「エレキブル!“かわらわり”!!」
「かわらわ…!?ヌオー!“どろばくだん”で衝撃を……ああっ!!」
予想外の攻撃に再度指示が間に合わず、防御が低めのヌオーは強烈な“かわらわり”の前に散ってしまった。
「ヌオー!!」
「アイディアは良かったけど反応が遅かったな。」
返す言葉がない。全くその通りだ。臨機応変に対応できないなんて悔しい。
倒れたヌオーをボールに戻し、次の手立てを考えた。
作戦通りグライオンでちまちま体力を削るべきかしら…あの子対弱点タイプ用で地面技覚えてないけど…長期戦に持ち込まれたらしんどいけど……。
「任せるわ、グライオン!」
正直、迷いはした。
頭から作戦が崩されてるから変えるべきだったかもしれない。だけど、自信も持てないようじゃデンジさんには勝てない。
雄叫びと共に現れたグライオンが鋏を振り上げる。
「グライオン!“シザークロス”!!」
「“ギガインパクト”で返り討て!!」
指示のタイミングはほぼ同じだっただろうか。鋏と拳がぶつかり合った。その衝撃は風の波になって同心円上にスタジアムを飲み込む。
「く…っ!!押し切れエレキブル!!」
「っ!!グライオン!頑張って!!」
風圧は勢いを失わず、立っているのがやっとだった。
ぶつかり合った点は多少左右したが、一進一退で白黒が付かない。何処かで隙を見つけて私が指示を出さないと…!
瞬きも忘れて攻防を見守る。しかし、どれほど精神を鍛えればそうなるのか、エレキブルは交差する腕以外はピクリとも動かさない。
「今だ!振り切れ、エレキブル!!」
「グライオンっ!!」
向こうも同じ考えだったらしく、グライオンは隙を突かれた。
強烈な一撃は抉る様に振り下ろされ、殴り飛ばされたグライオン。
スタジアムの壁に激突する間際、気絶を免れた彼はその巨体を翻して再び中央へと舞い戻った。防御の高さが幸いしたが、息遣いの荒さが見て分かる。しかしそんな姿にデンジさんが目を見張った。
「耐えただと!?……面白い!!」
「ま、まだまだです!グライオン!もう一度“シザークロス”!!」
反動で動けないエレキブルに対して、次の攻撃で立っていられるか分からないグライオンは一矢でも報いんと鋏を振り翳す。
胸元にX字を振り下ろし、圧力でエレキブルを押し返したが、彼は土俵際で踏み留まった。
「エレキブル!“かわらわり”!!」
「グライオン!“ほのおのキバ”!!」
反動が解かれ、再度突進するエレキブル。
その攻撃を受けは出来たが耐えられなかった。
耐性攻撃であったが、グライオンは再び吹き飛ばされ、立ち上がる事、能わない。
彼のエレキブルは強い。
ただそれだけしか考えられなかった。
だけど、あの子を越えられなければ、必然成績は前回よりも悪い。それでは勿論悔しいし、デンジさんに申し訳が立たない。
次のボールを握り締め、私はこの子でエレキブルを破ると誓った。
大丈夫、グライオンが貢献してくれたから、きっと大丈夫。
「マンムー!御願いっ!!」
「ガブリアスはまだ出さないか…良い選択だ!エレキブル、“ほのおパンチ”!!」
「マンムー!じしん攻撃!!」
地を蹴ったのはエレキブルが早かった。しかし紅蓮の拳が届く前に足下が揺れる。
揺れる大地に膝を突いたエレキブルに手応えを感じたが、私はやはり甘かった。
「上だ!頭上から狙え!!」
「!?」
デンジさんの指示に素早く起き上がり、大地を蹴ってエレキブルは飛び上がる。
再び赤々と燃え盛る炎を纏った拳が振り上げられた。
「マンムー!!“げんしのちから”で撃ち落として!!」
とっさに出した私の指示にいち早く反応したマンムーは地面から巨大な岩を持ち上げ、エレキブルにぶつける。
それを砕きながらもエレキブルはマンムーに拳を叩き付けた。
熱さに悲鳴を上げる彼女だったが、ぎりぎりで攻撃を耐え倒れまいと足を突っ張る。
立っているのがやっとだと言うことが伝わって痛々しい。
一方のエレキブルも砕いた石飛礫に体力を削られて息が上がっている。
次の一撃で決めなければ。
そう思ったのは私だけではない。
「マンムー!“かいりき”!!」
「“かわらわり”だ、エレキブル!!」
マンムーは身体を、エレキブルは手刀を相手に向かってぶつけに走る。
中央で激突した両者の間に先程のそれを上回る風圧が生まれ、スタジアムを包む。
しかし強い風が巻き起こったと同時に、マンムーもエレキブルも受けるのが精一杯だったのか互いの攻撃に弾き飛ばされた。
「マンムーっ!!」
「エレキブル!!」
コート際に倒れたマンムーに駆け寄るが、既に気を失っていて立ち上がれる状態ではない。それはデンジさんも同じだったらしく、エレキブルをボールに戻していた。
「俺の手持ちは残り2匹…。トモエさん、君もあと2匹だよな?」
