act.13

「鷹居紅刃〜、只今戻りましたぁ〜」

玄関で声がした。

時計を見ると、近藤さんと鷹居が出掛けてから1時間も経っていない。

「…何時もより大分早ェな…」

銜えた煙草を灰皿で揉み消し、俺は腰を上げ玄関に向かった。


act.13
軽薄短小じゃねぇ


「うぅわ、このゴリラ重っ!!土方さんの倍はあるよ。」

「そんなにねーよ。」

ぶつぶつ文句を垂れてると、土方さんが廊下を曲がって此方にやって来た。

「あ!土方さん!!ゴリラ引き取って下さい。」

あたしはそう言って、背に腕を回し肩に乗っけた状態の近藤さんを背負い投げの要領で廊下に叩きつける。

「ぐほっ!!!」

「オイィィィィィ!!!何やってんのお前ェェェェェェェ!!!」

「背負い投げ。」


「見たまんまの答えじゃねぇよ!!」

「すんません、オレ此れからアフター決め込むんで。」

「は?」

訝しげに顔を顰める土方さん。

そりゃそうだよな。女がキャバ嬢とアフターなんざ御天道様だって吃驚するよ。

「実は店にオレの幼馴染みがいて、その娘に拉致られるんです。説教されるんです。助けて下さい。土方さん。」

縋る様に土方さんを見上げれば、より眉間の皺を深く刻んだ。
うーん、悪人面だよ土方さん。

「何だよ、いきなり…」

「や、だから助けてくれって。可愛い補佐が拉致られるんですから。」

「何で拉致られんだよ。」

「説教されるんです。」

「だから何で。」

「そんなん知らねーよ!!知ってたら説教されねーもん!!心当たりがねーんだよ!!分かったか土方コノヤロー!!!」

「何それ!?いきなり反抗期?!」

物分かりが悪いっつーか頭が固い土方さんを怒鳴ると、背後の引き戸が開いた。

「もぅ!!何やってるの?!紅羽ちゃん!!早くいらっしゃいな。バトルロイヤルホストが閉まっちゃうわ!!」

「うわぁぁぁっ!!」

あたしは土足で屯所内に入り、眼前でポケットに手ェ突っ込んでる土方さんの後ろに隠れる。

「お、おい!鷹居ッ?!」

「あら、土曜9時からマヨラー探偵さん。今晩は。」

現れたのは妙ちゃん。や、あたしが連れてきた(是が非でも付いてきた)んだけどさ。

妙ちゃんは土方さんを見つけるととんでもなく失礼な挨拶をした。

「誰がマヨ探だ。つーか何でアンタが此処にいんだよ。」

「紅羽ちゃんに用があるんですぅ。あ!そうだわ!!土方さんも一緒に来て頂けます?紅羽ちゃんの上司なんでしょう?」

「……はぁ?」

土方さんは訝しげに首を傾げ、懐から煙草を取り出すと火を着け、背後にいるあたしを見下ろした。

「どーゆー事だ?鷹居。翻訳しろ。」

「土方さんっ!!オレを拐って逃げて!!」

「質問に答えろっ!!」

「ぬ゙〜〜。実はですね、先刻申し上げた幼馴染みっつーのがこの妙ちゃんなんスよ。それで───


──回想──

「やっぱそうだっ!!久し振りっ!!元気だった?!」

「ええ、久し振りね。でも何で紅羽ちゃ──もがっ!!」

「悪ィ、妙ちゃん。あたし今真選組で男装して仕事してんだ。女だって事は隊内でも一部しか知らねぇから外に漏らすのはマズイんだよ。っつーことで紅刃って呼んで」

「あ、そうなの?ごめんなさ…って真選組ですって!?」

「う、うん…」

「………すいませーん、スタッフさーん。私これからお店出まーす。」

「……は?」

「さ、行きましょ。紅刃さん。」

「え、ちょ、妙ちゃん?」

「どういう事かきっちり説明してもらうからな。」

「……え゙?」

──回想終了──


と言う訳なんスよ。理由は分かりませんが説教されるんです。助けて土方コノヤロー!!」

あ、ちなみに御勘定はきっちり済ませましたよ。延びてる近藤さん揺すって出てきた財布から拝借して。

「てめ、それが人に物を頼む態度か!?」

「端から説明しねーと分かんねー人に頼む態度はこれで良いんだっーの!!」

「んな事言ったってなァ!唐突に拉致だ、説教だ、助けろだ 立て続けに言われてみろ!!フツーは説明を求めるだろーがッ!!」

「違うねっ!!それは一般人の考えだねっ!!警察たる者、困ってる人が居たら否応なしに助けるもんだろーが!!」

