いくら探しても他にエレベーターが見当たらないので、仕方なく来たトンネルを戻ることにした。
1人と2匹で踏み固めてるとは言え、やっぱり足場は心許無い。うっかり踏み違えて謎の落とし穴に嵌まるとか…考えすぎかなぁ…。

そんな事等知らないサンドパンとガブリアスはさくさく私の前を歩いている。
あの子らは喩え穴に落っこちたとしても自分で上がってこれるから心配ないけど私はそうはいかないから、慎重にいかないと。
来た時の足跡を辿りながらカラ君達が待っている場所へと歩を進める。

ペンライトが必要な程の暗さが少しづつ和らいで、地下トンネルの明かりが近付いてきた頃、突然足場が揺れた。

「!?」

驚いたサンドパン達が私の足元に駆け寄ろうとした時、

「あっ!」

なんと私の足元にぽっかり穴が開いたではないか。
一瞬の浮遊感の後、身体が一気に重くなるのを感じる。

「うわあぁぁぁぁぁっ!!!」

目を見開くサンドパンとガブリアスの姿が上方へと流れたかと思うと、重力に引かれて真っ黒の空間に吸い込まれた。
そんな中、私の落下に慌てるあの子達が可愛いなー、なんて考えてるなんて暢気も良い所だと思うが、この穴は一体、何所まで続くんだろう…

▲▼▲▼▲

「よし、終わった。」

最後の歯車の調整を終え、汗を拭う。
作ったばかりだから大丈夫と言って3ヶ月も放置した奴をメンテもしないで稼働させ続けるとやっぱりどっかに襤褸が出るんだと思ったのが確か3週間前。間1週間放置したが、漸くジムのメンテナンスが終了した。
後は電気線の増幅作業が終わればジム戦の受付を再開できる。彼女の作業は進んでいるだろうか。

ふと浮かんだその顔に頭を掻き毟る。
彼女は今まで出会った事のない種類の人間だった。
俺に寄り付く人間、特に女性にはあまり良い印象がない。と言うのも、見てくれとジムリーダーの地位と実力、それが欲しいという下心が滲んでいる。被害妄想甚だしいと言ったらそれまでだが。
勿論、中には純粋な人もいた。それはバッジ欲しさの挑戦者だけではない。
だけど、一緒に1週間もいれば欲が出てくるのか、そんな心を忘れてしまう人もいる。
悲しかったが仕方ないと諦めていた。
それで俺が保身の為にするようになったのが近付く人間の篩分けである。
人を試すなんて真似は最低だと分かっていたし俺自身が傷つくのは構わないのだが、部屋の物や下着がなくなるのだけはもう嫌だった。
この篩分けが功を奏したお蔭で軽い人間不信になった頃もあったっけ…。俺、メンタル弱いのか?
強い挑戦者が頻繁に来る訳でもないのに合わせてそんな事があり、元々面倒になりつつあったジム運営も気紛れになった頃だった。彼女が挑戦に来たのは。
久し振りの手応えのある挑戦者で、うっかりテンションが上がり、配線工事の手伝いと部屋の出入りの許可の約束を取り付けてから墓穴を掘ったと気が付いた。騙されたのでは、と不安を抱いた時にはもう遅い。
私物がなくなる恐怖が蘇って、篩分けのハードルを何時もより上げて試みたのだが、全く、彼女は不思議な人だった。
俺の厚意は全部拒否して、ほぼ家政婦の様な扱いにだって文句を言わずに1週間。最初で最後の文句が“ジムのメンテナンス再開しませんか”。
正直言って信じ難かったが、同時に俺は自分で自分が恥ずかしくなった。
全部が全部そうじゃない事位知っていた筈なのに、出会う人間に運がなかったからと悲観して、全員を疑っていたなんて最低過ぎて言えない。
そんなんも分んなかったのかと思うと悔しい。まあ、悔しい原因はそれだけじゃない様な気がしないでもないんだが。

結局、俺も人間なんだ。
俺にとって“それ”は無償の厚意であるが、彼女にとって“それ”は家主へのリターンであって、そうだと分かっている。分かっていながら、不思議なもんだ。数式みたいに全部がイコールで結ばれない。絶対不変の法則がある訳でもない。
本気で取り組めば結果が出るとは限らない。逆に本気である程結果は出ないし報われない。これだから答えが多用に存在する問題は苦手なんだ。

もう一度、頭を掻き毟って大きな溜息を吐く。
この持て余した気持ちをどうするかは俺の行動次第だが、いずれにせよ、もう時間は多く残ってはいない。せめて彼女から警戒心が僅かにでも感じられていたら自信の一つも付いただろうに…。

考えても仕方ない事を考え、スパナを片手で回しながら工具箱を散らかしている場所へ戻ると、放しておいたレントラーがサンドパンとガブリアスに絡まれてるではないか。

「………。」

何やってんだ、情けないなと暫く見守っていると、俺に気付いたレントラーが何時になく慌てた様子で吠え、駆け寄ってくると服の裾に噛み付いて引っ張ってきた。

「…レントラー?」

恐らく地下工事を頼んだ彼女の手持ちであろうサンドパンとガブリアスも俺の背中を押しだす。
向かわせようとしているのは地下へ続く階段。
様子が可笑しい。彼女に何かあったのだろうか。

「……トモエさん…っ」

思ったが早いか、俺はレントラーと彼女のポケモン達に連れられ、地下へと駆け下りていた。


つづく>>

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ballad


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