act.14

「鷹居、お前限定で任務が来てる。とっつぁんからだ。」

「えー…、めんどくさっ。山崎さん辺りに押し付けられませんかねぇ?」

「どうしてもオメェなんだと。おら、指令書まで来てんだよ。」

「マジすか。うわ、御大層に封筒に入ってやがる。」

ピリッ

かさかさ…

「えーっと、なになにィ…………なんじゃこりやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?


act.14
こんの兄不孝者めがァァァァァ!!!


畜生、今日は日直以外は皆非番っつー数少ない日だってのに何であたしは屯所に残らにゃならんのだ。

「松平公!!どーゆー事っすか?!何でこんな事オレがしなきゃなんねーんですか?!」

「よォ〜、元気にしてた?紅羽ちゃぐはっ!?

呑気に右手を上げた松平公の言葉が終わる前に兄者の平手打ちが炸裂した。

「松平様、紅刃ですよ、紅刃。私の弟ですからね。」

「あたたた…い〜ィじゃねェかァ〜。今日、女だって知らない奴はいねぇんだしよォ〜。たまには女の子扱いしないと可哀想だよォ〜?」

「貴方に女の子扱いされずとも大丈夫ですよ。紅刃は毎ばぐあっ?!!

今度は私が兄者にラリアットを食らわす。

「残念ながら何にもねーよ。日々清らかに生きてますのでご心配なく。」

「痛いですね。と言うかまだ何もないんですか。いい加減何か事を起こして下さいよ。そうじゃないと怒りますよ。」

「此方が怒りたいよ。」

何考えてんだこの人はホントにもう。
妄想族なんじゃないかって疑いたくなってきたよ。

「あ、とっつぁーん、黒刃殿ー!!来てたんなら上がってよー!!玄関先で何揉めてんのー?!」

兄者の性格について考えていると、近藤さんが現れた。

「おー、ゴリラァ〜。トシと総悟と山崎もちゃんといるかァ〜?」

「居るけど。何で俺達まで残んなきゃならなかったの?紅刃君だけに話があるんじゃないのか。」

「え、残ってんのオレだけじゃねぇんすか?」

「まぁいいからよォ〜。取り敢えず中入ってからってことでェ〜。」

松平公はそう言って、我が物顔で屯所に入っていった……確かにアンタの物だけどさぁ…

*****

「とっつぁん、俺はかなり久し振りの非番なんだが。代休はあんだろーな。」

「俺ァ今日醜い女子格闘技を嘲笑いに行くつもりだったんでさァ。どうしてくれるんでィ。」

「き、今日はミントンの…」

「「オメーは黙ってろ」ィ」

「……酷い…。」

応接間っぽいトコに集められた土方さんたちは思い思いの不満を松平公にぶつけた。

「まぁまぁ〜そぉ〜んなカリカリしねぇでェ。紅刃〜、オメェにやった指令書出せェ。」

「あ、はい。」

苦笑いを浮かべていたあたしに松平公が話を振る。あたしは言われるままに例の指令書を出した。

「じゃじゃーぁん。鷹居紅刃の初・単独任務公開ィ〜」

指令書を手に取ると松平公は盛大にそれを広げる。
流れ的に、皆さんそれを見る訳だが、そこにはこう記してあった。

─────────

指令書

貴公には警察庁長官の愛娘、松平栗子嬢護衛と言う大変栄誉ある任務を命ずる。

ついては下記の日時に指定の場所へ行き、着実に任務を遂行するように。


日時:〇月〇日(日)

