十二話
「全く、まつねぇちゃんは早とちりなんだから…。」
前田慶次は苦笑いを浮かべた。
まつを宥めながらもみじが事の次第を説明すると、彼女は慌てて四郎丸を退かせ、狼から解放された慶次がどっかりと腰を下ろして現在に至る。
「面目ありませんわ…。ですが、慶次。貴方の日頃行いのせいでも御座りまする!」
「えぇ〜!俺そんな悪い事してないけど!?」
「いいえ!数多の粗相、まつめの耳に届いておりますれば!!」
ピシャリと放たれた言葉に慶次はその広い肩を小さく竦めて項垂れた。天下の歌舞伎者もまつには頭が上がらないらしい。
ばつが悪そうな顔で彼女から目を逸らす。
まつはその様に小さく息を吐くと、隣に座したもみじへ向き直り深々頭を下げた。
「もみじ殿、どうか慶次の非礼、御許しくださいまし。この子も悪気があった訳では御座りませぬ故、」
「ま、まつ様…っ、そんな、私は謝られる様なことは、」
「ですが、御気分害されましたでしょう?夫となるべき以外の殿方に言い寄られるなど…。」漢字
「!!?」
申し訳なさそうに顔を上げるまつの言葉にもみじの頬が瞬く間に朱に染まる。
項垂れながらも慶次はその姿を見逃さなかった。
「そうだ!それ詳しく聞かせてよ!もみじちゃん、誰に輿入れすんの?甲斐の人?それとも信濃?」
「?!!」
「まあ慶次!無礼ですよ!」
項垂れ姿が一変、身を乗り出してそれは興味深そうに訊ねてきた慶次に縮こまるもみじを見かねてまつが間に入る。
ちぇっ、と唇を尖らせて座り直した慶次は暫く何事かを考えて、怪訝そうに零した。
「まさか、相手は男の風上にも置けないようなへたれとか?」
「!!」
慶次の詮索に、思わず立ち上がったもみじ。その姿に彼は自信の言葉に確証を、同時に一抹の同情を覚えたが、次にもみじが発した言葉は思わぬものであった。
「幸村様を愚弄するか!?幸村様は武士の中の武士!私なぞには勿体の無い程御立派で素晴らし…っ!!」
其処まで言ってもみじは我に返る。呆気にとられる慶次と優しく微笑むまつにと己が発した言葉に恥ずかしさが込み上げ一気に頬が、否、顔が紅潮して言葉は続かなかった。
居たたまれなくなり、ゆるゆると座して縮こまるもみじの様子に慶次がにやにやと楽しそうな笑みを浮かべたのは言うまでもない。
>>続く