「…酷い目に会った…」
「すみません…、本当に御免なさい、デンジさん…。」

サンドパンとガバイトが引っ掻き、カラ君とヌオーが殴って、散々な目に合わせてしまったデンジさんに平謝りしながら傷の手当てを手伝う。
ああもう何て事をしてしまったのだ…!主思いの素敵な我が子たちの純粋な気持ちが裏目に出てしまうなんて…!
唯一救いなのは、止めに入って以降、私の行動に理解を示してくれた我が子達が反省した風に大人しくしてくれている事だ。本当に物分かりの良い子達で助かる。

いや、しかしあれは私が悪い。
まだ20代とは言ってももう初若くはない身のくせにあんな事程度で過剰に反応し過ぎてしまった。
何で泣くんだよ。
もうそんな歳じゃないだろ。
女子高生じゃないんだから。

理由はどうあれ御世話になっている人に怪我をさせてしまうなんて自分にがっかりである。因果応報が実在するのならば、これはきっと私が長年ニートしてきた罰だ。
面倒臭がって他人との交流を怠ってきた罰だ。
お母さんのお手伝いをしていなかった罰だ。
反省しなくてはならない事はもっと沢山あるような気もするが、今はデンジさんに対する非礼を清算しなければなるまい。
しかし、私は旅の途中の身。
持っている物など高がしれている。物やお金で解決する訳ではないが、一体どうすればいいだろうか。

「慕われてるんだな。」
「…え?」

俯きながら只管反省し後処理を考えていた私に声が掛った。
頭を上げるとデンジさんは優しい雰囲気を纏って薄く微笑んでいる。

「主人の為に主人の命令を拒むとは君は随分あの子達に好かれているんだな。」
「…すみません、私が至らないばかりに…。御恥ずかしいです。」
「あ、いや。責めてる訳じゃなくて…君が予想を裏切ってくれるとは、」
「え?」
「…、いや、なんでもない。こっちの話。」

聞き返すと途端に口を噤んでしまったデンジさん。最後の方はよく聞こえなかったけれど、そんなに怒ってはいない様だ。
でも、だからと言って、御詫びを入れぬ訳にはいかない。

手当てを終えた後、私は荷物の整理を始めた。無礼を詫びる術を持っていない私に出来るのは、反省を態度で示す事しかない。
故にデンジさんの厚意に甘えず彼の御宅から出て行く事が私に出来る最大の反省であると思うのだ。
迷惑を掛けた相手の御宅を借り続けられる程図太い神経を私は持ち合わせていない。

約束をしたから送電線の工事の御手伝いは続けるのが当然だが、何処か賃貸住宅的な物を借りなくては。今日は作業が終わったら、取り敢えずポケモンセンターに泊って情報を集めよう。
行動プランを頭に描き、昨日の残りのスープとパンで朝食を済ませる(昨晩のが気に入ったらしいデンジさんにも強請られたので分けてあげた)。
支度をして部屋を出る時に、玄関にいた彼は私の大荷物に気が付いた。

「随分大荷物だな。部屋に置いてって良いぜ?」
「あ、いえ。やっぱり私、御迷惑になりますから何処か別に御部屋を借りようと思います。」
「……今朝の事?気にしてないって。第一、あれは俺が無神経な事言ったからいけなかったんだ。」

怖ず怖ずと答えた私に、彼はきょとんと首を傾げる。
しかし。しかしだ。
デンジさんのその端正な顔に施された痛々しいガーゼからして、気にしてないなんて筈がないのである。
それなのにこの人は私やカラ君達を責める事もせず自分に非がある等と、何て寛大なんだろうか。だからと言って甘えていい理由にはならないが。これはケジメなのだ。

「でも、御怪我をさせてしまいましたから、御厚意に甘える訳にはいきません。」
「……じゃあ、」

首を横に振る私に、暫く何か考えてから、くっと口角を上げたデンジさんが紡いだ言葉。
私はそれにしこたま驚いた。
驚いた、以外にどう例えればいいか分からない程に驚いた。
だって、私のあの発言にそんな言葉が返ってくるなんて誰が想像しただろう。
言い切った彼は目を屡叩く私を見ても尚、薄く笑っていて、何処か楽しそうだった。

「あ、あと、今ジム閉めてるから、遠方の挑戦者で安い賃貸は一杯だし、ナギサはあんまり治安が良くないから野宿は勧められない。君に何かあったらリーグに怒られるのは俺だから。」

ついでの様に付け足した今の説明の方が、幾分説得力があると思う。
いくら世の中ギブ・アンド・テイクだからと言って、最初にデンジさんが言った事では、どう考えても割に合わないと思うのだ。


「じゃあ、俺も此処で寝起きするから、朝飯晩飯作って。それでドローにしよう。」


彼は余程手料理に飢えていたのか、将又、昨晩のコーンスープが余程気に入ったのか、それともカントー人の料理に興味があるのか。
理由は定かでないが、今空いている賃貸住宅の家賃の値段を聞かされ、選択肢を貰えなかった私は、デンジさんの厚意を結局断れず、ジムが再開するまで、送電線工事の土木作業に加え、彼のお宅で住み込み飯炊きをする事になったのだ。


つづく>>

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