オーバさんの突撃訪問の後、変わった事がある。

1つはデンジさんの様子。
何となく雰囲気が柔らかくなった様な気がしないでもない。あと、それまで私に丸投げだった家事も少し手伝ってくれるようになった。
苦にしていた訳ではないし、宿を貸してもらっているから出来る事は全部やりたかったんだけど、デンジさんの「家主が言ってるんだから」に押し切られてしまったのである。
機械関係に精通してるからかデンジさんは意外にも器用で凝り性だと言う事も分かった。きっと回数を重ねれば料理とか上手になるんだろうな…羨ましい。
ジムメンテナンスに関しても、積極的でほぼ毎日御仕事をされている。私のトンネル造りも大分進んできて、あと4分の1位で完成しそうである。例の1週間が丸で嘘の様だ。

2つ目は目覚まし代わりに使われなくなった事。あのバクオング目覚ましが再び登場した時に少し安心したのは秘密である。
ただ、やっぱり寝起きは悪いみたいで、目覚ましを止めに起こしに行かなきゃならないんだけど。お陰で規則的な生活習慣が身に付いた、なんて皮肉にしかならないからこれも内緒。

「時間ですよ、デンジさん。」
「ん……うー……」
「起きてください、朝ですよ。」

今朝もバクオング目覚ましに起こされた私は、デンジさんを起こしに行く。
彼が欠伸を噛み殺して身体を起こしたのを確認してから、キッチンへと向かった。
今日は、と言うか今日もなのだが、朝食はパンとスープと目玉焼き。
人に食べてもらう機会が少なかったから、レパートリーがなくて何時も同じ様なメニューになって申し訳無いと思いながらスープの鍋をかき回す。今度何か調べてみようかしら。

「御早よう、トモエさん。」
「御早よう御座います、デンジさん。」

暫くして現れたTシャツ姿のデンジさんと挨拶を交わして、朝御飯をテーブルへと運ぶ。
彼は何時もの様に何を言う訳でもなく、徐に手伝ってくれていた。
一体あの日、オーバさんに何て叱られたら家事を手伝ってくれるようになるのだろうか。
助かるから嬉しいけど、非常に謎めいている。

「すみません、手伝ってもらっちゃって…。」
「いいよ、こっちが作ってもらってるんだし。」
「そんな!寧ろ何時も変わり映えのしないメニューでごめんなさい…。」
「いや、旨いから平気。」
「あ、有り難う御座います…っ。」

思わずドキッとした。
明らかに御世辞なのは分かっているが、最近こういうの多い気がする。褒められると言うか何と言うか……。勿論、悪い気はしないが、褒められ慣れしてない上に顔面偏差値高い人に免疫がない元ニートにとっては大変心臓に悪い。
なんとか火照りそうな頬を誤魔化しながらポケモン達の分のご飯を出し始めると、インターホンが鳴った。
怪訝な顔をして舌を打ったデンジさんが玄関に向かうと間もなく、帰れだのアフロだのと言う声が響く。もう誰が来ているかなど御察しだ。キッチンに戻ってきたデンジさんは案の定、赤いアフロの元気なお兄さんを連れている。

「御早よう!トモエちゃん。」
「御早よう御座います、オーバさん。」

変わった事の3つ目。
オーバさんが朝御飯と晩御飯を食べにやってくる。
彼はナギサシティ出身でデンジさんとは幼馴染みらしい。何時もは仕事で地元を離れているそうなのだが、暫く休暇を貰った為、里帰りしているんだとか。
だったら自宅でお袋の味を楽しんだ方が良いんじゃないかと思うのだが、御両親はアクティブな方だそうで、旅行で世界中を飛び回っている為、不在だそうだ。里帰りしてまで自炊したくないとかでデンジさんの部屋に来るらしい。

「コンビニなりショップなりで飯買って独りで食ってろよ。」
「そう言うなって。食事は楽しいが基本じゃねぇか!なあ、トモエちゃん。」
「ふふ、そうですね。」
「じゃあ、お前ん家とテレビ電話繋いでやるからもう来んな。」
「どんだけ嫌がられてんの、俺…。」