「何その警察の解釈!!そういう奴が下らねぇ理由で110番すんの!警察は万事屋じゃねーんだよ!」

「あーあーヤだヤだ!!自分が出来なかったからって、そーやって皆が皆おんなじよーなモンだっつー発言!!オレは絶対違うねっ!!困ってる人居たら助けるねっ!!」

「絶対だな?!お前絶対困ってる人居たら助けるのな?!それがもし攘夷志士とか総悟で俺が邪魔で困ってるから殺してくれって言われたらどーすんだコノヤロー!!」

「そんなん聞かねーよ!!第一オレ、攘夷志士は人じゃねーと思ってるから!!」

「酷っ!!」

「それに仮に攘夷志士が人だとしても」

てめぇ等の警察談義なんざどうでも良いんだよ。此方は仕事抜けて来てんだから黙って付いて来いっつーの。」

「た……妙、ちゃん…?」

あたしと土方さんの警察討論がヒートアップしていると、ドスの利いた声がした。
見れば般若の様な形相で妙ちゃんが此方を睨んでいる。

「時間がねーんだよ。つべこべ言わすファミレス行くぞコラ。」

「「……はい…」」

そうしてあたしは恐怖のバトルロイヤルホストに連れていかれた。

*****

「紅羽ちゃん、どうしてそうなるのかしら?」

「……」

「こ、…怖ぇから…」

現在、バトルロイヤルホストにてあたし、妙ちゃん、土方さんが1つのテーブルを囲んでる訳ですが…

あたしの対面に妙ちゃん。あたしの隣に土方さん。と言う具合に座していまして……妙ちゃんの“どうしてそうなるのかしら”になるのです。

「可笑しいわよ。普通は女の子同士でおんなじ側に座って、紅羽ちゃんは私の腕に引っ付いているべきでしょ?これじゃあ浮気相手が本妻に“アンタその人と別れなさいよ”っていうシチュエーションになるじゃない。」

「……だそうだ。ほら、放れろ鷹居。」

土方さんは腕にしがみついているあたしを剥ごうと頭を押す。

しかし此処は放す訳にはいかない!!

「嫌だぁ!!昔っから妙ちゃんの説教怖ぇんだもんっ!!手は出る足は出る!!近場に盾になる人がいねぇ事は死を意味する!!」

「俺盾代わりかよっ!!?」

「他に何がっ?!」


「放れろっ!!盾代わりになんのは御免だっ!!」

「ぬ゙ぅぅっ!!放さぬぅあああ!!」

更に強く頭を押さえ付ける土方さんに蛭の様にあたしは引っ付く。

「紅羽ちゃん!駄目よ、そんなにくっついちゃ!!女の子なんだから少しは慎みなさいっ!!」

妙ちゃんは蛭の様に土方さんの腕に密着するあたしを気遣ってか、そう言った。

「ふははははっ!!心配御無用!!あたし晒し巻いてるから!!妙ちゃんと違って胸あるけだぐはぁ!!?

言い終わる前に妙ちゃんの拳が飛んできてあたしの顔面に右ストレートが決まる。

「何かしら?紅羽ちゃん。よく聞こえなかったわ。」

ものっっっ凄いイイ笑顔で妙ちゃんは言った。

「…何でもない…です…」

あたしは鼻を押さえながらそう答え、土方さんの腕を放す。
すいっと横からポケットティッシュが差し出された。

「みっともねーから拭け。」

「…あい。ありがとございます、土方さん。」

出されたティッシュを2、3枚頂戴して鼻に詰め込む。

「…んで、妙ちゃん。あたしに何の用だろうか?」

「あぁ!!そうだったわ!本題、本題。忘れてたわ!」

「…オイオイ…」

「紅羽ちゃん、どうして真選組なんかで働いてるの?しかも男の人の格好して…。」

「あ、なんだ。その事か。実は斯々然々で…」

「斯々然々じゃ分からないじゃない。ちゃんと説明してちょうだい。」

「オイィィィィィ!!此処は違うよ!!斯々然々には色んな出来事が入ってるんだよっ?!そのまんまじゃねーのっ!!なんかあたしめっちゃ恥ずかしい事言ったみたいじゃん!!」

「あら、ごめんなさい。でもちゃんと説明してもらわないと…ね?」

「〜〜っ!!だから、先の事件で隊士が減った真選組が新隊士を募集してるところにたまたま仕事辞めさせられたあたしがいて、なんやかんやあって入隊したんだけど、女のあたしの身の安全を考えた兄者が男装しろって事で、男の格好で男として、今日から真選組に勤めて、隊士の皆さんと衣食住伴にして頂いている次第でありますっ、これで満足かァァァァァ!!」

