漢字ふりがな翌日。
送電線の取り付け工事が終わったら連絡を入れるからとデンジさんに部屋で待機を命じられた私は取り敢えず自分の荷物を纏めていた。

勝っても負けても私がすべきお手伝いは終わったから、何時までも此処で御厄介になる訳にはいかない。頻繁に出し入れをしていたから、そんなに沢山仕舞わなきゃいけない物はないので、5分足らずで仕度は終わってしまい、再戦に向けて作戦を練る事にした。

要注意はレントラー。ガブリアスなら速さもきっと負けないから彼女で一撃を狙おう。
エレキブルには意外に堅いと判明したグライオンに耐えてもらうしかない。
サンダースとライチュウはサンドパンで大丈夫だと思うんだけど…何かあると悪いから“きあいのハチマキ”を巻いて上げよう。急所に当たるなんて事もあるしね。

何て考えていれば、ポケギアが鳴る。受けるとそれはデンジさんで準備が出来たと言う知らせだった。

▲▼▲▼▲

「御待たせしました。」

荷物を背負って、ジムの最深部に向かえば、そこで待っていたらしい彼は最初に会った時の生気が抜けた目をしては居なかった。
何処か楽しそうに、何処となく寂しそうな雰囲気を孕んだ目が此方に向けられる。その視線にきゅうっという切なさと不安が蘇る。

デンジさんは私を見付けると、さして悪びれもなくこう言った。

「俺の方こそ、長らく待たせてごめんな。」
「ふふっ…そうですね。」

きっと、此処で怒るべきだったのだろう。でもそんな気分にはなれなかった。
原因がこの不可解な切なさと不安であるのは間違いないのだが、不可解だからよく分からない。
少しだけ意地悪して、デンジさんの言葉を肯定すると彼は軽く肩を竦めた。

「そう言われると弁明できないな。まあ、いいや。所でトモエさん、」
「はい?」
「1つ、御願いがあるんだけど良い?」
「え……?」

すぐに勝負を始めると思っていた私にとってそれは意外な申し出で思わず目を瞬く。
しかし、この時点で却下するのは余りにも失礼なので後に続く内容を訊ねた。

「御願い、ですか?」
「ああ。俺の手持ちにもう1匹加えたい。」
「!?」

衝撃的な言葉に耳を疑う。
まさか、折角作戦を立てたのに…だけど、手持ちの数なんて自由だし、宣言してくれただけ有り難いと思わなきゃ…。

「か、構いませんよ…。」
「良かった。」

デンジさんはきっと、承諾した私がぎこちない笑顔だったのを知っていた。それでいて敢えて触れなかったに違いない。腰のボール手を伸ばした時に、悪い笑顔を浮かべていたもの。

「こんなに緊張するは久々だ。さあ、始めよう!1ヶ月でどれだけ強くなったか、俺に見せてくれ!」
「宜しく御願いしますっ!!」

デンジさんの号令に頭を下げて、ボールを宙に投げる。

「頼むぞ、サンダース!!」
「行くよ!サンドパン!!」

ボールから出た光がポケモンを象ると雄叫びと供に姿を現したサンダースとサンドパン。
両者毛を逆立てて威嚇し合う。

「サンダース!でんこうせっか!!」
「サンドパン!じしん攻撃!!」

素早いサンダースの一撃を掠めつつ、高く飛び上がったサンドパンは宙で丸まり地面に落下する。ずぅん、と言う大きな音と供に足場が揺れ、相手の足元が隆起し目標を捉えた。
悲痛な鳴き声が辺りに響き、揺れが収まると、サンダースがぐったりと横たわっている。

「やったぁ!!サンドパン!この調子!」
「戻れ、サンダース。相変わらずやるな、君のサンドパンは!」
「まだまだです!!今回は負けませんよ…!」
「そうこないと。次はこいつだ!行け、ライチュウ!!」

前回と同じくライチュウを繰り出すデンジさん。まだ追加1匹は出てこないようだけど油断は禁物。

「サンドパン!あなをほる!」

サンドパンが地面に潜り、ライチュウの足元を掬い上げようとした時、

「今だライチュウ!“きあいだま”!!」
「!?」

ライチュウを攻撃しようとした爪はあっさりと躱され、地面から抜け出た無防備なサンドパンに光の弾が放たれた。

「サンドパン!!」

“きあいだま”なんて覚えてたの!?前回の時は使ってこなかったのに…!!
指示が追い付かず、予期せぬ攻撃をまともに食らったサンドパンは、轟音と共にフィールドの端まで吹き飛ばされた。
地に爪を立て、立ち上がろうとしたが能わず、がくりと崩れ落ちた顔に悔しさが滲んでいる。

「簡単に終わらせはしない。前と同じじゃ勝てないぜ!」
「っ!!…ま、負けません!」

アドバイスとも取れる挑発は手の内を読んだと暗示されている様だった。それに動揺する心を奮い立たせて倒れたサンドパンをボールに戻す。デンジさんはバトルとなると目つきだけじゃなくて性格も変わるのか、とか暢気な事が頭を過ぎったが、今はそれ所ではない。同じじゃ勝てないなら、騙せばいい。私にだって手段はある。

「出て来て、ヌオー!!」
「ヌオーか。悪いが対策は出来てる!ライチュウ、“でんこうせっか”で間合いを詰めろ!」
「ヌオー!“どろばくだん”!!」

素早い動きのライチュウに“どろばくだん”は当たる筈もなく、一気に間合いを詰められたら、懐に潜られる。

「ライチュウ!“きあいだま”!!」

光の弾を再度溜めて、放とうとした相手に私は声を張った。

「“マッドショット”!!」
「何っ!?」

目の前に来たライチュウに勢いづいた泥水を撃ち込んで後退させ、泥に足を取られ思うように動けない相手にすかさず追撃を打ち込む。

「行けっ!“どろばくだん”!!」
「ライチュウ!“でんこうせっか”!!」

それでも速さは相手が上で、技の発動はライチュウが僅かに上回った。
“でんこうせっか”が当たると同時にヌオーの“どろばくだん”が相手を吹き飛ばす。
想定外に重い“でんこうせっか”を耐え、ヌオーは此方側でまだ立っていられたが、相手側のフィールドにライチュウが突っ伏した。

「よしっ!!」

思わず拳を握り、撃破を噛み締める。対してデンジさんは目を見開いたまま動かない。

「………フフ……はは、ははははははっ!!」

と、思ったら俯いて、突然笑い出した。
あまりにも突然で、今度は私が驚いたまま動けなくなる。
何だろう、まずい戦法だったかな…?でもそんな事気にする人じゃないし…。
うだうだ考えていれば、これまた突然頭を上げたデンジさんに肩が跳ねる。

「きたきたッ!この痺れる感じが堪らないっ!!」

その姿に、表情に息を呑んだ。
これ以上はないって位に表情を輝かせてバトルを全身全霊で楽しんでいる。
そんな姿に私は身体全体に電撃が走る錯覚を覚えた。
気迫から昂揚が伝わり、感染したのか、ぐっと熱さと楽しさが込み上げる。

「戻れライチュウ!さあ!次はこいつだ!一体どう捌く!?」

ライチュウを戻したデンジさんが続いて高く投げ上げたボールから出て来たのは、

「エレキブル……!!」

静電気を纏わせ体毛を逆立てる彼は、前回よりも更に大きく見えた。



つづく>>

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ballad


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