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「痛い…。バニラ、ぼく 顔痛い…。」

管制室の点検を終えた私が再び事務室に戻ると、部屋の端っこで体育座りしながらべそを掻く白ボスがいた。

「でしょうね。」
「冷たい!」

痛い原因は私に、いや元を糺せば白ボスの自業自得だ。誰もいないからって人の事殺し掛けた挙げ句に貞操迫ってくるとかもう犯罪じゃないか。私が工学マニュアルを叩き付けなかったら今頃白ボスは犯罪者なんだから、未遂で終わらせてやった私に感謝してほしいくらいだ。故にしれっと返事したのだが、気に食わなかったらしい白ボスはまたぴーぴー泣き出す。本当にあんた幾つだよ。

「解りましたから、白ボス。帰りますよ。」
「………うん。」

仕方無いから白ボスの隣で軽く背中を叩いてそう言うと、彼は愚図りながらも頷いてデスクへと荷物を取りに行った。
思ったより素直だな、なんて思っていたのだが、荷物を持ってきた白ボスに私は言葉を失う。

「…………何で旅行鞄?」
「ロッカーの整理したから!」

もう嫌な予感しかしない。

▽▽▽▽▽

ギアステーション勤務の職員には社員寮という名のマンションが与えられている。1LDK風呂トイレ別の中々御洒落な部屋だ。場所はカナワタウン。土地が狭いから基本的に空を飛ぶを利用した移動には不向きで、交通手段は電車のみなのだが、社員寮の屋上のみ空を飛ぶの着陸が認められている。利用できるのは勿論、ギアステーション職員のみだが。
当然、終電時刻も過ぎてしまっているので、私と白ボスはそれぞれ空を飛んで屋上に着地し、各々の部屋に帰るつもりで、少なくとも私はそのつもりでいた。白ボスがあんな事を言うまでは。
屋上のみならず、建物に入るにはセキュリティー対策上、自室のカードキーが必要で、慣れた動作で私はエレベーターホールに入った。しかし、白ボスは扉の向こうでじっとしているではないか。不思議に思って、もう一度屋上に戻り、声を掛ける。

「白ボス、どうかしましたか?」
「ぼく、カードキー何度かなくした事がある。」
「…?はあ、」

すると、白ボスは私の問いになど答えず、ぽつりとそう言った。何か始まった…どうしよう、嫌な予感しかしない。
そんな私の気分を察する訳もない彼はぽつりぽつりと話し始めた。

「あんまり頻繁だから、カードキー、出勤したらノボリに預けてる。」
「はあ…。」
「今日も預けた。何時もは帰るの一緒だから部屋に着いたら返してもらう。」
「……ええ、」
「今日、ノボリ早番。帰るの別々。だけど、カードキー、返してもらうの忘れた。」
「それで?」
「ノボリもう寝てる。起こすの可哀相。」
「………………つまり?」
「ぼく、部屋に帰れない!だからバニラの部屋に泊めて!」
「寝袋やるから其処で寝ろ!!」

どやっ!と言わんばかりの胸を張った白ボスに吐き捨てて私は踵を返す。ほら見ろやっぱりそうだ!嫌な予感は当たるんだよ!足早にエレベーターホールへ戻ろうとする私だったが、背後から腰の辺りに飛んできたの衝撃に海老反りを強要された。

「ぎゃあっ!!?」
「やだやだ!バニラ、置いてかないで!」

まあ当然、飛んできた物体は白ボスな訳だけど、彼は私の腰に例の長い腕を回し、完全ホールドして歩行の邪魔をする。いや、幾ら細くて幼いと言え相手は立てば180pを優に越える成人男性、邪魔なんて可愛いもんじゃなく此は阻止だ、歩行阻害だ。それでも私は、必死で足を踏ん張り、前のめりになりながら何とか歩こうとする。なんて健気。
だけどやっぱり1歩も進まない。これあれだ。白ボス、完全に引き摺ってくださいの体勢でいるに違いない。どうやって切り離そうかと考えを巡らせていたが、下腹部に走るむず痒さに背筋が粟立ち、思考が断ち切られた。
見れば、後ろから回ってきた白い手がわさわさ動いている。

「ちょ、白ボス、何して…ぎゃっ!?太股触んなっ!!!」
「あれ?バニラ、ちょっと太った?」
「な…!?何故それを…!?って違う!離してください!!」
「じゃあ泊めて!」
「それとこれは話が…ひっ!?」
「バニラやーらかい!」
「わ、解りました!!解りましたから!離して、ください…!!」
「やったー!」

矢鱈と慣れた滑らかな手付きをじわじわと上に滑らせる白ボスに殺意を感じつつも、この屋外での公開セクハラを打破するが為に、私は白ボスを部屋に泊めると言う危険な条件を呑まされることになったのだった。




白ボスときたく


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