場所:大江戸遊園地

任務:栗子嬢に付き纏う、彼氏面の七兵衛(21)を逆ナンし、栗子嬢と引き離す。

健闘を祈る。


警察庁長官 松平 片栗虎
代筆 秘書 鷹居 黒刃

─────────

「「「「何コレェェェェェェ!!?」」」」

「栗子とよォあの牛野郎がまァた付き合いだしてよォ〜。」

「アンタ、またこんな下んねぇ事やってんのかよっ!!」

「下んなくなんかねェェェェェェ!!栗子、もう19だろォ〜?何か結婚まで考え始めちまってよォ〜。こないだとは重さが違ェんだよ。」

「もうほっとけよ!!」

「ほっとけるかァァァァァ!!娘はなァ〜、何時まで経ったってパパの物なんだよォォォォォ!!!」

「気色悪いわァァァァァァァァァァ!!!」

土方さんが松平公としているやり取りからしてどうやら前に一度似た様な事件(?)があったらしい。

何やってんだよ、警察庁長官さんが。

「とっつぁん、とっつぁん。コレに因りゃァ、その牛野郎を逆ナンするみてェだが…」

ギャアギャア騒ぐ松平公に沖田さんが問いかけた。

「そう!!そこっ!!そこっスよ!!沖田さんっ!!」

さっすが沖田さんっ!!あたしが文句言う理由は正にそれな訳なのだっ!!思わず立ち上がって指を突き立てた。

「何で、オレが男逆ナンしなきゃなんねーんスか?!」

「なァ〜んでって、オメー、女の子だろーがァ。」

「そーじゃねぇよ!!これって真選組の仕事じゃなくないっ?!!何でアンタの娘の交際邪魔せにゃなんねーんだよっ!!」

「オジサンだってなァ、ホントは抹殺にしようとしたさ!!紅羽ちゃん危険な目に会わせたくないもの!!でも黒刃がよォ〜。」

「抹殺っ?!!てか発案兄者っ?!!」

不穏な事を言う松平公に驚くがそれより吃驚なのは発案者が物凄い身近でお茶を啜っている事だ。

「アンタ何考えてんだよっ!!妹に何させるつもりなんだよっ!!」

呑気に寛ぐ兄者の肩を掴む。しかし兄者はこの騒動等全く無関係と言う顔で、ふーっ、と息を付き、あたしを見据えて微笑んだ。

「だって、いつもボーイッシュな格好をしている娘が突然可愛い格好になったらもえるじゃないですか。

テメェェェェェェェェェェェェェ!!何だそれっ!!?何かムカつくっ!!その笑顔何かムカつくっ!!てか“もえる”ってどっちの意味だコラァァァァァッ!!!」

掴んだままの兄者の肩を揺らせば素早く手首を捕まれた。

ガッ!!

「え?」

次の瞬間、地に付いていた筈のあたしの膝は浮遊感を覚える。

ビュッ……ダンッ!!

「あでっ!!?」

何時の間にかあたしの背中は兄者の後ろの畳とくっついていた。

「痛いじゃないですか、紅刃。驚きの余り、投げ飛ばしてしまいました。」

「痛いのも驚いたのも此方じゃね?!!」

ホントにこの人は何なんだっ!!
何がやりたいのか理解に苦しむ。

「まぁまぁ、紅刃君も黒刃殿も落ち着いて!」

見かねた近藤さんがあたしを起こしながら言った。

……うぅ、何ていい人なんだ、近藤さん。これでゴリラでストーカーじゃなければ…。

「しかし栗子ちゃんがまたあの牛野郎と……とっつぁん、ここはやっぱり抹殺しかない。ゴリラ13が味方するぜ。」

間違った。
ゴリラでストーカーでこんな性格じゃなければ、だ。
あ、存在否定じゃね?コレ。

「近藤さん、アンタも落ち着けよ。」

呆れ顔で土方さんは言うと、紫煙を吐いた。

「抹殺しようってんなら、鷹居に動かせた方が安全じゃねぇか。女にとっちゃ、浮気は大問題だろうし、そうなりゃもうヨリ戻そうなんざ思わねぇよ。」

ひぃぃぃぃじかぁぁぁぁたさぁぁぁぁぁんんんんんっ!!!アンタは部下を売る気かァァァァァ!!!可愛い補佐を売る気かァァァァァァ!!」

「なっ!?違っ、俺は市民の安全を考えて…」

「違いますぜ、紅刃。土方のアホはアンタの女装が見たいんでさァ。あーやらしー、土方さんのむっつりー。」

「よーし!!勝負だ、剣を抜けェェェェェェ!!!

その前に女装じゃねぇだろ、と言う突っ込みは置いといて…
土方さんの尤もらしい意見は沖田さんによって掻き消されてしまった。
それを皮切りに段々と場の収拾がつかなくなってきた。

「やっぱよォ〜、抹殺しかねぇよ!!殺し屋侍13再結成だァ!!」

「協力するぜ、とっつぁんっ!!」

「なりません松平様!!アンタの不始末は私が無償で何とかしなければならないんですよっ!?無償でっ!!」

「土方さん、誰もむっつりが悪ィなんて言ってやせんぜ。ただ女ウケはしやせんけど。」

「だぁれが むっつりだァァァァァァァァ!!俺は中2かっ?!!てか、逃げんな総悟ォォォォ!!」

「み、ミントンの大会がっ…!!」

あ、山崎さんいたんだ。じゃねーや、徐々に消え行く趣旨と此の騒ぎをあたしはぼうっと見守る。


……何かもう面倒臭ェな。

此の騒動収めんの以上に見てるのが疲れる。あたしは深く息を吸って机を叩いた。


ダンッ!!!

