「はー…来てしまったー…。」
ついさっき出て来たばかりの社員寮に舞い戻ってきた私は、自分の部屋があるひとつ上の階にいた。最上階の最西端、目の前の扉は白色、ナンバープレートには黒ボスに渡されたカードキーと同じ数列が刻まれている。
間違い無く白ボスの部屋だ。
中から物音は一切しない。もしかして寝てる?倒れてるって事はない……と信じたい。
………………入ってもいいのだろうか?いや、カードキーは預かっているものの、赤の他人がいきなり入っていったらいくら何でも失礼だ。取り敢えずインターホンを押してみよう。ドア脇にあるカメラ付きの小さな呼び鈴をゆっくりと押せば、指の動きにあわせて音が弾かれた。
が、暫く待っても返事がない。ただの屍のようだ………って訳にはいかない。何度か繰り返すもまるで反応がなかった。
「………」
悪い予想というのは大体、鮮明にその場面が頭に浮かぶものであって、嫌な予感は募る一方なのである。これはもう、突入しかあるまい。
意を決して、カードキーを挿入口に差し込み、ドアノブを回して室内に突入したその目の前に
「御邪魔しまうわぁぁぁぁぁっ!!?」
早速白ボスが俯せで倒れていた。しんどそうに肩を上下している訳でも荒い呼吸をしている訳でもなくただ倒れている。これはいよいよ死んでいるのではなかろうか!?どうしよう黒ボスに何て言い訳すれば…!!
いやいや、何も死んだと決まった訳ではない!冷静になれバニラ!私の唯一の長所だろ!そうだ、生きているに違いない!私は慌てて駆け寄り、肩を揺すって意識の確認を急ぐ。
「大丈夫ですよね!?生きてますよね!?生きてますよね!?」
……………。
返事がない、ただの屍のようだ……って洒落にならん!いやいや、倒れた時に頭打って気を失っているだけに違いない!信じたい!兎に角次は気道の確保だ!何とか白ボスをひっくり返さねば。
細っこいが身長があるこの人は完全に私より重たいし、倒れてる人を無闇に動かすのはタブーなのでランクルスを繰り出し、サイコキネシスでゆっくりひっくり返してもらう。顎を上げて気道を確保したら、呼吸の確に…………あれ?息してない?
口元に翳した掌に呼気を確認できない。莫迦な…!!まさか…!!本当に死んでんのこの人!?嘘だ!……あ、いや、まだ脈を取ってない。落ち着け私、脈があれば助かる見込みがある。心臓さえ動いていれば、人工呼吸でー…………人工、呼吸。…………いやいや、抵抗を覚えている暇はない!!白ボスだって腐っても人だ。今必要なのは人命救助!相手は白ボスでなくて死にかけた人!人!人!人!
自身に暗示をかけながら脈を取らんと腕を持ち上げた時、
「ぷはっ!」
「…………あ?」
「あー、苦しかった!ねぇノボリ!吃驚し……あれ?バニラ?」
無邪気な顔して白ボスが起き上がった。起き上がったのだ。確かにまあ、少し鼻声だしちょっと腫れぼったい顔をしてるから風邪なのは間違いないだろう。
此方を向いて驚いた様に目を屡叩く白ボスはどうも私を黒ボスと勘違いしていたらしい。私はあんなに低い声をしているだろうか。いやその前に。この人もしかして死んだ振りしていた?人があんなに慌てて心配してたのに死んだ振りしていた?………何だろうこの湧き上がる感情は……これは、怒り。
98%の怒りと、僅かな生きてて良かったと言う安堵に複雑な表情を浮かべる私に首を傾げた白ボスだったが、突然深刻な顔をして私の両肩を掴んだ。
「バニラ!ぼく、今死にかけ!脈はあるけど呼吸してない!宜しく!」
そう言って、再び横になり目を閉じた白ボス。同時に私の中で何かが頂点に達した。つまり、“バニラのいかりのボルテージはもう上がらない!”的な状態である。
故に、そこからの私の動きと言ったら、素早さ全振り加速持ちテッカニンをも越えられそうな早さでもって横になった白ボスに跨がった。
「うるあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!そのまま心臓も止めてやるわクソボケェェェェェ!!!!」
「きゃーっ!バニラ積極てぎゃぁああああっ!!首、駄目!絞めるの駄目ぇぇぇぇぇっ!!!!」
白ボスとみまい