本気なのか冗談なのか分からないデンジさんにオーバさんはしょんぼりと肩を竦める。
ジムでトレーニングする所とか育成論を話し合う所とかを何度かみた事があるけれど、その様子から考えて仲が悪い訳では絶対ない筈なのに、どうしてデンジさんは御飯食べに来るオーバさん限定で厳しいんだろうか。
リビングのテーブルでポケモン達と一緒に朝御飯を食べながら、私は首を傾げた。

「そうだ、トモエさん」

すると、デンジさんに声を掛けられ、慌てて傾げた首を正し、ダイニングテーブルに顔を向ける。

「何ですか?」
「地下、どんな感じ?」
「あ、トンネルですか?順調ですよ。」
「あとどれ位掛かりそう?」
「えっと……3日もあれば目的地には着くかなと。」
「……早いね。」
「私ももっと時間が掛かるかと思ったんですけど、ガバイトがガブリアスに進化したりみんなのレベルが上がったりしたので予想より1週間くらい早く終わりそうです。」
「……え?ガバイト、進化したの?」
「はい。あ、再戦では負けませんよ!」

軽く拳を握って答えると、彼は苦笑いを浮かべていた。

▲▼▲▼▲

今日も今日とてサンドパンとガブリアスに穴掘りを頼み、他の子等と壁を固める作業を進める。
仕事が早いガブリアスに負けず嫌いのサンドパンが張り合って、穴はみるみる奥に延びていくので、こっちが追い付かないのが困り所。

「おーい!サンドパーン、ガブリアスー!!」

姿が見えなくなってしまう程奥に進んでしまったサンドパン達を呼んでみるも、虚しく声が木霊するだけで、鳴き声は返ってこない。
何かあったのではないかと一抹の不安が過ぎり、カラ君達にセメント作業を任せ、私はまだ足場が不安定な穴の奥へと向かった。

ペンライト片手に歩く事10分程度だろうか。
奥から明かりが漏れているのが見えた。
穴の奥なのに明かりとは此れ如何に。足早にそちらへ向かえば、無機質な金属の壁が破壊された建物の地下であろう場所に辿り着いた。
大きな円形の広場で、中央に太い柱が聳え、そこから樹木のように配線が張り巡らされている。
その根元に、草臥れている見覚えのあるポケモン2匹。

「サンドパン!ガブリアス!」

声を掛けると頭を上げて飛びついて来た彼らからは“褒めて褒めて!”と言う言葉が聞こえてきそうだ。え〜…なにこれかわいい〜…。
それはさておきこの様子、もしかして此処は目的地のナギサタワーの地下なのだろうか?
するとガブリアスが服の裾を引っ張り出した。やだ待って。そんなに大きな図体で裾を引っ張るとか萌え殺されちゃう。
などと不純な想いを抱きつつ、何事かと付いていけば、床に近い壁に小さなプレートが張り付けてある。
見れば、“ナギサタワー”の文字と建設年月日が記されていた。

「掘り終ったの?凄いじゃない!!」

抱きしめてあげれば、擦り寄ってくる2匹の愛らしさに顔がにやける。
永遠にも思えたトンネル作業のゴールが漸く見えた気分だ。あとは壁を固め終われば私の仕事は終わる。
配線工事が終われば、リーダー戦はもう目前だ。地階の壁の一部を壊してしまって良かったのか否かなど、今の私に考えることなど出来ない。それほど嬉しかった。ほんとにうちの子素晴らしい!
さっそく地上に上がってデンジさんに報告しようと上がる手段を探し辺りを見渡すが、エレベーターや昇降装置が見当たらない。
穴の中を通って帰るのは足場が心許無いから避けたいんだけど…。
そう思って壊れた壁の方へ眼を遣れば、その脇に矢印の付いたボタンが。

…どうやらエレベーターを破壊して穴が完成したようだ。


つづく>>

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ballad


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