act.12

「ねぇ〜トシぃ〜行こーよぉ〜。最近じゃ、お妙さん照れちゃって俺一人だと店に入れてくんないんだよぉ〜」

「行かねーよ。誰が何と言おうと行かねーよ。それからあの女は照れてんじゃねぇ、アンタが嫌いなんだよ。」

「そんな事ないもの!!お妙さんは照れてるだけだもの!!」


act.12
何コレ?どんなサービス?


「っせーな、何やってんだよ。こんな時間に。外でやれ。」

隣の部屋から聞こえる近藤さんのねちっこい声と土方さんの呆れ声にイライラした(特に前者)あたしは襖を開けた。

「あ!紅羽ちゃん!!ちょっと一緒にトシ説得して!!」

「や、紅刃ッスから。説得?」

「気にすんな鷹居。この人行き付けの店のキャバ嬢にあんまりしつこくモーションかけるもんだから、店に一人じゃ入れてもらえなくなって、俺をダシにしよーとしてるだけだから。」

「行きゃあ良いじゃないッスか。」

「御免だね。あんな女のうるせぇトコ行って何が面白ェんだか。」

眉間に皺を寄せ溜め息をつく土方さん。これはモテる奴の発言だね。あたしも女の子相手にしたことあるもん。

「うるせぇ女が嫌ならオレの行き付け…」

オカマバーにも行かねぇよ。

「……っち。」

どうやらあたしの手の内は読まれていたようだ。
土方さん程の男前を連れ込んだらママも皆も絶対喜ぶのに…。

「っとにノリ悪ィんだから、土方さんは。いいッスよもう!!近藤さん、オレで良ければお供します!」

「えっ!!紅羽ちゃん、マジでっ?!」

仔ゴリラの様に目を輝かせる近藤さん。それとは対照的に土方さんは鳩が豆鉄砲食らった様な顔をしてる。

「なっ!!鷹居、お前女だろっ?!」

「昼間言ったじゃないですか、たま〜に男装してキャバクラ行くって。」

「だからってお前…」

「副長の嫌いな対人関係の仕事をすんのも補佐の仕事ですから!ほいじゃ、近藤さん、この鷹居紅刃、お供致しやす。」

「ありがとォォォォォォ!!!ありがとォォォォォォ、紅羽ちゃァァァァァァん!!!」

「や、だから紅刃だっつってんだろーが。女だってバレたらどーすんだよ、殺すぞ腐れゴリラ。」

こうしてあたしは近藤さんと一緒にキャバクラ遊びしに夜の歌舞伎町へ繰り出しました。
……土方さんの溜め息に見送られて。


屯所の前でタクシーを拾い、暫く乗っていると、ネオンきらびやかな歌舞伎町が見えてきた。
繁華街の入口手前でタクシーを降りて、暫く歩くと近藤さんが足を止める。

「ここ、ここ。スナックすまいる。」

「へぇ〜、随分質素ですね。オラァもっと危ない雰囲気のとこにも行ったことありますけどね。」

「え!?ちょ、女の子が何てトコ行ってんのっ!!」

「女じゃねーから。市民様にバレたらどーすんだよ。次言ったらサーカスに売り飛ばすぞ。」

「……ごめんなさい。」

ドスの利いた声で脅せば、近藤さんは肩を竦めて謝った。

こんなんが局長でいいのか?

「ま、まぁ兎に角入ろう!!今日は俺が奢るから!!」

「当然ですよ。オレ今財布どころか一銭も持ってませんから。」

「……勲、ちょっと泣きたくなってきた。」

「泣くな。バナナあげるから。」

すごすごと店内に入る近藤さんの肩を叩いてその後を追った。

*****


「お妙ちゃん、指名入りましたー。7番テーブルについてー。」

控え室でお化粧を直していると、スタッフさんから声が掛かる。

「お客さんは誰かしら?」

「え?何時もの近藤さんと…」

「じゃあ行きません。」

「…あの、でも、もう一人…」

「しつけーな、行かねーってんだろ。その辺の新顔に相手させとけや。」

「…はい。」

ちょっとキツメに言ったらスタッフさんはホールに戻ってくれた。

「…ちょっと、お妙〜。あの人アンタ行かないと煩くて堪んないのよ〜?」

「だって おりょうちゃん。私だって嫌だもの。あんなゴリラ。」

「…アンタねぇ……」


「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」」


おりょうちゃんとお話ししてると、ホールから黄色い悲鳴。

「!!」

「何?!何があったの?!」

「!!まさか花子ちゃん?!花子ちゃんがまた深い川でザリガニ取りを?!」

「んな訳あるかァァァァァァ!!!ちょ、行ってみよう!!お妙!!」

「ええ!!」

*****


「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」

「誰ェェェェ!!?あの人ォォォォォォ!!!?」

「ゴリラと一緒だけど誰ェェェェ?!!あのカッコイイ人ォォォォォォ!!!」

店内に入り、7番テーブルに通された近藤さんとあたし。

スタッフさんが指名を聞いてきたら近藤さんは迷わず「お妙さん。」と答えたが、未だにその“お妙さん”が来ない。
かと思えばヘルプの娘も来ないし、周りはこっち見て騒いでるだけだし…どーなってんだこの店。

「あの、近藤さん。お妙ちゃん今ちょっと出てて…」

うだうだ考えてたらさっきのスタッフさんがやって来て頭を下げた。

「え、マジでェェェェ!!?じゃ、俺待ってます。永久に。」

永久に、ってほぼストーカーじゃねーか。
あ、そういや土方さんが
『どっかの誰かは市民の身辺警護とかほざいてストーカーに現を抜かし』
云々言ってたっけ。
アレ、近藤さんなんだ。

