「今、何て…?」

ジムから戻ったデンジさんに告げられた言葉に目を屡叩く。

「ジム戦の再チャレンジ、明日の午後に受けるよ、って。」
「ほ、本当ですか…?」
「うん。ヒョウタがトモエさんに謝罪する代わりに残りの作業するんだってさ。」

再戦楽しみにしてる、と言い残し、デンジさんは寝室に入っていってしまった。
私が暫く固まったまま動けずにいると、リビングから顔を出したカラ君とヌオー。
そのまま足元に寄ってきて顔色を窺われたが服の裾を引っ張られるまで気付かなかった。

「あ、ごめんね。」

暫くは無反応だった私を心配したのか、彼らは不安そうな顔をしている。
ああ、カラ君。そんな殺気立った目でデンジさんが入っていった寝室を睨みつけちゃ駄目だよ。

「ジムの再チャレンジ、明日の午後にしてもらえるって話だから、大丈夫だよ。」

そう声を掛けると、カラ君もヌオーもぱっと目を輝かせ、リビングへ私を誘う。
そこで談笑していたらしいガブリアスとサンドパン、それからボールに入ったままのグライオンとマンムーにカラ君とヌオーがその旨を伝えると、場が沸き上がった。
その様子と言ったら、今までに見た事がない位テンションが高いのなんのって。長らく旅を供にしてきた私も吃驚した。
カラ君、サンドパン、ヌオー、ガブリアスは腕を掲げて団結するし、グライオンとマンムーのボールゆらゆらと揺れている。
余程、前回負けたのが悔しかったのか、それとも土壁とのにらめっこやレベルの低い野生のポケモンとのバトルに飽きていたのか、と思わず苦笑いが零れた。しかし、の子達のやる気を無駄にする訳にはいかない。私も気を引き締めなくちゃ!
勝てれば憧れのキクノさんのいらっしゃるリーグ支部に行けるんだし頑張らないと。

「みんな、頼りにしてるよ。」

声を掛けると熱さが増した。
若いなぁ、みんな。
ポケモン達に触発されて、テンションは上がったけれど、何故だろう、何か引っ掛かる。

「トモエさん、飯……」
「わ!あ、ごめんなさい…!!」

はしゃぐ我が子達を見守っていれば、寝室からデンジさんが現れた。
そうだ、晩御飯の支度!!忘れてた…!
思案を投げ出して、私はキッチンに駆け込んだ。

▲▼▲▼▲

晩御飯の後、明日の準備をしようと、カラ君とグライオンをボールから出してフレンドリーショップに行った帰り、ふとナギサの砂浜が目に入る。
そういえば一回砂浴びして以来、来てなかったっけ。

「ちょっと寄り道して良い?」

足元や低空で荷物を抱えるカラ君とグライオンに訊ねると、彼等は少し悪戯っぽい表情で頷いた。
可愛いな相変わらず、何て思いながら、私は吸い寄せられるように海へと足を進める。

人気のない砂浜に波音だけが響き、月明かりに照らされた海は静かに揺れていた。
荷物を置いたカラ君とグライオンは砂浜にダイブしたり転がったりして思い思いに遊び始める。他の4匹もボールから出してやれば、マンムーを除くみんなで戯れだした。

何あの子等。さっきはあんなに血気盛んだったのにこのギャップ。全く可愛いなぁもう。

寂しがり屋のマンムーは私の傍に横たわり、擦り寄ってきたので、彼女に背中を預け、もみくちゃになって遊ぶ5匹を見守った。

皮算用をする訳ではないけれど、もしかしたら明日私は此処からスズラン島を目指して発つかもしれない。ぼんやりとそんな事が思考を過ぎり、何だかきゅうっとした切なさと漠然として不安が込み上げてきた。
1ヶ月近くナギサシティにいたから愛着が湧いてしまったのかしら。1ヶ月近く対人戦をしてないから緊張しているのかしら。どちらも一理、あるかもしれないけれど。

「ねぇ、マンムー。」

声を掛けると、マンムーは“むぅー?”と鳴いて視線を寄越した。少し吊っていて御世辞にも大きいとは言えないが、とても優しい目が私を捉える。

「何か私、分かんなくなっちゃった……駄目だねぇ…。」

脈絡もなくそう零したけれど、彼女は“むぅー”と鳴いてゆっくりと首を振った。
意味もなく、身体を回してふかふかのマンムーの毛に顔を埋める。彼女の匂いと暖かさに安心感を覚えた。
そんな気分も束の間。突然、ぼふっと言う音が頭上からして、驚いて見上げる。
見ればマンムーの上にグライオンが乗っかって悪戯っぽく笑っていた。

「もう、吃驚したなあ…」

マンムーもちょっと迷惑そうに彼を見上げている。幾らマンムーでもグライオンは重たいよ。
そんな姿に笑みが零れた。すると今度は何かが背中に突撃してきた。見ればガブリアス。
続いてサンドパンが左からヌオーが右から第2波、第3波とやってきてぎゅうぎゅうにされた。

「何?何?どうしたの?」

訳も分からずに目を屡叩いていると上からマンムーを滑り降りてきたカラ君。
その小さな手に、淡いマリンブルーの小さな貝殻を持っていた。

「カラ君…?」

“から!からから!”とみんなで探したと言いたいのだろうか、一生懸命ジェスチャーをしてから貝殻を私の目の前に差し出す。
その表情が少し心配そうだったのに気付き、回りのみんなを見渡せば一様にそんな表情をして私を見ていた。
心配させてしまっていたなんて情けない。だけどこの子達の優しさが嬉しかった。グライオンを呼び寄せて、みんな纏めて抱き締める。

「ごめんね。有り難う…。分からない時は考えちゃ駄目だよね。明日になればきっと分かる。明日は…宜しくね。」

涙が出るのを我慢してそう言うと、みんなは元気な声で返事をしてくれた。
本当に私は良い子に恵まれている。こんな私に着いてきてくれて有り難う。
不可解な切なさと不安はまだ拭えないけれど、随分元気が戻ってきた。きっと大丈夫。きっとうまくいく。

さて、かなり長い事寄り道してしまったが早くデンジさんの部屋に戻らなくては。
足早に砂浜を去って、既に見慣れてしまった寮に、部屋に戻った時には12時を回っていた。

「デンジさん…!起きてらしたんですか…?」
「おかえり。」

パソコンの画面を向いていたデンジさんが振り返ってそう迎えてくれる。
どうしてか、また、きゅうっと切なくなった。

「…っ。只今戻りました。」
「遅かったけど、明日の作戦会議でもしてた?」
「え…?あ、はぁ、まぁ…」
「そうか。それは楽しみだ。」

彼は薄く笑うと、パソコンの電源を落として立ち上がり、寝室へと足を向ける。本当にポケモンバトルが好きなんだ…。明日はがっかりさせないようにしないと。


つづく>>

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