「…はい。」
「君の状況は前回よりも悪いのに何故だろう、俺はまだ勝ちを確信出来ない。」
「……私だって、まだ負けるなんて思ってません!!」
冷静な口調に反して至極楽しそうなデンジさんに私は牙を剥く。すると彼はとびきりの笑顔を浮かべた。
「そうじゃなければ詰まらない!!行ってこい、レントラー!!」
「前みたいにはいかせません!ガブリアス!頼んだわよ!!」
繰り出されたガブリアスはこれでもかと咆哮し気合いを見せる。デンジさんのレントラーは相変わらず妙に威厳を漂わせていたが、毛を逆立て牙を剥き出しにしている。
「レントラー、“こおりのキバ”!!」
「ガブリアス、あなをほって躱して!!」
短く鳴いたレントラーが此方に向かってくるより速く、ガブリアスはフィールドに穴を掘って姿を眩ました。
冷気を纏った牙は目標を見失い空を噛む。
「今よ、ガブリアス!」
一瞬出来た隙に声を張った。
レントラーの足元が盛り上がり、ガブリアスが地中から突き上げる。
強烈な一撃であったのは間違いない。しかし、レントラーは負傷しながらも宙で体勢を立て直し、スマートに着地した。
ただ、体力は目に見えて削られている。
「レントラー!“こおりのキバ”で反撃だっ!!」
「“ドラゴンクロー”で迎え撃って!!」
咆哮を上げ、両者は地を蹴り牙と爪とを剥き出して同時にぶつかり合った。
強い衝撃は内壁の塗装を剥がし砂埃が巻き上がるほど突風を生み出して視界を遮る。
腕で目を覆い、風が収まった頃にスタジアム中央を見れば、爪を牙を相手に打ち込んだ状態で固まる2匹の姿。
「レントラー!!」
「ガブリアス!!」
彼らに向けて張った声が届いたか否かは分からない。
直後2匹は交互に、前のめりに地面に伏して、立ち上がる気配を失った。
「よくやった、レントラー。」
「ガブリアス、有り難う…。」
健闘を讃え、それぞれのポケモンをボールに戻した後、神妙な静寂が暫くスタジアムを包む。
互いに残るは最後のポケモン。
私はカラ君、デンジさんは何を繰り出すか分からない。
でんきタイプであるのは間違いないと思うんだけど、油断はできない。
最後のボールを握り締める手に汗が滲んだ。
「……相変わらず、追い詰めてくる。」
「え…?」
ボールを投げようと握り直した時、穏やかなデンジさんの声が耳に届き、緊張が弛む。
「なあ、トモエさん。」
「は…はい…」
直線上の反対側に立った彼の目に真っ直ぐ見据えられて、忘れていたあの切なさが瞬時に蘇った。
詰まりそうな息を辛うじて吐き出し、呼ばれた声に返事をすれば、彼は手にしたボールに目を落とし、言葉を続ける。
「正直、こいつを使う事になるとは思わなかった。」
「……それは、私に手応えがないからですか…?」
「違う。そうじゃない。俺の過信だ。君は本当に、とことんまで俺を裏切るんだな。……勿論、良い意味で。」
「それは、一体…?」
「いや、こっちの話だ。」
意味深な言葉に首を傾げると、話をはぐらかされた。前にもこんな事があった気がする。もう随分昔の様に思えるけれど、この1ヶ月の間の何処かで、確かにあった。
胸中を一抹の寂しさが過ぎる。
どうしてかは分からないけれど。
「それで、トモエさん、」
ふっ、とボールから再び私に移された彼の視線にきゅうっとした切なさが再び現れる。
「なん、ですか…?」
「俺が勝っても怒らないで、話を…聞いてほしい。」
「…え、あ……はい。わ…、分かりました。」
再び掛けられたら意味深な言葉に目を瞬いた。
私は負けたからと言って怒ったり、騒いだりしないと思うし、前回敗退した時もそんな風に振る舞った覚えはないのだけれど…、何かが彼の気に障ったのかしら。
一応、怒らない自信があるので了承はしたが、妙にもやもやするのは何故だろう。
「約束な。じゃあ試合を再開しよう!」
「あ、はい!」
頷いた私に薄く微笑み、デンジさんはボールを構える。
私も倣って、手にしていたボールを再び握り直し、ほぼ同時に宙へと放つ。
「最後よ、カラ君!頑張って!!」
「こいつが俺の切り札!!」
私のボールからはカラ君が現れたが、彼のボールから現れたポケモンに目を見張った。
前後に分かれた触角の先端に付いた黄色く発光する2つの球。アイマスクの様な目の回りの模様に、特徴的な青い流線型ボディ。
「ら、ラン、ター…ン…!?」
確かに!確かにでんきタイプだけど、でんきタイプだけどランターンは、みずタイプでもあるじゃない!!
いや、でもみずタイプの技を持ってるとは……
「ランターン!!“なみのり”!!」
「嘘ぉっ!!?」
フィールドを覆った水面から立ち上がった津波に為す術もなく、カラ君は呑み込まれてしまった。
つづく>>