一息で言い切った……我ながら吃驚だよ。

「そうだったの。でも、衣食はいいとして、年頃の女の子が大勢の男の人と住を伴にするってゆーのは心配だわ。紅羽ちゃん、家にいらっしゃいな。」

頬に手を添え困ったように首を傾げた妙ちゃんは突拍子の無い事を言った。

「「は?」」

図らずとも土方さんとハモる。

「ちょ、待って待って。妙ちゃん。何だって?」

「だから、私の家にいらっしゃいよ。私の家からだったら紅羽ちゃんの家より屯所に近いし、新ちゃんは居るけど、ダメガネだから紅羽ちゃんにはちょっかい出さないって言うか出せないし。そうよ。それがいいわ。紅羽ちゃん、家にいらっしゃい。」

「いやいやいやいや。心配してくれんのは嬉しいんだけどさ、あたし一応隊士だし。何時何時、緊急事態が発生するとも限んねーし、常に屯所に身を置いとかなきゃならねぇのよ。ねぇ、土方さん。」

横に座る土方さんに同意を求めると、興味無さげに頷いた。
野郎、後で覚えてやがれ。

「駄目よ!真選組なんて飢えた狼の巣窟じゃない!!何時紅羽ちゃんが女の子だってバレて、何されるか分からないわ!!」

「その点は問題ないって。あたしアレ、えーっと、カジキマグロだから。住んでる世界が違うから。ねぇ、土方さん。」

「そーだな。」

「突っ込めよ。カジキマグロに突っ込めよ。虚しいじゃん。」

再び土方同意を求めるが、やっぱり興味無さげに空返事をするだけ。
ホント覚えてろよ。後でなんかするから。

「でも駄目よ。いくら紅羽ちゃんがカジキマグロだろーがプテラノドンだろーが、女の子だもの。」

「プテラノドンは言ってねーよ。」

「第一昼間は良いとしても夜どうするのよ。紅羽ちゃんはお風呂に入らないつもり?屯所は個室じゃなくて大浴場になってるんじゃなくて?」

「あー……あたしは別に野郎の裸体なんざどうとも思わねぇから、普通に入るつもりでいるけど。」

がたっ!!

不意に隣で音がした。

「……何やてんスか?土方さん。」

土方さんが微妙に椅子からずり落ちている。何やってんだ、この人。

「鷹居ッ……お前 マジで言ってんのか?!」

「は?…あぁ、風呂ですか?まぁそれなりに。」

「お前は良くても他の奴等が困るだろーがッ!!つーか女だってバレるぞ!!?」

「やー、何とかなるでしょー。湯煙とかで。」

「なるかァァァァァァ!!ちょ、やっぱお前、そいつん家に預かってもらえよ!!」

何をそんなに焦るのやら分からないが、妙ちゃん家の居候になったらなったで、それが兄者にバレたら女だってバレるよりか困る、っつーか殺される。


なんですって!?志村さんの家に居候?!何ふざけた事してるのですか!!貴女があの場で女でいられるのは夜だけなんですよ!!その機会を逃してどうするんですかッ!!それでどうやって土方さんを墜とすと言うのですか!!どうやって既成事(以下自主規制)


って言われる。絶対。そして次の瞬間あたしはこの世にいないのだ。

それだけはなんとか逃れねば!!
「ほら、紅羽ちゃん。土方さんもこう言ってることだし、家にいらっしゃいよ。」

「いやいやいやいや、無理無理無理無理。そんな事したら兄者に殺される!」

「「兄者?」」

「!!」

し ま っ た

つい正直に言ってしまったッ!!ヤバいぞ!これはヤバいぞ!!

「なんでそこに黒刃が出てくんだよ。」

土方さんが訝しげに眉を顰める。

それは兄者が貴方(の給料)を狙っているからです。

…なんて口が裂けても言えない。

「そうよ。今、黒刃さんは関係ないじゃない。」

そうだよ、その通りだよ妙ちゃん。でも違うんだよ。
あたしにとっては兄者は関係あるんだよ。

「や、ほら、あたしが真選組で働けるのは兄者のお許しが出たからであって、関係ない事じゃないんだな。コレが。」

と言うのは都合のいい口実だが、真実は言えないんだから仕方ない。

だって言ったら最期、切腹だもんよ!!

「でも黒刃さんは紅羽ちゃんを心配して、男装させてるんでしょう?私の家からの通勤になった方が紅羽ちゃんは安全なんだから、逆に喜ぶんじゃないかしら?」

ゔぅ゙……御尤もだよ妙ちゃん……。
君が言う事は昔っから正論でシビアだよ。

「うん……」

「それとも何か別に理由があるの?」

あります。ありまくりです!!
しかし!此処では言えない『土方さんを墜とすためです☆』なんて可愛い娘が言うならまだ分かるけど、あたしだよ?!無理無理無理無理。

「オイ、どうなんだよ。」

黙り込んだあたしに痺れを切らしたのか、今度は土方さんが詰め寄る。
くそぅ、土方さんだけでも味方に付けれたら…………



そうだ!!

