どれ位落ちたのか。
突然背中に鈍い衝撃が走った。
「〜〜〜〜!!!!」
幸い下は土だった為、痛いだけで済んだっぽいが、痛い物は痛い。
背中に走る激痛に思わず仰け反った。
息できない!息が出来ない!!
言葉にならない痛みに暫く悶絶し、ゴロゴロのた打ち回る。呼吸が楽になって痛みが和らぐまで相当時間が掛かったように思えた。
何とかそれらが治まってから、寝っ転がったまま辺りを、と言っても縦長の穴だから上方ばかりだけど、見渡してみると、壁に幾つもの穴が出来ているではないか。
成る程、地面の下がスカスカになっていたのか。これのせいで足場が崩れたのかもしれない。強い揺れは地上か又はより深い所でポケモンがバトルでもしてたんじゃないかしら。
何にせよ、生きていたんだから、原因はこの際どうでもいい。問題は此処からどうやって這い出るかだ。
のた打ち回る程痛かったとは言え、意識が持っていかれなかったのだから、そんなに穴は深くないだろう。壁面にの穴に手足を引っ掻ければ登って登れない事はないと思うんだけれど、残念ながらそんな体力は持ち合わせていない。
うちの子達にロープを下ろさせて引き上げてもらおうにも、ロープを掴める手をしているのはカラ君だけだからそれも出来そうにない。どうしたもんか…。
結構な危機的状況にあるにも関わらず、思いの外冷静な自分自身に若干驚きつつ、考え倦ねていると頭上から光が差し込んできた。
「トモエさん!!無事か!?」
「?!」
合わせて降ってきた声に見上げれば、デンジさんとレントラー、そして可愛い我が子達が此方を覗いている。
「デンジさん…!?え、な、どうして…?」
「サンドパンとガブリアスが教えてくれたんだ。」
デンジさんの視線を追いかけると、一際はらはらとした表情のサンドパンとガブリアス。
助けを呼んでくるとかうちの子、何て優秀なのかしら。取り敢えずあの子等を安心させようと手を振った。
「怪我は?」
「え?あ、大丈夫です。」
「登ってこれそう?駄目なら俺が降りて手伝うけど…」
「が、頑張ってみます…!!」
正直登れる自信はないのだけれど、デンジさんに迷惑を掛けるのは申し訳ない。
やれば出来ると信じれば何とかなるだろうと彼の申し出を断って身体を起こそうと右手を付いた。
「っ!?」
途端に右肩に鈍痛が走る。
体重を支えられずに、ガクンと崩れ、再び地面に背中がくっついた。
「!!」
「だ、大丈夫です!大丈夫ですよ!」
上方から見ていて動きが不審だったのか、デンジさんやポケモン達が身を乗り出しているではないか。
作り笑いを貼り付けて無事を知らせ、今度は左手を軸に身体を起こす。
此方は何ともなかったので難なく起き上がれたが、右は肩を壊したかもしれない。
不味いなぁ…、これだと1人じゃ登れない。サンドパンに降りてきてもらって右手の代わりになってもらおうか。あの子は壁面垂直登りが出来た筈(地面壁限定)。でも降りてきてくれるかな。飛び降り恐怖症なんだよね、あの子。でも物は試しだ。取り敢えず呼んでみよう。
そう思って頭を上げると、穴の回りには誰もいなかった。
……あれ?見捨てられた?
莫迦な!主人想いのあの子達がそんな莫迦な!!私、これからどうやって生きていけば…!!!
「トモエさん、」
「わあっ!?」
なんて狼狽えていると、不意に左肩を叩かれた。
驚いて振り返ると、声を上げられ少し驚いた様子のデンジさんがいるではないか。
「デンジさん…?」
「うん。様子がおかしかったから、手伝いにきた。」
彼は頷き、そう言うと私に手を差し出す。
「捕まって。上でエレキブルと君のポケモン達がロープの端を持ってるから大丈夫。」
「え?」
見ればデンジさんは、窓拭きの人がよく命綱を付けてるベルトみたいなの…ハーネスって言うのかな、あれを腰に巻いている。お腹の辺りの鐶には太めのロープが掛かっていて穴の外へと伸びていた。
でもハーネスは1つしかないし、どうやって登るんだろう…。
不思議に思いながらも差し出された手を握ると、ぐっと引っ張られ、横に抱き上げられてしまった。
「な、うわ、えぇっ?!」
「落とさないから。首に捕まって。登るぞ。」
「えぇぇっ!!?」
驚く私を余所にさらりと言ってのけ、了承を待たず、上へ伸びるロープを掴むデンジさん。
その手は私の左肩を支えてくれていたものであって、それが突然なくなったものだから、私は反射的にデンジさんにしがみついてしまった。
「放さないでくれよ、落っことすことになるから。」
「は、はい…」
脅しの様な注意を受けて少し青くなりながら頷く。
それから間もなく、地面が少しずつ遠退きだしたのをデンジさんの肩越しに見た。
「あ、あの、デンジさん、」
「何?」
「大丈夫ですか?重たいでしょう?」
「上で釣り合い取れてるから平気。負荷は実際の質量より少ないし。」
「?…すみません、御迷惑御掛けします。」
「平気だって。だから気にしないでくれ。」
成人男性とは言え、人ひとり抱えて壁を登っているんだから平気な筈がないのに、何時もの声色でそう言うデンジさん。
彼が私を持ち上げられる程腕力があったのは予想外だったけれど、流石に少し息が上がってきている。
罪悪感からか、言い表し難い何かに心臓を締め付けられる様な錯覚を覚えた。
「……有り難う御座います。」
それでも私の口から出たのは謝罪ではなく感謝だったのは何故だろう。
見えない筈なのに、デンジさんの薄い微笑みが脳裏を過ぎったのは何故だろう。
つづく>>