「………はぁ…。ところで、そちらの方、御指名は?」

成程納得、と、一人頷いているとウェイターさんに声を掛けられる。

「あ?オレ?特にありません。今日は酔い潰れた近藤さんを運ぶのについてきただけですから。」

にこ、っと微笑むとまた周りが騒がしくなった。

なんなんだよ、もー。

「では、今ヘルプの娘呼びますね。」

スタッフはそう言って去っていった。

「近藤さん、とりあえず何か飲みましょうよ。」

「そうだな。あ、紅刃君は未成年だからお酒はダメだよ。」

「分かってますよ……」

溜め息をつき、あたしはメニューを開いた。

*****

ホールに出ると、特に変わったお客も居らず、悲鳴の正体は分からなかった。
ただ、何時もより皆落ち着きがなく、7番テーブルの方をチラチラ見ている。

「何があったのかしら…。」

「…さぁ……あ、阿音!何があったの?!」

おりょうちゃんが近くで鼻息を荒くしている阿音ちゃんに話しかけた。

「あ゙ぁ゙?!アンタらも参戦しに来たの?!言っとくけど7番、あれ私の客だからね!!」

「7番?ゴリラの事?阿音ちゃん、ゴリラ貰ってくれるの?!喜んであげるわ!!」

「違ェェェェェェェェェ!!ゴリラじゃねーよ!!もう一人いんだろーが!!7番に!!」

「え?!」

テーブルを確認すれば、ゴリラの他に焦げ茶色のふわふわな後ろ頭が見えた。

「あ、ホントだ。…顔見えないけど…誰だろ?」

「聞いて驚きなさい!!真選組新隊士の鷹居紅刃さん!!凄腕の剣客で副長補佐だそうよ!!だから絶対金持ちよ!!しかも顔見てきたけど中々良い感じだったわ!!イモばっかの真選組には貴重な存在なのっ!!」

更に鼻息荒く答える阿音ちゃん。目が血走ってるわ。

すると、何にも知らないスタッフさんが控え室入り口に向かって叫んだ。

「今、手ぇ空いてる娘いないー?7番ヘルプ入ってー。」


「「「「「はァァァァァァァァァいッッッッ!!」」」」」

スタッフさんの声を皮切りに、自分のお客さんそっちのけで、みんなは我先にと7番テーブルに向かおうとする。

「退けェェェェ!!アタシが先よォォォォォォ!!」

「私よォォォォ!!あんたお得意一杯居るじゃない!!!」

「お兄さん!!お名前は!!」

「抜け駆けしてんじゃねェェェェェ!!!」

私とおりょうちゃんはその醜い争いを後ろから見守った。

「…うわぁ〜、土方さん来た時より酷いね、こりゃ。」

「ホント。嫌ね、醜いわ。」

「アレ?お妙は参加しないの?玉の輿狙ってるんでしょ?」

「ふふ、参加する筈ないでしょ、おりょうちゃん。いくら私でもあんな醜い争いには参加しないわ。」

「そう?そうよね。ごめん、私アンタの事ちょっと悪く見てたわ。」

「気にしないで。さ、行きましょ?おりょうちゃん。」

「え?何処に?」

「7番テーブルよ。」

「アレ?醜い争いには参加しないんじゃないの?」

「ええ。でも私は7番に指名が入ってるから。

「…………、」

*****

「松子でー…ぶふぉ!!

「ちょ、退きなさいよ!!お園でー…ぐほぁ!!!

「邪魔よ!!新顔がっ!!阿音でーすっ!」

「ひっどい!!阿音ちゃん!!あんたなんかこうよっ!!」

バキッ!!

「…っ!!やったわね!!」

ドゴッ!!

………キャバ嬢達が、あたしらのテーブルの前で殴りあいを始めた。
何コレ?どんなサービス?

「ちょ、近藤さん。何スかこの店。」

「すいまっせーん!!お妙さんまだですかァァァァァァ!!?」

「聞いてねぇし。」

あーあーあー、グラスとかボトルとかも飛び交ってるよ。ヤバイよ。他のお客さんとか帰っちゃってるし。

これってあたしらのせいなのか?営業妨害で訴えられないよね?

「あらあら、すいませんね。お客さん。」

ふと後ろから、清楚な感じの声がした。

「お妙さァァァァァァん!!!やっと来て……あべしっ!!!

抱き付こうとしたのか、立ち上がった近藤さんはものの3秒もしない内に入口辺りまで吹っ飛んでいった。

「こっ、近藤さァァァァァァん!!?」


あの巨体を吹っ飛ばすなんて……どんな猛者?
つーか何でそんな猛者がキャバクラに居んの?

「お待たせしてすいませ〜ん。ご指名有り難う御座いますぅ。お妙です。」

1人もんもんと考えていると、また後ろから声が掛かり、1人の女性があたしの向かいの席に座り微笑んだ。


……あれ?このヒト……


「嬉しいわ。こんな男前の方に指名されるなんて。」

下を向き水割りを作るその女性にあたしは見覚えがあった。


「……妙……ちゃん?」

「え?」


彼女は顔を上げて返事をし、次の瞬間目を見開く。
あたしは確認するように、もう一度訊ねた。

「志村……妙さん……じゃないですか?」

「!!………もしかして、紅羽ちゃん…!?」

思わぬ所で、思わぬ形で旧友と再開を果たしてしまった。

……しかもあたし男装中だよ…。どう言い訳しようか…


To be continued……

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