仕度を急ぐよう促される。

「有り難う御座います!」

何から何まで申し訳無いが御言葉に甘えるとして、私は自室に戻り仕度を始めた。
すると、

ドオォォォン!!

「!な、何っ?!」

教材を鞄に詰めていたら、背後で爆音が鳴り、爆風が肌を掠める。
何事かと振り返れば、

「ふっ、襖ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

さっきまで新品の様な出で立ちをしていた襖が再び四散しているではないか…!
せ、折角、小太郎さんが直してくれたのに…っ。一体何処の何奴だ…!
今週に入って3度目の破壊に沸々と沸き上がる怒りを抑えつつ、犯人を問い質してやろうと構えていれば、もうもうと立ち込める硝煙の中から特徴的なシルエットが浮かび上がってきた。

「はっはっは。いや、失敬。卿がまだ居たとは想定外だったよ。」
「ま、松永さん…!?」

現れたのは戦国の梟雄、松永久秀。
月曜日か土曜日(割と土曜日が多い)にごく稀にやって来る天災染みたおじさんである。

「…!」
「小太郎さん!?」

物音を聞き付けたのか、何処からともなく、小太郎さんが現れ、私の眼前に立った。

「風魔か。いや、結構、結構。」
「ど、どうしたんですか…?」
「何、ただの気紛れだよ。構い等いらない。」
「そうですか…。」

意気込んでいたは良いものの、出て来たのがこの人とあらば、問い質すなんて滅相も無い。殺気立つ小太郎さんの後ろで私は仕事の仕度を続ける。
何故か部屋を見て回っている松永さんに戦きながら、時計を確認し、部屋を出ようとしたその時、

「まあ、待ち給え。そう急いで逃げる事もなかろう。」
「…!」
「は…はひ?」

松永さんに手首を捕まれ阻止されてしまった。

「何、ですか…?」
「聞けば、卿、諸国の将に好意を抱かれているとか。」
「は…?」
「卿が私の手中に堕ちたと言えば、彼等はどんな反応を示すだろう?」
「ま、松永さん…?」
「……!!」
「おっと、」

にやりと上がった口角に背筋が凍ったと同時、何かが駆けて、松永さんの手を払って私を抱き寄せた。
状況が分からないまま、黒い何かが辺りを包み、視界が奪われる。しかしそれは一瞬で、直ぐに目の前が明るくなったかと思えば、私はアパートの門に立っていた。

「……あれ?」
「……」
「わあ?!小太郎さん?!」

人の気配に振り向くと、Tシャツにジーパンで帽子を深く被った小太郎さん。
……どうやら小太郎さんに部屋の外まで連れて来てもらったらしいが、一体、どうやって?
しかも、小太郎さん、何で現代服なんだろう?
色々疑問を抱いていると、小太郎さんに腕時計を指差される。

「え?あっ!時間!」
「……。」

時計を確認すると、電車の時間が迫っていた。詮索は後にして、取り合えず仕事に行かねば!
小太郎さんに手を振られながら私はアパートを後に駅へと向かった。


完璧に直った襖と、外郎の菓子折りを持った御爺さんが小太郎さんと御茶を飲んでいる光景を目にするのは、もうちょっと先の御話。

「ただいまー。」
「……。」
「おお、その方か。何時も風魔が世話になっておるの。」
「は、はあ……」
「………」
(襖が直ってる……あの後一体何が…。)



Saturday!
沙汰無し忍者の土曜日!


fin!
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