あたしは顔を上げて妙ちゃんを真っ直ぐ見据えた。

「どうしたの?」

「妙ちゃん、さっきも言ったけどさ、あたし 副長補佐なんだよな!!」

「ええ。」

「副長補佐ってのはさ、副長様の手となり足となり、時には盾となり刀となりして我が身を呈してでも御護りしなきゃなんねぇんだよ!!」

ははは、これ昼間沖田さんにもおんなじ事言ったな…
いや、でも事実ですよ?実際そう思ってるもん。

「まぁ、それは理想的だと思うわ。」

「だろ?!でもそれが自分の身が危険だからって屯所を開けるなんてのは無礼千万、得手勝手!!そんな事したら、大義滅親を座右の銘にする兄者が許す筈ないと思わねぇか?!」

…まぁ、兄者の本当の座右の銘は“人間万事、金の世の中”だけどさ…。大義を尊ぶのは間違ってないよ。


…多分。

「…そうねぇ、そう言われればそうかもしれないけど…。」

「それにあたしだって副長補佐の仕事に責任持ってやってるんだ!!まだ1日目だけど、此処で屯所抜けます、なんて、あたしの忠誠心はそんな軽薄短小じゃねぇ!!」

「…鷹居…」

「……そうねぇ〜。」

おしっ!!何か土方さん感動してるっぽい!!妙ちゃんもあと一押しの筈!!

「それにあたし一応真選組では男って事になってるからさっ、妙ちゃんトコに厄介になったら、それこそ問題だよ。」

「あ…!そうね…。じゃあ仕方ないわ…。」

よっしゃァァァァァァァァ!!あたし勝利!!これで兄者に殺されなくて済む!!

妙ちゃんや土方さんに気付かれないよう、テーブルの下で小さく拳を握った。

「あぁ、でも心配だわ。幾ら紅羽ちゃんだって女の子だもの。何かあったら直ぐに言って。コレ私の携帯だから、何かあったら直ぐに連絡してくれていいからね?」

妙ちゃんはお店のアンケート用紙に自分の携帯番号を書くとあたしに差し出す。
あれ?微妙に失礼な事言わなかったか?

「ありがと。妙ちゃんがいれば心強いや。」

何か引っ掛かるが、あたしはメモを受け取って微笑んだ。

「ふふ、そう?後で空メール送ってちょうだいね?」

「うん。」

「あと……くれぐれもゴリラには教えんじゃねーぞ。

「う、……うん…」

「さ、じゃあ帰りましょうか。」

「へ?」

妙ちゃんは立ち上がってあたしの腕を引く。

「おい、待て。鷹居はアンタん家に居候するんじゃねぇだろ。」

透かさずもう一方の腕を土方さんが掴んだ。

「あら、土方さん。お忘れになって?私、今日は紅刃さんとアフターなのよ?」

「「あ。」」

妙ちゃんはにっこり微笑む。

……すっかり忘れてた……

「行きましょ紅刃さん。私の家に御招待するわ♪」

「あ、…ああ、うん…。…じゃ、土方さん、近藤さんが目覚める前には戻ります…」

「…気ィ付けろよ。」

あたしの腕を放して土方さんは頬を引き攣らせながら言った。

それからバトルロイヤルホスト出て、土方さんと別れ、あたしは妙ちゃん家に連行された。

「ただ〜いま〜。新ちゃ〜ん?」

しかし返事はない。
妙ちゃんは玄関の灯りを着けた。

「新ちゃ〜〜ん?…今日は銀さんの所かしら?まぁいいわ。紅羽ちゃん、上がって。そしてお風呂に入ってらっしゃい。」

「え?いいの?」

「だってその為に連れてきたんだもの。大浴場じゃ、時間をずらしても何が起こるか分からないからね。」

「妙ちゃん……!!」

ああっ!!同じ金にがめついなら、あたしは妙ちゃんの様なお姉ちゃんが欲しかったよ!!
これこそ妹の身を心配するってことだろ!!あたしのが1コ上だけどさっ!!

そんな事もあり、妙ちゃん家の居心地があんまりにも良いのでうっかり1泊して、屯所には朝帰りになってしまった。


「紅刃くぅぅぅぅぅん!!!紅刃君だけお妙さん家に泊まるなんて狡いィィィィィ!!」

「ぎゃあっ!!来んなゴリラ!!」

帰って早々、ゴリラ……じゃねーや、近藤さんに襲撃されたのは言うまでもない……。


To be continued……

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