「「「「「「!!?」」」」」」


一気に回りは静まる。あたしはその静寂の中口を開いた。

「松平公っ!!」

「お、おぅ、どうしたァ…?」

「その任務、引き受けましょう。」

あたしの一声に回りは凍り付いた様に動かない。
只兄者だけは嬉々としていたが。

…畜生、何か忌々しいな。

「え、紅羽ちゃん…本当に?ホントにやってくれんの?」

グラサンの向こうで目を屡叩く松平公。
頼んでおいて何吃驚してんだよ、腹立つな。

「やるったらやりますよ。手段はどうあれ栗子嬢とその牛野郎を引き離しゃ良いんでしょう?」

「や、手段は逆ナン何だけどもォ…」

抹殺以外の手段なら、何でもいいですよね。

「まァ、……良いよ……」

あたしはこれ以上無いほどの満面の笑みで松平公に逆ナンを訂正させた。
だってできるわけねーじゃん。逆ナンだよ?このあたしが。無理無理。レジだってマトモに打てねーのに。
すると、あたしの決意を聞いて一番喜んだ忌々しい人物が拍手した。

「さぁ、そうと決まれば御召し替えですよ、紅刃、いえ、紅羽。私服を持ってきなさい。」

「え?着替え?」

「いえいえ、決戦に備え、貴女の私服で一番良い物を皆さんに選んで頂くんですよ。幸い此処には好みの違う殿方が私も含めて6人もいますからね。」

「……黒刃、もしかと思うが俺達を今日残したのはその為か?」

さぁさ、とあたしの背を押す兄者に土方さんが声を掛ける。

「他に何が?」

「………」

にっこり微笑んで兄者は答えた。……土方さん、こんな兄で御免なさい…。

てかあたしの私服で良いのか──?

*****

紅羽が出ていった応接間で沖田が土方に声をかけた。


「…やりやしたねィ、土方さん。紅羽の私服が見れますぜ。」

「だから何で俺だ。」

「惚けてんじゃねぇよ土方コノヤロー。」

「しつこいぞテメェ。違ェって言ってんだろ。」

「おやおや、何だか素敵な話をされてますね。そうなんですか?土方さん。」

「安心しろ、黒刃。何とも思っちゃいねーよ。」

「おや、不満ですね。何とか思って下さいよ。」

「はぁ?」

「吉報を待ってますよ。」

「何のだよ。」

相変わらず笑みを絶やさぬ黒刃に土方は眉間に皺を寄せる。
そうこうしていると、ペタペタと廊下を歩く音が聞こえてきた。

*****

どさっ。

「……紅羽、何なんですか、此は。」

「私服。」

あたしは今ある私服を兄者の前に広げた。

「分かってますよ。そうではなくて、何故こんな物ばかりなんですか?」
兄者は身を乗り出して言う。
こんな物とは……

袴×4着
着流し×3着
スーツ×2着
……何れも紳士物。

「こんな物しか持ってないからです。」

「私が毎月送っている小袖、留袖、被衣、振袖はどうしたんですかっ!!?」

「着方が分かんないので質屋に流しました。

「こんの兄不孝者めがァァァァァ!!!其処に直れェェェェェェ!!叩っ斬ってくれるぅぅぅぅぅぅ!!」

兄者はあたしを斬り捨てんと抜刀する。

「おォォ落ち着けェ!!黒刃!!」

「邪魔立てするなイロボケジジイィィィィ!!!」

「上司にそれはないんじゃないっ?!!オジサン傷付ちゃったたよ!!」

後ろから松平公に羽交い締めにされる兄者。
ちょっとしてやったりで気分が良いったらない。

「まぁ兄者。何も男逆ナンすんじゃなくて栗子嬢を誘惑すれば良いじゃ…」

「こうしては居られませんっ!!今すぐ買い出しに行かねばっ!!」

「…は?」

余裕で兄者をあしらおうとすれば、血走った目で首根っこを捕まれた。

「皆さんも一緒に参りませんか?!その場で全員の好みに合う物を買えば費用が少なくて済みます!!ね、行きましょう!!」

「いや、兄者、何も其処まで…」

「貴女は黙ってなさい!!」

「……はい…」

「さぁ皆さん、行きますよね!?行くに決まってますよね?!行かないと言う人は夜道に気を付けて下さいねっ!!

「「「「「………行きます。」」」」」

そういう訳であたしの大事な大事な非番は兄者の独断により女物買い出しとして消えていったのだった。

……つーか皆さん、こんな兄でホントに申し訳ありません…


Tobe continued……

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