頭が痛い。
これは熱だけのせいではないだろう。
ランクルスが器用に剥いて、ハハコモリが綺麗に切り分けてくれた林檎にシャクリと噛み付いてぼけっとしながら考えた。
昨日の事を反芻すればする程、頭が痛い。白ボスのあの行動は熱故の間違いであると信じたいのだが、不服にも何処かで間違いでなければ良いと思う私がいる事実。どうなってるんだ私の気持ち。頭が痛い。
眉間に皺を寄せつつ、ランクルスとハハコモリが只管剥き続ける林檎を只管口に運ぶ私は嘸や滑稽だろう。
しかしランクルス、ハハコモリよ、流石に剥き過ぎだ。40pくらい積み上がってる。と言うかよく積めたな。上手だねって褒めたからこの子達、調子に乗っちゃったんだわ。
とりあえず彼らに何とか言って、林檎を剥くだけの簡単な作業を中止させねば。水っ腹ならぬ林檎っ腹になる。
「もう良いから一緒に食べよう?」と提案すると、2匹は喜んで林檎を食べ始めた。
良かった、しかし食べるの早いな。2匹して両手に幾つ持ってんだよ。あーあ、もう3個しか残ってない。
それはさておき、私である。
今更キスのひとつやふたつで大騒ぎする様な純情乙女は既に遠い昔に捨て去ったから良いのだが、問題は私の本心である。あれだけハラスメントを受けていて、仮に私が白ボスに好意があるとしたら、どんだけマゾなんだ私。
……………………。
考えなきゃ良かった!これじゃあ逃げ道がないじゃないか!
落ち着け!落ち着けバニラ!仮に白ボスが好きだとしても、ハラスメントされたから好意を抱いたんじゃなかろう!そうだ!落ち着け!この際、あの停電後から思い出してみよう。私の記憶の中じゃ、名前も教えていない状況でいきなりセクハラされた訳じゃなかった筈。そうだ、最初はもっと別に普通に御喋りをして………一方的に聞かされていたじゃないか。あれが確か停電の割とすぐ後で、本格的に変な事されはじめたのは……あれ?………先、月?
私の記憶力は決して良い方ではないが、地道に辿っていってもそれより前に何かあった覚えがない。
ええっと、初めは……そうだ、普通に挨拶からだった。白ボスが「そう言えばぼく、キミの名前、知らない。」とか言って失礼だなって思ったんだっけ。まあ、人の事は言えないけども。あとは手持ちの話とかバトルの話とか、普通の会話をしていた筈。それから徐々にハグとか多くなって、だけど、割と人にくっつきたがる質だって聞いてたから驚きはしたけど、流す事に違和感は無かったし、それがセクハラ発言になっても拒否すれば諦めるし、呆れる程度で冗談に近いものだと思ってたから………あれ、何これ。あの人徐々に今の状態に移行してきたってことなの?これ完全に白ボスのペースに呑まれてるじゃん。うわ、なんかもうこの時点で負けた気がする。いや、勝負してた訳じゃないけど。
ともあれ、色々と記憶を辿ったものの、私の本心に当てはまる節が全くなかった。うーん……じゃあ最近思った事の分析か。
何かあったとしたら、やっぱりあの日だろうか………あ、そう言えば不覚にもきゅんとした様な…………そうだ。あの時だ。
「眠るまでいて、」に庇護意識を擽られて、確かにきゅんとしたのを覚えている。でも、あれは妹弟に覚える感覚と同じ類だった気がするし……うーん、分からん。こうなったら仮説を立てよう。昨日の看病の件、私じゃなくて別の誰かが、例えばサブウェイ常連のあのポニーテールの元気少女を大人にした様な美人さんがやってたら。
不器用ながらも献身的な優しい感じで…………あ、凄ぇ絵になる。なにこれくやしい。……悔しい?悔しい、悔しいか…。
…………。
何となく、答えが出たような気がしたけど、此処で決めてしまうのは何か悔しい。さっきとは別の意味で悔しい。
よし、明日出勤して白ボスの顔を見て決めよう。そうしよう。
決意を新たに再び林檎を食べようと手を伸ばしたら、既にお皿は空っぽだった。
白ボスときもち